マダム・プラムのジープは、イージス・セキュリティの装甲車が残した轍を、執拗に追い続けていた。やがて荒野にそびえ立つ、軌道戦争時代の遺物である古い通信中継タワーのシルエットが見えてくる。その麓には、複数の軍用テントが円陣を組むように設営され、いくつかの焚き火が赤い光を放ち、武装した傭兵たちの影を揺らしている。奴らの野営地は、おそらくあそこだ。荒野の夜風が、俺たちの体温を容赦なく奪っていく。「いいこと、ザッキー?」プラムはハンドルを握りながら、ニヤリと笑った。「アタシがあのタワーの正面で、派手にパーティーを始めてあげる。その隙に、アンタたちは裏から忍び込んで大事な『お宝』を取り返してくるのよ。分かった?」「……分かったよ。ただし、しくじるなよ、プラム」「アタシを誰だと思ってるの?」 プラムはそう言うと、ジープのアクセルを全開にした。彼女は車に搭載された拡声器のスイッチを入れると、けたたましい音楽を鳴らす代わりに、彼女自身の甲高い声が荒野に響き渡った。「泥棒猫どもー! アタシの大事な商品を返しなさーい! さもないと、このマダム・プラムが、自慢のネイルでひっかいてやるわよー!」 ジープは、意味不明な罵詈雑言を撒き散らしながら、タワーの正面ゲートへと突っ込んでいった。すぐに傭兵たちの怒声と、威嚇射撃の音が響き渡る。陽動は、始まった。プラムは、傭兵たちとまともに撃ち合うつもりなど毛頭なく、ただひたすらにジープを走らせ、彼らの注意を引きつけながら逃げ回っていた。「今だ! 行くぞ!」 俺とイリスは、ジープから飛び降り、野営地の裏手にあるフェンスへと駆け寄った。「警備センサーが三つ。それに、見張りが二人……」イリスが、ゴーグル越しに敵の配置を分析する。「いや、待て」俺は、彼女を制した。なぜか分からない。だが、俺の勘が、左手のルートは危険だと告げていた。「右だ。右の給水タンクの裏から回り込む」「……あなたのその勘、本当に信用できるの?」イリスは訝しげに言うが、先の戦闘で、俺の直感が何度も危機を救ったことを思い出しているのだろう、彼女は黙っ
Huling Na-update : 2025-10-26 Magbasa pa