All Chapters of 囚われの聖女は俺様騎士団長に寵愛される: Chapter 11 - Chapter 20

26 Chapters

裏切り 1

「ん……」 温かく気持ちの良い感触を覚え、目を開ける。 私はどうしちゃったんだろう。「えっ?」 目を開けると、カートレット様が目の前で寝ていた。綺麗な顔。 このような顔立ちで力もある方だから、女性にはきっとモテるわよね。 そう言えば、お相手はもういらっしゃるのかしら。 ああ、そんな呑気なこと考えちゃいけない。 横になりながら辺りを見渡すと、ベッドの上にいるみたいだった。  そうだ、倒れたところまでは覚えている。「……。アイリス。起きたか?」「カートレット様。私は……」「あの後、急に倒れたんだ。医者にも診てもらったが、きっと疲労と栄養不足からの貧血だろう。メイドに頼んでも良かったんだが、まだきちんと今後について話せていなかったから。俺のベッドに寝かせた」 また迷惑かけちゃった。って「俺のベッド!?」声に出してしまった。「嫌だったか?」「いいえ。そんな。嫌だなんて。あの、男性のベッドで寝たことがないので。と言いますか、カートレット様のお相手に申し訳ないです」 ハハっと彼は笑い「俺は女性には興味がなくて。早く結婚しろだの相手を見つけろだの、立場上、見合い話はあるが。そういえば、アイリスがはじめてだな。俺のベッドで寝た女性は」  軽く言っているけれど、私は平民で昨日まで監獄の中にいた人間だ。「申し訳ございません。今すぐ離れます。私なんかが近くいるとカートレット様が汚れてしまいます」 慌てて、ベッドから降りようとすると、引き止められた。「汚れているなんて思っていない。そもそも聖女は、汚れていたらなれない。治癒力も与えられないと思う」「ですがっ」「アイリスといると、心が和むんだ。これも聖女の力なのか?」 そんなこと言われたことがないけれど。 男性になんて言い寄られたこともないし、もちろん経験もない。 顔が熱くなる。「アイリス。明日からしばらく俺の屋敷で静養しろ。力のことは今後どうするか、一緒に考える。少し時間をくれないか」 カートレット様のお家で静養をする……?「まずは食事をしっかりと食べて休むことに専念しろ」「ですが……」 ここにいたら、たくさんの人に迷惑がかかるんじゃ。 またオスカーのような人が現れて、私だけではなく、関係のない人たちを傷つけるようなことが起きてしまうんじゃないのかと怖い。「大丈
last updateLast Updated : 2025-09-30
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裏切り 2

 コクっと頷くと「良い子だ」そう言って頭を撫でてくれた。 その時――。<トントントン>ノックの音が聞こえた。「入れ」「失礼いたします」 部屋へ入ってきたのは、隊服を着た騎士だった。 あれ、この人。オスカー邸で見たような。「お楽しみのところ申し訳ございません、隊長。少しご相談したいことがあります」「その言い方はどういう意味だ?」「素敵なレディとベッドを共にしていたので。お邪魔して申し訳ございませんが、至急の事案です」 素敵なレディとベッド……。 この人の目には、そんな風に写っていたのね。 カートレット様は、はぁと溜め息をつき「わかった。アイリス、こいつは副団長のカイル・フォスターだ。俺が居ない時、何か困ったことがあったらこいつに伝えてくれ」 カイル様を紹介してくれた。「はじめまして。アイリス様。カイル・フォスターと申します。よろしくお願いいたします」 ペコっと彼は頭を下げた。「カイル。アイリスに変なことを吹き込むなよ。もし余計なことをしたら……」「わかってますよ。隊長を怒らせると俺以外にも巻き込まれる隊員が出るので。肝に銘じておきます」 カートレット様、怖い人だと思われてるんだろうか。 こんなに優しい人なのに。「アイリス。この後のことは、メイド長に頼んでおくから。ゆっくり休みなさい。もし明日体調が良さそうなら、屋敷の案内する」「はい。ありがとうございます」 カートレット様と離れることが寂しいと感じてしまった。 きっと今、私にはこの人しかいないから。母親の側を離れたくない子どものような不安な気持ちになる。「それと。何かあったらこのブローチに祈ってほしい。俺に繋がるようになっている」 彼は机の引き出しからブルーのペンダントを出し、私に渡した。「良いのですか。このような大切なものを私に」「ああ。キミに持っていてほしい」 私たちのやり取りを見ていたカイル様が「隊長。どこか気分でも悪いんですか?いつにもなく優しすぎて怖いです。男性にも女性にも厳しいのが団長なのに……。まさか、アイリス様は団長の……」 言葉の途中だったが、何かを言いかけたその瞬間、彼の前髪がハラハラと散った。剣の切先がカイル様の目先にあった。「これ以上余計なことを言うと、お前と言えど……」 速すぎて見えなかった。 いつ剣を取り出したんだろう。
last updateLast Updated : 2025-10-01
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裏切り 3

