夫の黒川雅人(くろかわ まさと)は、社交界で名の知れたプレイボーイだった。彼の周りには美人が絶えなかった。しかし、彼は私に一目で心を奪われ、私のために、周りにいたすべての女を追い払った。誰もが、私が彼の運命の女性だと言った。結婚して七年、彼の「子供が嫌い」という一言だけのために、私は七度も中絶を繰り返した。父の日のその日、出張中のはずの夫が、秘書のインスタに映っていた。横で子供が元気な声で「パパ」と呼んでいた。つまり、彼の言う「子供が嫌い」とは、私との子供が嫌いだったのだ。涙で視界が滲む中、私はある番号に電話をかけた。「まだ奥さん欲しいの?」向こうから、はっきりとした返事が返ってくる。電話を切り、私は涙を拭った。その時、雅人の秘書からのメッセージが届く。ディズニーランドを背景にした、三人の家族写真だ。子供の顔は、雅人にそっくりだ。すぐに林綾音(はやし あやね)の言い訳も追ってくる。「すみません、奥様。間違えて送ってしまいました。誤解なさらないでください。社長は、父親のいない子を不憫に思って、出張と偽って私たちに付き合ってくださっているだけなんです」稚拙な芝居に、私は一目で見抜ける。「気にしなくていいわ。どうせ私生児でしょ。小さい頃から父親がいなくて、誰にでもパパと呼びかけるのは無理もないわ。林さん、ちゃんと教えてあげた方がいいんじゃない?」次の瞬間、雅人から電話がかかってくる。「川口真澄(かわぐち ますみ)、何てことを言うんだ!拓は私生児なんかじゃない、僕の子だ」その言葉に、私の凍りついた心がまた鋭く痛んだ。「君のために、周りの女を全部断ってきた。綾音だってそうだ。彼女は僕たちの邪魔になるのを恐れて、一人で海外で拓を産んだ。母子だけでどれだけ辛い思いをしてきたと思う」雅人には、彼女たちの七年間の苦労は見えても、私が七度も中絶を重ねてきた苦しみは見えない。電話の向こうで、綾音の泣き声が聞こえる。「社長、やはり奥様は、私と拓のことをお嫌いなんですね。私が悪かったんです。拓を産まなければよかったです。生まれた時から私生児のレッテルを貼られてしまうなんて」「今夜、拓を連れて帰る。これからは、拓は僕が正式に認知した子だ」雅人の声は疑いようもなく強硬で、私が答える間も
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