木崎愛莉(きざき あいり)が坂井陽平(さかい ようへい)のスーツから女性もののショーツを見つけた時から、彼女は彼のもとを去ることを決めていた。翌日も彼女はいつも通り、六時に起床し、陽平のために朝食を作った。七時、彼女は陽平が今日着る服を用意し、ベッドの足元に置いた。八時、彼女は家の掃除を始めた。この数年間、彼女は彼の会社の秘書であるだけでなく、彼の家の家政婦でもあり、さらには夜のベッドを共にする相手でもあった……しかし今日、陽平がまだ起きてもいないうちに、彼の母親がやって来た。「朝っぱらから床掃除なんてして、わざと私を滑らせて転ばせる気?息子はどこなの?」陽平の母・坂井由恵(さかい よしえ)は靴も履き替えず、ずかずかと家に入ってくると、歩きながら文句を言った。「これは何よ。朝から息子にこんなもの食べさせるの?あの子は胃が弱いのよ、こんなので大丈夫なわけ?」彼女は嫌そうにスープをすくって一口味見すると、口をつけたスプーンをそのまま鍋に戻した。愛莉は胸の内の不快感を抑えつけ、彼女を無視した。由恵は、今度はどかりとソファに腰を下ろした。「この間、動画で見た南島がすごく良さそうだったから、航空券を予約しておいてちょうだい。そうだ、ツアーも申し込んでおいてね、その方が安心だから。あと、あんた達が言ってる、あの旅行プラン?あれも作っておいて。それから、数日したら陽平のおじさん一家が来るから、泊まる場所を手配しなさい。今回はおばさんの病気の付き添いで来るのよ。あんたのお父さん、病院で医者をしてるんでしょう?お父さんに言って、便宜を図ってもらうように頼みなさい」愛莉は眉をひそめ、冷たく答えた。「父とはもう何年も連絡を取っていません。その頼みは聞いてもらえません」由恵は、不機嫌そうに愛莉を見た。「あんたの父親でしょ。しばらく連絡してないからって何なのよ。あんたが頼めば、断るわけないじゃない。どうしてそれくらいのことも手伝ってくれないの?」陽平が階下へ降りてきてその言葉を聞くと、眉をひそめ、愛莉に言った。「母さんに口答えするな。ちょっとした頼みだろ。君が一言言えば済むことじゃないか」その言葉を聞き、愛莉は黙り込んだ。ちょっとした頼み?一言で済むこと?彼が私の家庭の事情を知らないはずはない。両親が離婚して
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