…・…・・…・「以上が報告になります。明日は焼けてしまった屋敷跡地に入り、痕跡を探る予定ですが、期待はあまりできそうにありません」 別室でカイルにオスカー・クライトンについての報告を受けていた。「ああ。それと拘束しているマーガレット・オスカーが何やら変なことを言っていて」 アイリスの力のことか。「アイリス様のことだと思うのですが、あの女にはとんでもない秘密があると。私を減刑にするのであれば、その内容を話すと言っているんですか」 やはりそうか。 アイリスの力のことを皇帝へ伝えることで、極刑を免れようとしているな。「わかった。俺が直接話を聞こう。あとカイル、調べてほしいことがある。アイリス・ブランドンの出生と、最近まで住んでいた家について調べてくれ」「はい」 彼女の治癒力は本物だ。 あの力はどうやって? 自分では幼少の頃、気づいたら発現していたと言っていた。 遺伝か何か、出生を調べれば何かわかるかもしれない。 皇帝へアイリスの力について報告するのもその後だ。…・…・・…・「アイリス様。お食事の内容はいかがでしょうか?」 今日から私直属でお世話をしてくれる、メイドのエリスが食事を運んでくれた。「こんなに豪華なもの、食べていいのかしら」 テーブルいっぱいに並べられた料理に戸惑う。「はい。カートレット様のご命令ですから」 起床後、私は上流貴族のような扱いを受けている。 身なりについても整えられ、何一つ困ることがないような手厚い配慮を受けていた。 体調も全回復とまではいかないが、傷は癒えてきている。 自分の治癒力を自分へ使えばいいことだけれど、母との約束はこれからも守っていきたい。 朝食後、自室で窓の外を見ながら、思考が働かず、ただ時間が流れるままに過ごしていた時だった。「アイリス様。カートレット様がお呼びです」「カートレット様が?」 屋敷を案内してくれるのだろうか。 エリスに連れられ、カートレット様の部屋へ向かう。 ノックし、部屋へ入ると、昨日と同じように隊服に身を包んだカートレット様が座っていた。「アイリス。体調はどうだ?」「おかげさまで元気になりました。ありがとうございます」 席を外してくれとメイドのエリスにカートレット様が伝えると室内は二人きりになった。 彼が私に近寄り、ジッと顔を覗き込んだ。「まだ
last updateLast Updated : 2025-10-02
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裏切り 4

