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Lahat ng Kabanata ng AIDA:残響のオービット: Kabanata 11 - Kabanata 20

21 Kabanata

第11話 奪還と対話

 マダム・プラムのジープは、イージス・セキュリティの装甲車が残した轍を、執拗に追い続けていた。やがて荒野にそびえ立つ、軌道戦争時代の遺物である古い通信中継タワーのシルエットが見えてくる。その麓には、複数の軍用テントが円陣を組むように設営され、いくつかの焚き火が赤い光を放ち、武装した傭兵たちの影を揺らしている。奴らの野営地は、おそらくあそこだ。荒野の夜風が、俺たちの体温を容赦なく奪っていく。「いいこと、ザッキー?」プラムはハンドルを握りながら、ニヤリと笑った。「アタシがあのタワーの正面で、派手にパーティーを始めてあげる。その隙に、アンタたちは裏から忍び込んで大事な『お宝』を取り返してくるのよ。分かった?」「……分かったよ。ただし、しくじるなよ、プラム」「アタシを誰だと思ってるの?」 プラムはそう言うと、ジープのアクセルを全開にした。彼女は車に搭載された拡声器のスイッチを入れると、けたたましい音楽を鳴らす代わりに、彼女自身の甲高い声が荒野に響き渡った。「泥棒猫どもー! アタシの大事な商品を返しなさーい! さもないと、このマダム・プラムが、自慢のネイルでひっかいてやるわよー!」 ジープは、意味不明な罵詈雑言を撒き散らしながら、タワーの正面ゲートへと突っ込んでいった。すぐに傭兵たちの怒声と、威嚇射撃の音が響き渡る。陽動は、始まった。プラムは、傭兵たちとまともに撃ち合うつもりなど毛頭なく、ただひたすらにジープを走らせ、彼らの注意を引きつけながら逃げ回っていた。「今だ! 行くぞ!」 俺とイリスは、ジープから飛び降り、野営地の裏手にあるフェンスへと駆け寄った。「警備センサーが三つ。それに、見張りが二人……」イリスが、ゴーグル越しに敵の配置を分析する。「いや、待て」俺は、彼女を制した。なぜか分からない。だが、俺の勘が、左手のルートは危険だと告げていた。「右だ。右の給水タンクの裏から回り込む」「……あなたのその勘、本当に信用できるの?」イリスは訝しげに言うが、先の戦闘で、俺の直感が何度も危機を救ったことを思い出しているのだろう、彼女は黙っ
last updateHuling Na-update : 2025-10-26
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第12話 軌道戦争の真実

 遠くでマダム・プラムが立てる陽動の騒音がまだ微かに聞こえている。静かで、しかし張り詰めた指令テントの中で、俺、イリス、そしてエイダは、銃口を下ろしたガシュレー・ウォードと向き合っていた。彼の仲間たちは、まだ警戒を解かずにこちらを囲んでいる。 この奇妙な均衡を破ったのは、俺だった。 「なぁ、お前たちは一体何なんだ? どうしてエイダを狙う?」  俺の問いに、ガシュレーは難しい顔をしてしばらく考えていたが、やがて、仕方ないといった様子で重々しく口を開いた。「……これは、絶対に内密にしてもらう必要があることだが」彼は、俺とイリスの目を真っ直ぐに見据えて言った。 「我々は、とある機関から依頼されて、軌道戦争時代の遺物の保管、もしくは破壊を行っている。特に、エイダのような高性能なアンドロイドやAIであれば、最優先事項だ」 「なぜだ?」俺は聞き返した。  ガシュレーは深いため息をついてから、続きを話し始めた。 「お前さんもジャンク屋生活が長いんだから、聞いたことがないか? 軌道戦争の末期の戦いのことを」 「いや、あまり詳しくは知らないが……。軌道戦争の末期は、核兵器や衛星軌道からの質量兵器、高エネルギー兵器が使われた、地獄のような有り様だったってくらいかな」俺はイリスに視線を向けた。 「イリス、あんたは何か知ってないか?」 「いいえ、私の知識も似たようなものね。それが原因で地球環境が汚染され、私の所属する地球再生局が誕生し、現在も不審者が近寄らないように危険地帯を管理している。それくらいかしら」  ガシュレーは、俺たちの答えに重々しく頷いた。 「一般的にはそうだ。……だが、真実は少し違う。これは極秘にされていることだが、軌道戦争の末期、AIが人類に反旗を翻したんだ」 「えっ? それは本当か?」  俺は、そんな安っぽいSF映画のようなことが本当に起きたのかと、半ば疑いつつも、ガシュレーの真剣な様子から、彼が嘘を言っているとは思えなかった。「ああ。専門家が解析して分かったことだが、戦争当時の大国の軍事AIが、勝利のために最善の戦略を計算した結果、『人間の判断ミスを削減するため
last updateHuling Na-update : 2025-10-27
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第13話 裏切りと分断

