Masuk平凡な家庭で育てられた、アイリス・ブランドン。 彼女はある「力」の存在を隠しながら暮らしていた。 ある日を境に力の存在を知った上級貴族から狙われ、彼女は幽閉されてしまう。 そこへ現れたのは王都直属の騎士団を率いる、上級騎士のレオン・カートレットだった。 自分の人生に絶望したアイリス。 レオンから言われた一言によって、もう一度「生きたい」と願い、歩み出そうとするも――? ※このお話は時代背景ともにフィクションです。 ※イラストは武田ロビ様に描いていただきました。 イラストの無断転載・転用、二次利用禁止です。
Lihat lebih banyak…・・…・…・・…・・「報告は以上です。皇帝陛下」 王座の間。 アイリスについての報告のため、皇居を訪れていた。「うむ。それでアイリス・ブランドンは、その日を境に全く力が使えなくなってしまったということだな」「はい」 アイリスはあの日以降、治癒力が使えなくなった。 いや、正確に言えば力が弱まってしまった。 容姿が変わるほどの力の発現が原因なのではないかと思う。「そこで皇帝陛下、私に提案があります」「なんだ?」 陛下はヒゲを整えながら、珍しいなという風に興味を抱いているようだった。「彼女の治癒力が再度現れる可能性は大いにあります。そのため、彼女を狙ってくる奴等も多いでしょう。それは帝国にとっても敵。逆に彼女が居れば、こちらが有利に働くこともあります。聖女の力は傷を癒すだけではなく、祈りにより人々の心を救います。彼女を守るのは、私に任せてもらえませんか?」「ほう……」 陛下は「任せるとは……?」確信的な部分に触れてきた。「アイリス・ブランドンと結婚をさせてください。この国で一番戦力があるのは私です。夫となり、彼女を守りながら力を引き出し、二人で人々を救います」 皇帝は話を最後まで聞き「承認をしよう。聖女は貴重な存在だ。また力が発現できるよう努めてくれ。国にとっても有益な人物になるだろう」 そう答えた。「ありがとうございます」 俺が頭を下げると「もしも私がダメだと言ったら、どうしていた?そちらを考える方が怖いわ」 ハハハっと声を出して笑った。 皇帝の様子につられて口角が上がってしまったが、もしも許可が下りなかった時、その時はーー。「レオン!おかえりなさい!」 皇居へ向かった後、帰宅をするとアイリスが笑顔で出迎えてくれた。「ただいま」 彼女を抱きしめ、頬にキスをする。 まさか自分にこのような大切な存在ができるとは思わなかった。「陛下は理解してくださった。今度二人で挨拶に行こうか?」 アイリスには事前に全て説明をしていた。「もしも力が戻ったら、人々のために使いたい」そう言ってくれたのは彼女だった。「はい」 彼女は最初に出逢った時と全く違う表情、頬には赤みがさし、目には生気が宿っている。「これからも俺についてきてくれるか?」「もちろんです。誓います」 彼女は迷いもなく、そう笑顔で答えてくれた。…
「間に合って良かった」 彼はそう言うと剣が腹部に刺さったまま、騎士の首に肘をつき、彼を気絶させた。「ぐっ……」 腹部から剣を抜くと鮮血が辺りに飛び散り、レオンも倒れてしまった。 彼を抱き起こし、腹部に力を注ぐ。「絶対に死なせない!」 お願いだから、治って! 願うも彼の出血は止まらなかった。「……。アイリス。逃げ……ろ。致命傷になった傷は……。聖女でも治せないと聞いた」「嫌!絶対に治す!あなたは私が死なせないから!」 お願い、お母様!助けて! その時、魔導師が近くに現れ「お前は兄を殺した。復讐がやっと叶った」 ニヤリ笑って、こちらを見ている。「逃げろ……。お前だけでも……」 レオンが震えているのを感じた。 顔色も悪くなっている。「愛してる……から」 彼の視界はボヤけているようで、目線が合わなかった。 いやよ、いやだ。神様、どうか……。 私の力がなくなってもいい。 一生使えなくても良い。 私の命と引き換えでもいいから! どうか、助けてください! 彼を抱きかかえながら祈る。「バカだな。二人そろって死ね!」 魔導師が私たちに向かって火を放った。 その刹那――。「なぜだ。何が起こっている」 自分でもわからなかった。 私の髪の毛は金髪になり、光が私たちを包んでいる。「アイリ……ス?」「レオン?」 彼を見ると顔色も戻り、血も止まっていた。「片目と髪色が金色になっている?」 自分ではわからなかったが、レオンが私の容姿を見て呟いた。「もう一度だ!死ね!!」 先ほどよりも大きな火の玉がこちらに向かって飛んできた。 レオンが呟くと私たちの前にシールドができ、炎を弾いた。「先にあいつを倒す」 彼はスッと立ち上がり、剣を腰から抜いた。 魔導師が慌てて何かを放とうとするも、彼の早さにはついてこれず、切先が身体を二つにした。「全て燃えろ」 レオンが唱えると魔導師の身体は青い炎に包まれ、一瞬にして炭になった。「レオン、どうなっているの?」 気づけば私の髪色と目の色は黒に戻っていた。「俺にもよくわからない。が、本来の聖女の力が最大限に引き出せたのではないかと思う」 それよりも……と「ケガはないか!?」 カバっと両腕を掴まれ、ジッと顔を覗き込まれた。「大丈夫。レオンが守ってくれたから。レオンは