「わかった。では行こうか」 お屋敷の中を案内してもらい、そして外に出て、騎士団の訓練場も見せてもらった。広い敷地、かなりの面積だ。 一般的に騎士は下級貴族と言われてはいるが、カートレット様は違う。 皇帝、皇族直属の騎士団長に認められるはずだけのことはある。「俺の敷地は、結界が張ってある。魔力を感じたり、侵入者がいればすぐ俺が察知する。だから安心して生活をしてほしい」 彼の部屋に戻り、今後について話をしようと言われた。「はい。カートレット様、私に何かできることはないでしょうか?お役に立てることをしたいんです。私の力を使えば、傷ついた騎士たちを治すこともできます」 やみくもに力を使いたくはない。けれど、私にはそれしか役に立てる方法が考えられなかった。「そのことだが。力のことは俺に任せてほしい。アイリスからは誰にもまだ話すな。時が来たら皆に知られてしまうかもしれないが、まだその時ではない」 聖女が現れたなんて言ったら、大騒ぎになるに決まっている。 順番に事を運ばなくては混乱も起こるだろう。「わかりました。では、しばらくお屋敷のメイドとして働かせてください。少しでもお役に立ちたい。雑用でも何でもできることはしますから」「それは……」 私の表情を見て、カートレット様は「わかった」と返事をし「無理はするなよ」私がメイドとして働くことを許してくれた。「まだ体力が戻っていないんだ。俺が良いと言うまでは静養しろよ」「はい」 返事をするとフッと口角をあげてくれた。  それから私はカートレット様からの許可を得て、メイドとして働くことになった。 私のお世話をしてくれた歳も近いエリスが教育係になった。「アイリス、よろしくね。何かわからないことがあったらすぐ相談して」 彼女は私に仕えていた時とは違い、普通に話しかけてくれた。笑顔を向けてくれ、はじめての友達ができた気がして、とても嬉しい。  まだ先のことはわからないけれど、一生懸命働くんだ。
last updateLast Updated : 2025-10-03
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裏切り 5

…・…・・…・一週間後――。「カートレット様。アイリス様の報告書を持って参りました」 カイルがアイリスの出生や過去について調べた資料を持って俺の部屋を訪ねてきた。「アイリス様の証言に嘘はありません。母親はオスカー・クライトンに先日殺されています。生家にも行ってきたのですが、跡形もなく燃えて無くなっていました。遺体も骨の一部すら見つかりません。アイリス様は知らなったみたいですが、母親にはいくつか秘密があったみたいです」 カイルからの報告は、アイリスの父親と母親は駆け落ち同然で結ばれたこと。父親はオスカーの弟であり、家紋を捨ててまでアイリスの母と一緒になった。が、それを良く思わなかったオスカーが弟の暗殺を企てた。逃げるように母とまだお腹の中にいたアイリスは北部へ向かったことなどが記載されていた。「アイリス様の力の出現の理由がわかりません。母親の家系が追えませんでした。情報が何もないんです」「母親の情報が追えないということは、なにかを隠したかった証拠だ。アイリスの力は隔世遺伝かもしれないな。彼女自体は、幼少期に動物の傷を治したく、祈っていたら力が現れたと言っていた。それは本当だろう。母親が力について隠せと言ったのは、聖女の使われ方がわかっていたからだ」 オスカーは弟の妻となったアンについて調べた時に、何か聖女についての情報が得られたのかもしれない。聖女は遥か昔、過去の存在で今は存在しないと言われている。国の記録では、過去にいた聖女は力を利用され、その力を欲した者たちの争いにより殺された聖女や、一生自由を奪われ、皇帝に仕えた者もいた。どちらにせよ、力が出現した聖女は自由な人生を歩めていない。「どうするんですか?団長。オスカーの妻であるマーガレットは獄中でアイリス様の力について話しているようです」「ああ。わかっている」 自分でも理由はわからないが、どこかアイリスに惹かれていた。 惹かれてしまうのは、聖女の癒しの力であるかと思っていたが――。 実際のところ、関っている執事やカイルには得に感情の変化はないみたいだ。  俺だけか、こんなにアイリスのことが気になるのは。 彼女の幸せについて考えてしまう自分が理解できなかった。「皇帝に喧嘩を売るようなことになるかもな」 ハハっと笑うと、カイルは青ざめた顔をしていた。「ま
last updateLast Updated : 2025-10-04
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裏切り 6