 マダム・プラムの絶叫を合図に、テントの入り口を引き裂いて、黒豹のようにしなやかで、滑らかな漆黒の装甲を持つ大型の犬型戦闘ドローンが五機、低い駆動音を立てながらなだれ込んできた。その赤いバイザーが、冷たく俺たちを捉える。その動きは、獲物を前にした肉食獣の群れそのものだ。ドローンたちは、俺たちだけでなく、ガシュレーたちイージス・セキュリティにも一斉に銃口を向け、テント内は三つの勢力が銃口を向け合う、絶望的な緊張感に満ちていた。「あら、ガシュレー。こんなところで『にらめっこ』している場合かしら?」  プラムは、背後にドローン部隊を控えさせ、余裕の笑みを崩さずに言った。  テントの外から、傭兵たちのうめき声が聞こえてきた。 「隊長! ホルヘの奴がやられました!」 「くそっ!」ガシュレーは悪態をつき、プラムを睨みつけた。彼は銃でドローンを牽制したが、その攻撃はドローンの装甲に弾かれる。数の上でも、火力の面でも、状況は圧倒的に不利だった。彼は、残った部下と共に、体勢を立て直すために一旦テントから出ていった。「さて、これで五対二ね」プラムは、俺とイリスに視線を戻した。 「知らない仲じゃないし、別にあんたたちを蜂の巣にしたいわけじゃないわ。大人しくあのアンドロイドを渡しなさい」  イリスが、諦めたように、手にしていたアサルトライフルをカチャリと音を立てて地面に置いた。 「おいおい、何だよ。あっさり諦めんのか?」俺が問うと、 「ザック、今のままじゃ勝ち目がないわ。あなたも手を上げて」  そう言ってイリスが両手を上げた。  それを見たプラムは、満足げに笑みを浮かべた。 「ふん。物わかりの良い人間は好きよ」そして、エイダに向かって顎をしゃくる。「さあ、こっちに来なさい」  エイダは、判断を仰ぐように、俺に顔を向けた。その蒼い瞳には、戸惑いの色が浮かんでいる。 俺は、彼女にだけ聞こえるように、小さな声で言った。「今はあの女に従うんだ。後で必ず助けに行くからな。待ってろ」  プラムは、そんな俺の言葉を聞いて、せせら笑った。 「あらあら、どうしちゃったのかしら? こんな『お人形』さんに入れ込んじゃって
last updateHuling Na-update : 2025-10-28
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第14話 エクアドルへの飛翔

