うちの母親は料理を一切しないくせに、私・松浦美月(まつうら みづき)を一流のシェフに育て上げようと躍起になっている。お菓子を作っていると、私がマンゴーアレルギーなのを知っているのに、ただのわがままだと思い込んでいる母は、私が使おうとしている材料に無理やりマンゴージュースを加えようとする。私がそれを使おうとしないと、母はすぐに不機嫌な顔になる。「こんなに材料を買ったのに作らないの?もったいないじゃない!」案の定、私はマンゴーに触れたせいで病院送りになったが、それでも母からは責められる始末だ。「自分の体の面倒も見られないの!いい大人して、食べちゃいけないものくらい分かるでしょう?」またある時は、私が豚の角煮を作ろうとすると、母はまた横で腕を組んで指図を始めた。私が包丁を手に肉を塊に切ろうとした途端、母は私の手をぐっと押さえつけた。「違う違う!角煮は薄く切らないと味が染み込まないでしょ!」「でも、角煮って……」母はそんなことお構いなしに、私に無理やり肉を薄切りにさせた。結果、出来上がったのはどっちつかずの中途半端な代物だった。その後、私が和食を学ぼうが、フランス料理を学ぼうが……何を作ろうとも、母は口を出して仕切りたがった。今回は勇気を出して、こっそり料理コンテストに申し込んだというのに。家に帰ると、母はジャム作りに使うはずだった青リンゴを、すでにふじりんごに替えてしまっていた。冷蔵庫にぎっしりと詰まった、母が「苦労して」買ってきた様々な食材と、食卓にぽつんと置かれた一個のふじりんごを見つめる。私はため息をついた。どうやらこのリンゴ一つのために、私は母を捨てるしかないようだ。大型連休の初日、私は新幹線で実家へ向かった。ドアを開けるなり、食卓に置かれたふじりんごが目に飛び込んできた。心臓がどきりとして、私は母に尋ねた。「お母さん!予約してた青リンゴは?スーパーから電話なかったの?」母はテーブルを拭きながら、顔も上げずに答えた。「ああ、スーパーから昨日電話があったわよ。取りに行ったんだけど、青リンゴは酸っぱすぎるじゃない。歯ごたえも悪いし、ふじりんごに替えてもらったの。見て、このふじりんご、立派でしょう。大きくて甘くて、絶対美味しいわよ」そう言いながら、母はふじりんごを一つ手に取っ
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