「アイリス。どうだ、生活には慣れたか?」「はい!皆さんとても良くしてくださって。助かっています」 屋敷の掃除をしていると、カートレット様が話しかけてくれた。 任務が忙しい彼は、屋敷にいる時間も少ない。 こうやって話しかけてくれることが、私には嬉しかった。「そうか。良かった」 そう言われ、頭を撫でられた。「あの、カートレット様。私って子どもみたいですか?」「いや、そんなつもりはなかったんだが。すまない」 ジッと顔を見ていると、ほんの少しだけ頬が赤いように見えた。「熱でもあるんですか?」 私が彼の頬に触れようとした時――。「いけません。アイリス。カートレット様はご主人様です。簡単に触れてはいけない高貴な方なんです。身の程をわきまえてください」 エリスにパっと手を叩かれた。 彼女の言う通りだ、私が悪い。「申し訳ございません」 深く頭を下げ、謝罪をすると「いや。俺が悪かった。明日は休暇がとれたんだ。もし良かったら一緒に街に出かけないか?選んでほしいものがある」 私に選んでほしいものとは、なんだろう。「カートレット様。アイリスはまだ屋敷に来て間もなく、仕事もきちんと覚えられていません。ご用事で街へ行かれるのでしたら、私が同行いたします」 エリスが私の前にバッと立ちふさがった。 そうよね、私なんかよりこの家の事情をよく知るエリスと買い物に出かけた方が良いわよね。「いや、俺はアイリスに頼んでいるんだ。アイリス、返事は?」「あ……。はい、私で良ければ同行させていただきたいです」「そうか、良かった。楽しみにしているぞ」 そう言うと彼は足早に去って行った。「なんだろう。私に選んでほしいものって。どう思う、エリス?」 ふとエリスを見ると、唇を噛みしめていた。 手を握り、必死に怒りを抑えているといった感じだ。「ごめんなさい。私、気に障った言い方をしてしまっ……」 その時、パシンと頬を叩かれた。「勘違いしないでよね!カートレット様は貴方にだけ優しいわけじゃないの。どこにも行くあてがなかった私にも声をかけてくれて、ここで働かせてくれたわ。貴方だけが特別じゃないの!カートレット様に触れようとするなんて、考えられない!」 怒りからか、ブルブルと震えている。「ごめんなさい」 謝るしか思いつかない。こういう時、どうすればいいの。 
last updateLast Updated : 2025-10-05
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裏切り 7

「そうだ!アイリス、本当にさっきはごめんなさい。謝りたくて」「ううん。私の方こそ、ごめんなさい。メイドとして主人に気軽に触れるなんて、あってはならないことよね。止めてくれてありがとう」 良かった。これで彼女と仲直りができそうね。「それでね、アイリスにお願いがあるの。カートレット様、実は熱があるみたいで。さっき顔が赤かったでしょ。メイド長に相談をしたら、今はお薬がちょうど無くなってしまっているらしくて。カートレット様は、明日は用事があるみたいだから、早く治したいらしいの。熱に効く薬草が近くで採れるから、一緒に摂りに行ってほしいのよ。きっとカートレット様も喜ぶわ」 本当に熱があったんだ。 私の治癒力で治せば……。 そうか、力を使うことは禁じられているし「わかった。もちろん一緒に採りに行くわ」 私が返事をすると、エリスはニコッと笑った。「じゃあ、この後向かいましょう。天気が悪くなりそうだから、すぐに出かけましょうか」  窓の外の雲を見ると、確かに黒くなっていた。 早く行かなきゃ、雨が降り出しそう。  その後、私はエリスと共に薬草を摂りに出かけた。 敷地から出て、山を登る。 土地勘がないから自分がどこを歩いているのかわからないし、斜面がかなり急だった。「あっ、あったわ!」 エリスが指を刺した先に、薬草が生えていた。が、一歩間違えれば危ない崖の上に生えている。 恐る恐る近づく。崖の下には流れが急な川が流れていることがわかった。落ちてしまったら、命はないだろう。 ゴクッと喉を鳴らし、慎重に歩み、手を伸ばした。  これでカートレット様の熱が下がればいいな。 薬草を掴み、振り向こうとした。その時――。「貴方なんて居なくていいのよ。邪魔者。バカな女」 いつもとは違う、低いエリスの声が聞こえ、その瞬間――。 ドンっと思いっきり突き飛ばされ、崖の上から転落をしてしまった。  私の手は空を描く。 叫び声すら出なかった。 着地した先が川の中だった。 ドンっと衝撃が体中に走る。 水の流れに抵抗をし、もがくも息ができない。 ああ、私はこのまま死ぬのね。 カートレット様との約束、守れなかった。 胸のブローチに触れ、最後にもう一度だけ彼に会いたい、そう願った。  ごぼごぼと口の中は水で一杯になり、力が抜けていく。「アイリス
last updateLast Updated : 2025-10-06
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裏切り 8