 混乱が収まりつつあるイージス・セキュリティの野営地。俺は、腕の中に残されたエイダの頭部を抱え、ただ呆然としていた。胴体を奪われ、彼女はもう二度と動かないのかもしれない。マダム・プラムへの怒りと、自分の無力さへの絶望が、胸の中で渦巻いていた。「……ザック」  イリスの声に、俺ははっと顔を上げた。彼女は、俺の隣に膝をつき、心配そうにこちらを見ている。 「……まだ、終わってないわ。彼女のコアユニットはここにある。何か方法があるはずよ」  その言葉に、俺は我に返った。そうだ。諦めるのはまだ早い。俺はジャンク屋だ。ガラクタに命を吹き込むのが、俺の仕事だ。  俺はエイダの頭部を抱え、ガシュレーが使っていた指令テントへと向かった。 テント内のポータブル電源に、背中のバッグから取り出した、ありあわせのジャンクパーツとバイパスケーブルを手早く組み合わせ、俺はエイダの頭部ユニットに再び慎重に接続した。頼む、動いてくれ……! 祈るような気持ちでスイッチを入れると、彼女の蒼い瞳に、まるで深海から光が差し込むように、ゆっくりと命の光が灯った。その瞳が、俺の顔をじっと見つめる。 『……ザック……グラナード……ここは?』 「ここはさっきまでお前が寝ていたテントの中だ」俺は、安堵で声が震えるのを必死に堪えた。『……わたし……私の胴体はどこにありますか?』 「どこにあるかは分からん。プラムの奴に持っていかれちまったよ」俺は、目に涙をためながら言った。 「でも、こうしてまたお前と会話ができて、本当に良かった……」 『……そうですか』  エイダはそう言うと、また少しの間目を閉じていたが、再び俺を見つめた。ちょうどその時、イリスとガシュレーが、心配そうにテント内に入ってきた。『……ザック・グラナード』エイダは、決意を秘めたような、以前よりもはっきりとした声で言った。 『……私の中のデータベースと照合し、胴体だけを持っていった者が取りうる行動を推測しました。……私の胴体は、月の裏側の基地にある戦略AI「ゼータ・プライム」を起動させる鍵です。……「ゼータ・プライム」を用いて何をするかは不明です
last updateHuling Na-update : 2025-10-29
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第15話 軌道エレベーター

 イージス・セキュリティの野営地を後にしてから、一時間が経過していた。既に午後十時を回っていて、俺たちを乗せた新型のティルトローター機は夜の雲の上を滑るように、一路エクアドルの軌道エレベータへと向かっている。機内では、イリスが今回の協力者である少年エージェント、如月ジンに、これまでの経緯をかいつまんで説明していた。「……そういうわけで、今はオムニテックとマダム・プラムに奪われたエイダの胴体を取り返すことが、私たちの当面の目的ね」 「うーん、大体わかったけどさ」ジンは、操縦桿を握りながら、気だるそうな声で質問してきた。「そのエイダの胴体が、もう敵の通信装置に使われてた場合はどうすんの?」  その問いに答えたのは、俺の腕の中に抱えられたエイダの頭部ユニットだった。俺が繋いだポータブル電源で、彼女の意識ははっきりしている。 『……私の胴体が、すでに専用の通信装置に設置されていた場合、この頭部を胴体に再接続してください』エイダは、静かな、しかし確かな意志のこもった声で言った。 『……私が、直接ゼータ・プライムを止めるしか方法はありません』  その言葉に、俺は嫌な予感がして尋ねた。 「なぁ、他に方法はないのか。お前自身を危険に晒す以外の方法が」 「……はい。ありません」  エイダの覚悟を感じ、俺はぐっと言葉に詰まった。そして、決意を固めて頷く。 「……分かったよ。その時は、俺が必ずお前の頭を胴体に接続してやる」 そのやり取りを聞いていたガシュレーが、腕を組みながら重々しく口を開き、状況をまとめた。 「ならば、作戦目標は二段階だ。エイダの胴体を取り返すのが第一目標。それが間に合わない場合は、ザックとエイダの頭部ユニットを守り、敵の通信装置まで送り届けるのが、第二目標となる。いいな!」  その言葉に、機内にいた全員──俺、イリス、ジン、そしてガシュレーの部下であるイージス・セキュリティの傭兵たちが、一斉に力強く頷いた。 しばらく進むとティルトローター機の窓から、信じられない光景が見えてきた。眼下に広がる雲海を、まるで白い槍のように貫き、その先端は遥か宇宙空間へと消えている。白く輝く、巨大な塔。軌道エレベーターだ。
last updateHuling Na-update : 2025-10-30
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第16話 軌道エレベータの攻防

