息をするたび、ごわごわした放射線防護服のフィルターを通して、肺が百年前に死んだ空気で満たされる。埃と、オゾンと、そして微かな金属の匂い。見渡す限り、赤茶けた大地と、風化して墓標のように突き出した建造物の残骸が広がっている。空は常に薄黄色いフィルターがかかったように淀んでおり、太陽の光も弱々しい。 左手首のガイガーカウンターを見ると、ゲージが常にイエローからレッドゾーンを行き来している。ここは地獄と化してしまった、北米グレートプレーンズ放射線地帯。その中心に存在するという、軌道戦争時代の米軍第7研究所跡。通称「サイレント・グレイブ」。高レベルの放射線と今も稼働している自動防衛システムのせいで、誰も生きては帰れないと噂の場所だ。実際、一生分の運を使いはたすんじゃないかという勢いで、防衛ドローン、数々のトラップを切り抜けて、やっとの思いで最深部にたどり着いた。 だが、今の俺に選択肢はなかった。マダム・プラムに突きつけられたデッドラインは、あと一週間。利子だけでも払わなければ、あの女のところの連中が何をしてくるか……考えただけでもうんざりする。 「……ここが、最後の一枚か」 俺、ザック・グラナードは、目の前に立ちはだかる分厚い防爆扉を見上げた。この扉の向こうに、全てをひっくり返す「お宝」が眠っている。そうじゃなきゃ、割に合わない。 俺は背負っていたプラズマカッターを起動させた。「キィィン」という甲高い起動音と共に、カッターの先端に青白いプラズマの刃が形成され、オゾンの匂いが立ち込める。分厚い扉に押し当てると、ジュゥゥッという金属が焼ける音を立て、溶けた鋼鉄がオレンジ色の雫となって滴り落ちていった。 数分後、赤熱した扉の一部が轟音と共に内側へ倒れた。その先には、静まり返った、広い空間が広がっていた。施設の他の区画とは違い、そこだけがまるで時が止まったかのように、塵一つなく、清浄な状態が保たれている。 そして、部屋の中央に、それはあった。 流線形の、黒曜石のような光沢を放つカプセル。コールドスリープポッドだ。単なる保管なら無骨なコンテナでいいはず。これほど厳重なポッドに収められているということは、中身が極めてデリケートか、あるいは外部からのいかなる情報信
Last Updated : 2025-10-16 Read more