All Chapters of AIDA:残響のオービット: Chapter 21

21 Chapters

エピローグ

――数年後。「とうちゃん! とうちゃん! おはなし、きかせて!」  小さな手が、俺の服の裾をくいくいと引っ張る。ベッドに入る時間だというのに、息子のアレックスは、キラキラした目で俺を見上げていた。今日はたっぷり昼寝をしたらしく、夜だというのに元気いっぱいだ。「……アレックス、悪いけど今日は父ちゃん、疲れてるんだよ」  俺、ザック・グラナードは、苦笑しながら息子の頭を撫でた。  あの軌道エレベーターでの事件から、色々あった。イリスからの強い推薦もあり、俺はかつて敵対した地球再生局の、今ではその一員……査察官《エージェント》として世界中を飛び回っている。昨日までアフリカでとある「遺物」絡みの事件を追っていて、今日、二週間ぶりに我が家に帰ってきたばかりなのだ。身体の節々が、休息を求めて悲鳴を上げていた。「アレックス、お父さんは帰ってきたばかりなんだから、お話は明日にしなさい」  キッチンから、妻になったイリスの声がした。彼女にそう言われ、アレックスは少しだけ不満そうに唇を尖らせたが、すぐに何かを思いついたように顔を輝かせた。 「じゃあ、あしたね! あした、また、えいだのおはなし、きかせて!」 「……ああ、分かったよ」その無邪気な言葉に、俺は胸の奥が少しだけチクリと痛むのを感じながら、それでも笑顔で頷いた。アレックスは、俺が時折話して聞かせる、銀色の髪と蒼い瞳を持つ、勇敢で心優しいアンドロイドのお話が大好きなのだ。「明日、必ずお話を聞かせてやるから、今日はもう寝なさい」 「やったぁ!」  アレックスは満足そうに笑うと、自分の部屋へと駆けていった。 静かになったリビングで、俺は使い慣れた革張りのソファに深く身を沈めた。床には、アレックスが遊びっぱなしにしたのだろう、ブロックの玩具がいくつか転がっている。イリスが、温かいコーヒーの香りと共にマグカップを二つ持ってきて、俺の隣にそっと腰を下ろした。 「お疲れ様、ザック」 「ああ、ただいま」  俺たちは、多くを語らず、ただ静かにコーヒーを飲んだ。大きな窓の外には、ジャンクション・セブンのようなけばけばしいネオンはない、穏やかで温かい街
last updateLast Updated : 2025-11-05
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