津田白弥(つだ しろや)が絵画大賞を掴んだとき、授賞式の生配信で司会者が聞いた。「津田さん、この道のりで一番感謝したい人は誰ですか?」白弥は迷わず私の名前を出した。昔、私に捨てられたからこそ今の自分がある、と。そして、角膜を提供してくれた善意の人にも感謝を述べた。司会者はわざと悪戯っぽく煽り、白弥に私へ電話して「受賞の喜びを分かち合いましょう」と仕向けた。電話が繋がり、彼は冷たい声で言う。「藤村舞雪(ふじむら まゆき)、俺はもう有名な画家で、資産も数十億円を超えてる。昔お前がこんなポテンシャルがある俺を捨てて、今になって後悔してるんじゃないのか?」私は暗闇の中で手探りしながら丼を探し、麺のスープを一口すすってから真剣に答える。「後悔してるよ。だからさ、今度二百万円くらいの海鮮フルコース奢ってくれる?」「ピッ」という音とともに白弥は電話を切った。通話終了の無機質な音を聞きながら、私は笑った。しょっぱいスープを置き、私はケースから大切にしまってある角膜提供の契約書を取り出す。彼は知らない。その角膜をあげたのは、私だということを。……電話が切れてから十分後、トタンの扉が「ドンドン」と叩かれる。私は手探りで扉まで行き、大きな声で聞く。「誰?」外から青年の声が返る。「代行サービスです。依頼であなたを『花かんざし』レストランまでお連れするようにって」五年ぶりに耳にする「花かんざし」の名に、私は思わず呆然としている。青年の急かす声に我に返り、私は慌ててポケットからサングラスを取り出してかける。私が盲目だと気づいた青年は、特別にレストランの個室まで付き添ってくれた。到着してすぐ、冷たく突き放すような声が響く。「お前、なんで来た」返事をする前に、遠くから明るい女の子の声が飛んでくる。「あら、白弥、そんな言い方しなくてもいいじゃん。私が舞雪さんを招待したんだよ」次の瞬間、布と肌が擦れる小さな音が響く。私の頭の中には、無愛想な白弥の腕に絡みつきながら甘えて、可愛らしい少女の姿が浮かぶ。胸がきゅっと痛んで、それでも心の奥で思う。きっと二人はお似合いなんだろう、と。少女は甘えるように、けれどどこか哀れむ響きも混じって頼んでいる。「だって白弥、配信で舞雪さんが海鮮フルコース食
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