All Chapters of 雪のようなあなた: Chapter 11 - Chapter 20

24 Chapters

三章 三節 「SNSの壊し方」

「まずは『助けてください』とだけ投稿して」 僕は彼女に言われた通りにスマホに打ち込んでいく。 手先が冷たい。僕は冷え性だから。 男性の冷え性はあまりメディアに取り上げられないけど、一定数はいると僕は感じている。 少数派への配慮はされない世の中だから、諦めるしかない。 ソファーに二人で座り、僕はそこで指示を受けている。 水色のソファーは、やはり座ると落ち着く。大きいので二人で座ることもできる。 いきなりそんなことを書き出されたらビックリするだろうと僕は内心申し訳なくなった。どうしたの?大丈夫?何かあった? 次々にネット上で返事が返ってくる。 僕は少しホッとする。 いつものように優しい人々の声が聞けたから。「次に『今からある住所を書くのでここに来てください。理由はまだ言えません。信頼出来るのはあなた方しかいません。僕はそこにいるので声をかけてください』と投稿して」 彼女は感情を込めることなく、淡々と話をする。 感情のない人形のような真似をよくできるなと驚いている。 彼女の意図がいまだにわからない。えっ、マジでヤバいやつ?どうする?警察呼んだ方がよくない?むしろここに個人情報載せちゃダメあえて載せるなんて何かあるかも悪いこと企んでるとか?確かにそれはありえるかも事件性あり?怖い ネット上はすごい勢いで話が変わっていく。 炎上しそうな勢いでどんどんコメントが増えていく。 さっきとは少し違う反応が返ってきている。 なんだかおかしい。 どうしてそういう風にとらえるのだろう。 僕の投稿は何かおかしかっただろうか。 僕にはそれがわからない。「律、今からさっきの住所の場所に行くよ。律のことを本当に心配してくれてる人がいれば、駆けつけてくれるはずだよね?」 彼女は立ち上がり、すぐに外に出ていった。「わかった」 僕は急いで上着を羽織ってついていった。 僕はコメントはできなかったけど、心配してくれている人はいると信じていた。 僕の心をずっと支えてくれていたSNSなんだから。 辛い時はいつも励ましてくれた。 そこには目には見えないけれど、確かに信じられるものがあった。 信頼できる他人がいた。 僕の家から近くの公園だったので、その場所にはすぐに着いた。 遊具も少なく、活気がない。 僕たちは唯一ある古びた
last updateLast Updated : 2025-10-21
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四章 一節 「優しさ?」

 人はどうして、何度も物事や人を信じるのだろう。 裏切られても、それでも人はまた何かを信じようとする。 信じなければ傷つくこともないのに。   家に帰ってきて、僕は一人で考えていた。 あの言葉を言った後、彼女は何も言葉を発することなく、一緒に家まで帰ってきた。 僕はそれを拒むことなく迎え入れた。 彼女はソファーの方へ歩いて行ってすぐに横になった。 すっかり夜は更けていて、部屋の明かりをつけた。 部屋の明かりをつけてもどこか暗い気がするのは、僕の気持ちが落ち込んでいるからだろうか。 暗い気持ちに飲み込まれたくないと気持ちを強くもった。 僕はどうして信じるのだろうかという原点を見つめ直してみることにした。 僕は、物や人を信じることから始める。 それは、性善説を信じているから。 性善説とは、人間の本性は基本的に善であるとするものだ。 どんな人もよい心をもっていて、本当の意味で悪い人なんていない。 悪いことが起こるのはただ何かしらの理由があるからそうせざるえないだけで、その人が生まれ持って悪い心の持ち主ではないという考え方だ。 だから、僕は人を信じるし、どんなことも許して受け入れる。 何か悪いことが起きたからといって、そこで関係をすぐに断ち切ることはしない。 でも、僕の親やSNSの人たちはどうだろうか。 僕が信頼関係を壊した。 彼らはそんな僕を今でも信じてくれるだろうか。 当たり前のことだけど人によって価値観はそれぞれで、みんなが僕のように考えるわけではない。 それぐらいは狭い考えの僕でもわかる。  どんな風に感じているのだろう。 絶対に許せないと思っているかもしれない。 信頼関係とは築くのにすごく時間がかかるのに、壊れるのは一瞬なんだなと理解した。 ちらっと彼女の方を向いたけど、彼女はぼーっとしていた。 僕はネットの人たちの態度が変わるのを目のあたりにしても、彼らのことを見限ることはできなかった。 まだ彼らのことを信じている。 ただどうにもできない何かの事情があっただけだと思っている。 そして気になったことがある。 どうしてネット関係を壊し冷たい言葉を放ったその瞬間に、彼女は僕の手を握ってくれていたんだろうか。 暖かくてすごく落ち着いた。 正直、そのお陰で心がぐちゃぐちゃにならなくてすんだ。 もちろん
last updateLast Updated : 2025-10-21
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四章 二節 「最後に壊すもの」