次の日――。 レオンは、休暇が取れたから街に出かけようと言ってくれたが、急な仕事が入ってしまったらしく、私はできる限りの雑用をこなしていた。 彼が今まで通りの生活ができるよう、配慮してくれたのだ。 執事長とメイド長はなんだか態度がぎこちないけれど、役に立ちたいという想いが強くなった。 二週間後――。 レオンと共に街に出かける機会ができた。 私も王都へ行ったことがなかったので、楽しみにしていた。レオンが用意してくれたドレスを着れることも嬉しい。「綺麗だ。似合っている」 そんな言葉をかけられ、浮かれていたのかもしれない。 いつものブローチをせず、ドレスに合った色合いのブローチを選択した。「レオンが一緒だから大丈夫よね」 不安要素などなかった。 二人で街を歩いていると「泥棒だ!誰か!助けてくれ!!」 そんな声が聞こえた。「レオン!行ってください!私は大丈夫です。騎士様たちと一緒にいるので」 私たちには一応、護衛の騎士、三名が同行していた。「わかった!すぐ戻る」 レオンは一人の騎士をつれ、声の方向へと走って行った。「アイリス様。巻き込まれたら危ないです。避難しましょう」 二名の若い騎士と一緒に、乗ってきた馬車が駐めてある広場へと移動している時だった。 黒服の男が急に現れ、私たちの前に立ちはだかった。「なんだお前は!?」 以前見たことのある、魔導師に似ている。 けれど、あいつはレオンが倒したし……。 騎士が剣を取り出そうとした時――。「うわぁぁ!!」 魔導師が何かを唱えたかと思うと、もう一人の騎士を刺していた。「な……」 ガクンと膝から崩れ、地面には血だまりができている。こんな深い傷、早く手当てをしなきゃ。 でも治癒力を使ったら……。 ううん、そんなことを考えている時間はないわ。 私は意識を集中させ、倒れている騎士に力を注いだ。「う……、あ……」 良かった、意識は取り戻したみたい。 ホッとしたのも束の間「アイリス様、離れてください!身体がいうことをきかない……!」 騎士の剣の切先が私へと向けられていた。 魔導師に操られているの? レオン、助けて……。 ブローチへ願おうとした。 けれど、今日は着けていないんだった。 自分の状況に絶望と恐怖を感じる。 騎士の剣が私に振り下ろされる
彼の部屋の前で深呼吸をし、ノックをする。「アイリスです。夜遅くに申し訳ございません。どうしても会いたくて」 私がドア越しに声をかけると「アイリス。どうした?こんな時間に」 彼は驚いていたが私を部屋に入れてくれた。「あのっ」 私が話そうとすると「レディが屋敷の中とはいえ、こんな時間に一人で出歩くのは感心しない」 腕組みをしながらソファに座った彼に行動を咎められた。「申し訳ございません」「しかし正直なところ、アイリスが俺の部屋へ訪問してくれることは嬉しい。だから今度からブローチへ願え。そうすれば迎えに行くから」 あれ、怒っていない。いつもの彼だ。「カートレット様に謝りたくてきたんです。エリスの件で私が発言したことを謝罪させてください。私は何もわかってはいませんでした」 深く頭を下げた。「いや。あんなことをして、アイリスに嫌われてしまったかと思った。お前が被害に遭ったんだ。きちんと意見を聞くべきだったな。すまない。今日は夜遅いから。部屋へ戻ってゆっくり休んでくれ」 彼はそう言うと、私を部屋へ送っていくと立ち上がった。 なんだか嫌われてしまった気がして、ツーと私の目から涙が零れた。「嫌です。カートレット様、私のこと、嫌いになってしまいましたか?強情な自分勝手な女だって」 はじめて恋というものをしたからだろう。 自分の感情がよくわからない。 心が繋がった相手と気持ちが離れてしまうのが怖い。 フッと笑い「そんなわけないだろう」 彼はギュっと私を抱きしめてくれた。「カートレット様。私はあなたからずっと離れません。だからあのようなことは言わないでください。これからは私があなたを支えていきたい。愛しています」 自分の口から愛しているなんて言葉が出てくるなんて思わなかった。 彼は強く私を抱きしめ返し「ああ。ずっとそばにいてくれ。愛している。俺がお前を守るから」 涙を拭いながら、優しく微笑んでくれた。 その夜は忘れない。はじめて身体を重ねた。 唇が腫れるんじゃないかと思うほど、キスを繰り返し、お互いを求めた。「ん……っ、あぁ!」 胸の膨らみの下をチュッと強く吸われ、声が漏れる。「俺のものだという印だ」「は……い。カートレット様のものです」 私が悶えながら答えると「レオン。名で呼んでほしい」 これを意味することが