結婚記念日、本間郁人(ほんま いくと)が式場で起きた爆発で、乗り込んできた昔の恋人・黒川五十鈴(くろかわ いすず)を庇った。私・本間真希(ほんま まき)は緊急手術で、そこへ行けなかった。再び郁人に会った時、彼は血まみれになり、手術台で意識を失っていた。後日、ある人が郁人に、なぜ見ず知らずの人を命懸けで助けたのかと尋ねた。「妻は人命救助に全力を尽くす医者だ。臆病な男を好まないはずだ」周りの人々は感動した。しかし、彼が一番愛してくれた時、私は静かに身を引き、そっと去った。一か月後、国際医療チームの出発式で、記者が私にインタビューした。「先生、あなたのキャリアで最も悔いのないことは何ですか?」私はカメラを見つめ、冷静に答えた。「夫が昔の恋人のために爆発の衝撃波を受けたと知りながらも、自分の手で彼の折れた骨を繋いだことです」――「本間さん、今回の僻地支援医療チームへの参加を希望されるのは本当ですか?」「はい、間違いありません」電話を切り、私は画面に映る写真を見た。人魚の尾のようなウェディングドレスを着た私が、郁人に手を引かれ、花道を歩いている。唇には幸せそうな笑みが溢れていた。そして今、写真の中の男は集中治療室で生死を彷徨っている。他の女を救うために。看護師長がドアをノックして入ってきた。「本間先生、ご主人が目を覚ましました」ガラスドア越しに、私は三日三晩昏睡していた郁人を見た。全身の50%以上が火傷し、胴体と脚部はひどくただれていた。救急室で血まみれになった郁人を見た時、私は手のひらを強く握りしめた。三日前は、私たちの結婚一周年記念日だった。郁人はA市最大の式場で、私のために盛大な晩餐会を企画してくれた。宴会が始まったばかりの頃、私は緊急手術のために呼び出された。私が去った後、不審な男が紛れ込み、体に爆薬を巻き付け、社会への恨みを晴らそうとした。郁人は参列者席の初恋相手である五十鈴を救うため、彼女を引っ張って必死に外へ走り、爆発が起きた瞬間、彼女を自分の下に庇った。三十分後、郁人は血まみれで、無惨な姿のまま、私の前に現れた。傍らにいる無傷の五十鈴を見て、私は感情を押し殺し、助手に緊急手術の準備をするように指示した。自ら執刀し、粉砕骨折した郁人の右足を繋いだ。明け方、
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