「美月の信じてるものって何?」 僕は思い切って、彼女に聞いてみた。 彼女の素性や目的はいくら聞いても教えてくれない。一緒に住みだしてから何度も聞いているけど、さらりとかわされる。 だから、違う方向から攻めてみようと思った。 それに僕は信じることについて彼女の答えを聞きたかった。 他人の信じているものを壊していく彼女が何を信じているか興味があった。 そして、なぜそれを信じているのか知りたかった。 僕はだんだん信じるということがわからなくなってきているのかもしれない。「答えたくないわ」「なんで?」 僕はもう少し踏み込んでみた。胸が緊張でバクバクしている。「私は、最後まで信じ切ることができなかったから」 彼女から意外な答えが返ってきた。 信じ切ることができなかった? 彼女の言葉を頭の中で繰り返す。 一体どういうことだろう。 彼女が信じていたものって一体なんだろう。「それより、次は何を壊すかわかるよね」 彼女は窓から空を見ながら、話を自分の方へもっていった。 彼女はよく窓から空を見ている。 毎日のように降る雪を飽きることなく見ている。 さすがの僕も、今回はわかった。 それ以外考えられない。「しおりとの関係性」「正解ー」「全然当たっても嬉しくないんだけどね」「でもこれで最後だから、いつもみたいに付き合ってよ」 彼女は少し申し訳なさようしている どうしたのだろう。彼女らしくない。 そして、これで最後なのかと悲しくなった。 彼女は僕が信じているものをすべて壊すと言っていた。 それはつまり、僕にとって信じられるものはこの世に三つしかないということだから。 他人が聞けば寂しい人生だろうか。 僕自身、自分の人生が豊かだと思ったことはない。「どうせ僕には決定権はないし、僕は美月を信じてるよ」「じゃあ早速しおりさんと会う日の約束をしてくれない?」「えっ、いつもみたいに急にいかないの?」 僕は目を大きく開いた。 振り回すのは彼女の得意なことだ。今回もそうするのかと思っていた。「今回はあなたが約束することが重要なの」「わかったよ、すぐ電話する」「しおり、急にごめんね。今電話大丈夫? うんうん、前の人は大丈夫だよ」 しおりはずっと心配してくれていたようだ。 しおりの優しさが心を癒していく。「ちょっとしおりに
last updateLast Updated : 2025-10-21
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四章 三節 「未来の壊し方」

