膝を抱え、目をつむっていた。 ここはある上級貴族の家。地下一階の監獄に私は閉じ込められている。 破れたドレスに素足。髪の毛は乱れ、もう何日もお風呂には入っていない。パンとスープ、貴族が食べるには質素な食事だけを与えられていた。が、私はその食事も拒んでいる。 もうこんな世界でなんて、生きたくはない。 その時、コツンコツンと誰かの足音がした。「まだ例の力について、何も話さないのか?」「はい。こちらが話しかけても返答しません」 歩いてきた男が私を見張っている看守に話しかけているのが聞こえた。 この男さえいなければ、私の母は――。 ふぅと息を吐き「いい加減、諦めたらどうだ。アイリス・ブランドン」 呆れかえっているかのように、私の名前を呼んだ。 あなたたちさえ、いなければ。 私と母は今まで通り、普通の生活を送っていたのに――。<隠された力>「アイリス、今日は早く帰ってきてね?なんだか嫌な予感がするの」 その日はお世話になっている牧師様に教会で飾ってもらうお花を近くの花畑へ摘みに行こうとしていた。 母は胸を抑えながら、どことなく不安そうに忠告してきたのを覚えている。「ええ。わかったわ。早めに帰るから」 私と母は二人暮らしの至って普通の平民だった。 父はいない、私が生まれる前に病気で亡くなったと母から聞かされていた。 裕福な暮らしではなかった。 学校も出ていない私は、働く場所もなく、街に出て市場を手伝ったり、知り合いから仕事をもらったり、その日暮らしをしていた。 母は身体が弱い。 ここ数年は頭痛や動悸に悩まされているみたいだったが、原因もわからず、ただ安静にしているしかなかった。 母のことは心配だけれど、調子の良い日はご飯を作ってくれたり、私にいろんな知識を教えてくれるから。 社会に出ても特に不自由することなく、なんとか働けていた。 早めに花を摘み、自宅へ帰ろうと急いでいた時だった。 なんだろう、あの集団。騎士さま? 鎧を纏った騎士が家の周りを取り囲んでいた。 どうして?私たちは何も悪いことなどしていないのに。 もしかしてお母様に何かあった? 息を切らしながら走っていくと「止まれ」とある騎士に声をかけられた。「あの、私の家でなにかあったんですか?母は病気で家からあまり出られないんです!悪い
最終更新日 : 2025-09-24 続きを読む