私は頷いた。「そうだったんでしょうね。でも、今の私にはもうどうでもいいことよ」彼は首を横に振った。「違うんだ。あの時はただ、彼女に海外での経験があって、会社をもっと成長させられると思っただけで……まさか、あんなことになるなんて」そこまで言うと、彼は苦しそうに両手で髪をかきむしった。「君の言う通りだ。この十年、俺は少しも成長していなかった。それどころか、君に守られるうちに自分を見失って、彼女の口車に乗せられて……君が手ずから築き上げた桐生グループを、この手で葬ってしまったんだ」私は少し驚いた。まさか、あの出来事にそんな裏があったなんて。でも、今となってはもう関係のないことだ。私が黙っているのを見て、彼は続けた。「君が俺を庇って、十数人のチンピラとやり合った時のこと、覚えてる?」覚えているに決まっている。今、少し体を動かしただけですぐに息が切れるのは、すべてあの事件のせいなのだから。桐生グループがその後、息を吹き返せたのも、あの時得た600万円の賠償金があったからだ。「君が集中治療室に運ばれて、医者から危篤だって三度も宣告されたんだ。あの時、俺がどれだけ怖かったか、君には分からないだろう。君を失うのが怖かった。もう二度と会えなくなるんじゃないかって。あの時、君が俺のすべてだと思った。命懸けで自分を守ってくれた女性なんだ。君が目を覚ましてくれさえすれば、この先一生、何があってもそばを離れないと、心に誓ったんだ」彼の言葉に心を動かされたのか、それとも当時の自分の境遇を思い出したのか。その言葉を聞いて、私は不覚にも涙がこぼれそうになった。そこまで言うと、彼は苦しそうに首を振った。「なのに、どうしてだろう。いつから君への気持ちが分からなくなってしまったのか。本当に愛しているのかさえも……だから、あんなことを」そう言って、彼は顔を上げて私を見つめ、高ぶる感情のままに私の手を掴んだ。「でも、今はもう分かる。俺は君を愛してる。心の底から愛してるんだ。知ってるかい?この数ヶ月、毎日君が会社を行き来するのを見ていたんだ。その度に、駆け寄って謝りたい、もう一度やり直してほしいって、そう思ってた。でも、十年も俺を愛してくれた君を、あれだけ傷つけておいて、どの面下げて許してくれなんて言えるはずがないって、分かってた
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