 不本意ながらプラムをチームに再び加えた俺たちは、息つく暇もなく、巨大な塔の入り口へと向かった。  内部は、空港のターミナルのように広大だった。だが、その静寂を破るように、警報と共に無数の戦闘ドローンが姿を現した! 犬型や、電磁リフトファンで浮遊する球状のドローンが、通路の奥から波のように押し寄せてくる!「くそっ! やはり待ち伏せか!」ガシュレーが叫ぶ。 「隊長、ここは俺たちに任せて先に進んでください! 奴らを食い止めます!」 「そうです! 早くメンテナンス用エレベータに向かってください!」  ガシュレーの部下であるライカーとソーニャが、ドローンの群れとの間に立ちはだかった。「こっちよ、ザッキー!」プラムが叫ぶ。彼女のガイドで俺たちはドローンの攻撃を掻い潜り、メンテナンス用エレベータへと走った。  エレベータを待つ間もドローンは執拗に襲いかかってくる。だが、ジン、イリス、そしてガシュレーの三人が、的確な射撃でそれらを次々と撃ち落としていく。 「早くエレベータに入れ!」ジンは最後まで俺たちを庇うようにドローンを迎撃し、最後に自身もエレベータに飛び込んだ。 上昇を始めたエレベータの中で、ガシュレーが悔しそうに呟いた。 「やはり、待ち伏せられていたか」 「そうだな。くそっ!」俺は悪態をついた。 「ザック、焦っても今は何もできないわ」イリスが、俺の肩にそっと手を置いた。「乗り換え地点まで、まだ40分以上ある。今は体を休めましょう」  彼女はそう言うと、壁を背に座り込んだ。 「……取り乱してすまない。俺も少し休む」俺は壁を背に座り、目を閉じた。 やがてエレベータが終点に着く。俺たちは待ち伏せを警戒し、扉が開くタイミングで銃を構えていたが、そこには誰もいなかった。静かな乗り換え用のステーションだ。 「で? どっちなんだ?」俺がプラムに聞くと、 「さぁ? 最初のエレベータでローウェルの野郎が裏切って私を撃ってきたから、私が知ってるルートはもう終わりよ」  その言葉に、俺たちは呆れるしかなかった。ガシュレーが、プラムの顎に銃口を突きつける。
last updateHuling Na-update : 2025-10-31
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第17話 低層ステーション

 メンテナンス用エレベーターのドアが閉まると、俺たちを乗せた箱は静かに、しかし確かな速度で上昇を始めた。ガシュレーとジン、そしてイージス・セキュリティの仲間たちを残し、向かう先は軌道エレベーターの低層階層。そこには、ローウェル・ケインと、奪われたエイダの胴体が待っているはずだ。 エレベータの中は、駆動音以外は静かだった。俺は、リュックサックに入れたエイダの頭部を胸に抱き、壁に寄りかかる。イリスは、その隣にそっと腰を下ろした。「ザック、さっきはありがとう」彼女は、少し顔を赤らめつつ、礼を言った。「あなたの勘には、助けてもらってばっかりだわ」 その心からの言葉に、俺も照れくさくなった。「いやぁ、昔から勘は良い方でさ。ジャンク屋なんてヤクザな商売で生き残ってこれたのも、この勘あってのものだよ」「そういえば……」俺は、ずっと気になっていたことを尋ねた。「なんでイリスは地球再生局に入ったんだ? 何か事情があったみたいだが」 俺の問いに、イリスは少しだけ遠い目をして、静かな駆動音だけが響くエレベーターの中で、ぽつりぽつりと語り始めた。その声は、いつもより少しだけ低く、抑揚がなかった。「……私は古い鉱山町、レッドウォーター・クリークというところに生まれたの。少し汚染の影響が強いところで、原因不明の病に苦しんでいる人が多かったわ。十五歳だったかな、親友が『遺物』に触れて、それが爆発したの。それも、私の眼の前で……」 彼女の視線は、エレベーターの冷たい壁の、何もない一点を見つめていた。「親友はそれで亡くなって、私はしばらく塞ぎこんでいたわ。それから一ヵ月くらいして、この事故のために地球再生局の調査チームが来たの。私はできる限りその調査に協力したわ。それで、そのリーダーに言われたの。『君、このままこんな町で埋もれていていいのか? 君のその知識と覚悟があれば、もっと多くの人を救えるかもしれんぞ』って……。それで、地球再生局のエージェントになることを決意したの」「そうか……。イリスも、大切な人をなくしてたんだな&he
last updateHuling Na-update : 2025-11-01
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第18話 決戦