「はぁっ……。はぁっ……」 まだ苦しい。必死で息をする。 背中を擦ってくれ、呼吸が落ち着いたころ「良かった」 彼にギュッと抱きしめられた。「どうしてカートレット様がここに?」 彼の腕が私の身体を包み込んでくれている。「ブローチに願ってくれただろう?アイリスの意識が伝わってきて、危ない状況だと思い、転送魔法で飛んできたんだ」 そういえば、落ちた時に彼に会いたいと願った。「さぁ、帰ろう。洋服が濡れている。身体が冷えてしまう、早く着替えなければ」 はいと返事をしようとしたが、言葉に詰まった。 私が帰ったらエリスがなんて思うか。落ちる前に彼女の本音が聞こえてしまった。 友達だと思っていたのは私だけだったのね。 私はあのお屋敷の方たちにとって、邪魔な存在。 居なくなった方が皆のためになる。「私は帰れません」 私の言葉を聞き、彼は眉目をひそめた。「なぜだ?」 どうしよう。 エリスのことは話したくはない。 無言でいると、ぽつぽつと雨が降ってきた。 雷が落ちるかもしれない、川の近くだから危ないし。 カートレット様も私を助け全身が濡れている。 そうだ、風邪を引いているんじゃ。「カートレット様だけ先に帰ってください。私はゆっくりその後帰ります」「そんな嘘が俺に通用すると思っているのか?」 声が一層低くなった。 表情からも彼が怒っているように見える。 でも、帰れない。帰りたくない。 私の態度に、ふぅと息を吐き「わかった。とりあえず、ここから避難しよう。近くに洞窟があったはずだ。そこで身体を温めよう」 そういうと彼は私を軽々と抱きかかえた。「えっ。あの、カートレット様、重いです。降ろしてください」 最初に助けてもらった時もこんな感じに抱きかかえられたけれど、今はなんだか恥かしい。「俺がそんなに貧弱な男に見えるのか?」 また怒らせちゃったかな。 しばらく歩くと洞窟が見えた。 彼が薪になるようなものを集め、魔法で火を灯してくれた。 すごい、なんでもできるのね。 感心していると「服を脱げ。熱を奪われる」 そう言うと、彼は自分の上衣を脱いだ。 白い肌が露になる。逞しい筋肉が見え、同時に戦でついたのであろう傷もいくつか見えた。「強引に脱がせたくはない。早くしろ」 いつもより口調が荒い気がする。彼は相当怒っている
last updateLast Updated : 2025-10-07
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裏切り 9

「何があったんだ?なぜ帰りたくないなどと。あそこでの暮らしが不自由だったか?」 耳元でカートレット様の低い声がする。 顔は見えないけれど、今は怒っていないみたい。「そんなことありません。不自由なんかじゃ。カートレット様には本当に感謝しています」「だったらなぜそのようなことを。そしてどうして崖から落ちた。ブローチに願った時、キミは助けを俺に求めた。状況からして、自害したようには感じられなかったんだが。何をしていたんだ」 帰ったら私たちが山へ入った理由なんてすぐにわかってしまうわよね。「カートレット様に熱があると聞いたんです。治癒力を使えば治せますが、皆さんの前で使うわけにはいかないと思って。薬も切れているので、薬草を摘みに行こうと誘われました」 そうだ、今なら治癒力を使える。 「俺がいつ熱を出したと言うんだ?それにこの周辺に薬草があるなんて話は聞いたことがない。俺の敷地には騎士団の稽古場があるんだ。薬なんて切らすはずはない」 「えっ」 じゃあ、最初からすべてエリスに嘘をつかれていたというの? エリスは突発的にあんな行動を取ったんじゃなくて、私を最初から崖から落とそうとするために?「エリス……に誘われたな?」 確信に迫られ、ドクンと鼓動が大きくなった。「そして突き飛ばされた。違うか?」 返事ができなかった。どうしてわかるんだろう。「転送魔法でここへ来た時、エリスの姿が一瞬見えたんだ。彼女はキミを助けようともせず、俺の姿を見て身を隠した。普通であれば、キミの名前を呼んだり、救護しようとするだろう。まさかとは思ったが……」「私がいけないんです。メイドの分際でお世話になっているのに、カートレット様に触れようとしたり、立場をわきまえず行動をしようとしてしまったから」 私がいけないの。私さえいなければ。 今の彼女はイライラすることもなく、普通の生活を送っていただろうに。「俺が許しているんだ。アイリス、キミは俺にとって特別なんだ。俺がもっと皆に理解させるべきだったな」 特別、私が治癒力を持っているからよね。「治癒力だけではない。正直、俺はキミに惹かれている」 まるで私の心の声が聞こえているかのようにそう伝えてくれた。「えっ?」 ドクンドクン、彼の言葉が胸に響き、また鼓動が早くなる。「はじめて会った時から、どうしようもなくキミ
last updateLast Updated : 2025-10-08
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裏切り 10

「良かった。治りました」 私が彼にそう伝えると「ありがとう」 とても柔らかな表情だった。「さっきはキツく当たってしまって悪かった。もうキミを傷つけたくはないのに、助けられなかった自分に苛立った」「いいえ。私こそ。本当のことを伝えるのが怖くて。カートレット様に迷惑をかけてばかりいる自分も嫌で。申し訳ございません」 ペコっと頭を下げた。「あ、カーレット様。こんなところにも傷が……」 彼の頬に数センチほどの切り傷があった。 先ほどと動揺、岩で切ってしまったんだろう。  私が彼の頬に手を添え、力を使おうとすると「すまない。もう我慢ができない」「えっ?」 彼は私の顎を持ち、チュッと唇を合わせた。 温かい、この感触。さっきも……。 唇が離れ「カートレット様、もしかして先ほども私に空気を送るために?」「ああ。後先考えていられなかったからな。唇を重ね、空気を送った」 あれは私を助けるためだったかもしれないけれど、今のキスがはじめてじゃないんだ。「私からも……。したいです。カートレット様が許してくださるのであれば」 彼はクスっと笑い「良いに決まっている」 そう言ってくれた。 私は彼の頬に手を添え、治癒力で傷を癒したあと、そのまま彼の唇に自分の唇を合わせた。 好きな人とのキスは、こんなにも幸せな気持ちになるのね。 フフっと笑ってしまうと「アイリス。キミは俺が守る。信じてくれ」 そう言われ、誓いのキスともとれるほど、熱くて深いキスをされた。 しばらくは二人で抱き合っていた。 彼の腕の中は安心するし、離れたくないと思ってしまう。 キスももっとしたかったけれど「この格好でキスを続けたら、それ以上のことをしたくなる」 そう言われ、止められた。 その時のカートレット様はまるでテレている子どものように恥かしそうにしていた。 二人で帰宅をし、メイド長をはじめ皆から心配をされた。「どこに行ってらしたんですか?アイリスも急に姿が見えなくなるし、ご主人様も急にいなくなったとカイル様が随分探していらっしゃいましたよ」 メイド長は私に何が起こったのか、知らない様子だった。「悪かった。エリスは帰っているか?呼び出してくれ」 エリス、どんな顔をして会ったら良いか。  しばらくすると俯いたエリスが広間に顔を出した。 ここには今、屋
last updateLast Updated : 2025-10-09
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