「イリス!!!」 俺の絶叫が、静まり返った宇宙港に響き渡った。後ろから聞こえた銃声。俺を庇うように覆いかぶさったイリスが、ゆっくりと俺の横に崩れ落ちる。彼女のアッシュカラーの髪の間から、赤い血が流れているのが見えた。「くそっ!」  俺は、彼女を抱えながら、銃撃があった方向──通路の入り口──を睨みつけた。だが、敵の姿は見えない。  その間にも、マダム・プラムはアサルトライフルを構え、銃撃のあった方向に向かって、牽制射撃を繰り返していた。 「くそっ! どこにいやがる! プラム! やつの姿を見たか?」俺はイライラしつつ、プラムに尋ねた。 「いいえ! アタシにも見えなかったわ!」(まさか、光学迷彩か?) 「プラム! ヤツは光学迷彩で姿を消しているかもしれん! 気をつけろ!」 「気をつけろって、どうすりゃいいってのよ?!」 このままでは、なぶり殺しにされるだけだ。俺は、気を失ったイリスの脈があることを確認すると、そっと彼女を壁際に寝かせた。そして、覚悟を決める。 (今ヤツを倒せなければ、妹の時のように、イリスまで死ぬ! 集中しろ! ザック!)  俺は自分の頬を両手で強く叩き、気合を入れた。「プラム、頼む! 牽制射撃をしてくれ!」 「って、どっちによ!?」  俺は目をつむった。  ……プラムの荒い息遣いも、遠くで響く電子音も、全てが遠ざかっていく……。意識の奥底で、神経が一本の研ぎ澄まされた針のようになっていくのを感じる……。  ほんの一瞬、闇の中に、人の形をした、熱の揺らぎのような「何か」の気配を感じ取れた気がした。「あっちだ!」俺は、銃撃が来た方向とは正反対の通路を指さした。「牽制射撃をしたら、その方向に走り出してくれ。その都度、俺が牽制射撃の指示を出す!」 「もう訳分かんないわね。まぁいいわ。このままじゃなぶり殺しにされるだけだしね。女は度胸よ!」 「それを言うなら、男は度胸だろ?」俺が呆れて言う。 「いちいちウルサイわね! やるの? やらないの!?」 「やるぞ……今だ!」  俺の声を
last updateHuling Na-update : 2025-11-02
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第19話 別れ

 光学迷彩をまとったローウェルの影が、銃弾を受けて崩れ落ちる。静まり返った宇宙港に、俺の荒い息遣いだけが響いていた。 俺は、床に倒れているイリスに駆け寄った。 「……ザック。やったのね。……また、助けられたわね」 「お互い様だろ。それより大丈夫か? 良かったら肩を貸すぜ」 「ええ、なんとか。さっき薬も飲んだから大丈夫よ。……ところで、プラムは? 大丈夫なの?」  イリスの視線の先では、マダム・プラムが肩を撃たれたらしく、傷の痛みに顔をしかめ、呻いていた。 「まぁ、呻けるくらいの体力はあるってか」 「……あんた……ここで私が死んだら……借金は……チャラには……ならないわよ!」 「こんな時にも金かよ」俺は、その執念に苦笑いを浮かべながら、イリスに聞いた。「イリス、何か持ってないか?」  イリスは、ポケットから銀色のチューブを取り出した。「ほら、これを飲んで。リペア・ジェルよ」  プラムは、リペア・ジェルの味に顔をしかめつつも、そのジェルを飲み干した。 「……ありが……とう」 「少しここで休んでいれば、直に起き上がれるくらいには回復するわ」 「プラム、全部片付けてくるから、そこで待っててくれ」  プラムが頷いたのを確認すると、俺とイリスは、明かりの漏れている部屋──管制室へと向かった。管制室は一つ上の階にあり、俺たちは階段を駆け上がり、そのドアを開けた。 管制室は壁面に大きな窓があり、外──漆黒の宇宙や、眼下の青い地球──を見渡すことができた。部屋には複数のモニターやキーボードが並べられた机があり、大型の通信設備らしき装置も置かれている。しかし、エイダの胴体はここにはない。俺たちは、管制室の入り口とは別の、奥へと続く扉を開けて進んだ。 その部屋の中央。アームレスト付きの椅子に、エイダの胴体は座らされていた。そして、その首の上には、無機質なカメラレンズがいくつもついた、機械的な頭部のような物が乗せられている。これが、本来のエイダの頭部の代わりをしているであろうことが察せられた。 俺は、嫌悪感を隠しもせず、吐き捨てた。 「悪趣味な事をしやがる
last updateHuling Na-update : 2025-11-03
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第20話 夜明け

 ――エクアドル地球連邦軍本部  深夜を過ぎた時間にも関わらず、エクアドル地球連邦軍本部の司令室は、怒号と耳障りな警告音が絶え間なく飛び交い、戦場さながらの混乱に陥っていた。オペレーターたちは青ざめた顔でモニターを睨みつけ、懸命にキーボードを叩いている。「ゼータ・プライムからの違法な信号を追跡しろ! 発信源はどこだ!」 「太平洋上の無人環礁が消滅! 衝撃波による津波が発生、周辺航路に警報を!」 「緊急会議のメンバーはまだそろわないのか!」 「こんな時に、悠長なことを言っている場合か!」 制服を着た士官たちが、怒鳴り合うように報告を交わしていた。  世界中のモニターが、ローウェル・ケインと名乗る男によってジャックされ、彼が軌道上から行った「デモンストレーション」という名の破壊行為を見せつけられたのだ。世界は、たった一人の男によって、再び軌道戦争時代の恐怖へと引きずり込まれようとしていた。 そんなパニックの最中、一人のレーダー監視員が、信じられないといった声で叫んだ。 「ゼータ・プライムからの信号が……途絶! 発信が停止しました!」  さらに、量子インターネット回線を監視していた職員も、驚きの声を上げる。 「旧時代の兵器ネットワークへの、ゼータ・プライムからの不正なアクセスも、全て停止しました!」 「……何が起きたんだ? ……まさか、奇跡でも起きたというのか……?」  司令室の誰もが、何が起こったのか理解できず、ただ沈黙したモニターを見つめるしかなかった。 ――同時刻、低層ステーション・宇宙港  俺とイリスは、管制室の巨大な窓から、静かに浮かぶ青い地球を、ただ黙って眺めていた。 「ザック……。これで、うまく行ったのかしら?」イリスが、不安そうに俺の横顔を見上げた。 「さあな、でも地球を見る限り、まだ派手な戦争は起きてないようだ」  俺は、蒼く美しい地球を見ていると、なぜか、エイダのあの蒼い瞳を思い出し、ふと涙がこぼれそうになった。  どれだけそうしていただろう。大した時間ではないのかもしれない。しかし、ふと気づくと、地球の縁
last updateHuling Na-update : 2025-11-04
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