 待ち合わせの場所に着くと、すでにしおりが待っていた。 いつも遅刻してくるので、こんなことは今までなかった。 しおりは、イヤリングをして、髪をきれいに束ねているし、緑色の鮮やかなスカートも履いていた。 明らかにいつもよりおしゃれしている。 どうしたのだろう。  僕が声をかけると、しおりはいつもは行かないおしゃれな店に行きたいと楽しそうにくっついてきた。 しおりがくっついてくるのは今までに何度かあり、だいぶ慣れてきていて感覚的な拒否反応はしめさなくなっていた。 慣れでそうなったのか、しおりだから大丈夫なのかそれはわからない。 でも、僕にとってぞわっとしないのは、嬉しいことだった。 あまり店にこだわらないしおりにしては珍しいことだ。 今日はいいことでもあったのだろうか。 店内は、白と黒で統一されていて、少し高級感があった。 クリスマスの装飾はされておらず、イベントでお客を引き寄せる感じはなかった。 ウェイターの人もすごくかっこよくて、気配りもできていた。 こういう人をわざわざ選んで採用してるんだなと改めていいお店に来たと感じてきた。 僕たちは緊張しながら、メニューの上にあるコーヒーを二つ頼んだ。 こういう店には慣れていない。「いきなり会って話がしたいなんて、どうしたの?」 なんだか今日はしおりはいつもよりにこにこしている。「いや、それは」 僕はいきなり話し出していいものかと少し考えた。 でも言わないときっと先にある何かにたどり着けない。 僕はどんな意味があるかわからない言葉を、話すことを決めた。「しおり、この先もずっと友だちでいてね」「えっ、うん」 しおりは戸惑っていた。「もしかして、それが言いたかったこと?」「そうだよ」「友だちね。そうね、あはは」 彼女は悲しそうな顔をしていた。「ごめん、私用事思い出しちゃった。今から帰るね。また連絡する」 こんなに態度を変えるしおりを初めて見た。 僕はどんな悪いことをしてしまったのだろう。 そして、しおりは本当に帰ってしまった。「今話したけど、これでよかったの?」 僕は本当は追いかけたかったけど、追いかけないことと最初に彼女に言われていた。 僕は彼女にどういう風になったか詳しく話した。 彼女に話すことで、なんだか気持ちが楽になる自分がいた。 いつの間にか
last updateLast Updated : 2025-10-21
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五章 一節 「真相」

「私が何者か話すわ」 家に帰ってくると、彼女は自分が誰で何の目的で来たか話すと言い出した。 きっと壊すという目的を達成したからだろう。 いつものようにさっき言ったことなんてなかったかのように普通に話し始めた。 どうしてそんなに態度を変えられるのだろう。 そこがずっとわからない。 僕は温かいコーヒーを二つ机に置いた。 外の寒さで身体がまだ痛い。 早く痛みを取り除けないだろうか。 部屋の中はぴりぴりした雰囲気が流れている。「私は二十年後の未来から来た人間よ」「未来から?」 小説などでよくある展開だけど、現実でその言葉を聞くとどう答えていいかわからなかった。 それはあまりにも現実的ではなくて、僕の考えの範疇を超えていることだから。 考えの範疇を超えていることについて、僕だけでなく、人は信じることはなかなか難しいと思う。 想像することができないから。 だから、僕はオウム返しすることしかできなかった。「さすがのあなたでもなかなか信じられないみたいね。じゃあ未来を一つ当ててあげるわ。今から三日後に九州で大きな地震があるわ。三日後ニュースで確認してみて」「わかった。まあとりあえずは信じる前提で話を聞くよ」 彼女は謎だらけだから、未来から来たと言われてもなんだか納得いく部分もあった。 そして、僕には話を最後まで聞く必要があったから。 きっとこの話に彼女が今までしてきた全てのことが関係している。「ありがとう。そもそも未来での私とあなたとの関係がわからないよね?」「未来からきたってことしか聞いていないからね」 僕はなぜか胸がそわそわとしてきた。 二十年後から来た僕よりも少し若い女性。そんな人と僕の関係は何だろうか。 あまりいいイメージが浮かばない。 僕が未来で何か悪いことをして、その復讐か何かだろうか。 それなら今までの彼女の行動も少し納得がいく部分かある。 でも、それだと彼女の謎の優しさの理由がわからない。「あなたは二十年後にはすでに結婚している。私はあなたの娘よ」 僕は開いた口を閉じられなかった。 驚きというより、僕にそんな未来があるなんて想像すらできなかった。 こんな不具合だらけの僕が結婚できるなんて到底思えないから。 これから先もずっと一人だろうと疑うこともなかった。「でも、名前を聞いたとき朝比奈美月って言
last updateLast Updated : 2025-10-21
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五章 二節 「僕に起こったこと」

「ある時にあなたに大きなことが起きた」 コーヒーはお互いに手をつけていない。 もう冷たくなっているだろう。 なんだかそれが悪い予感を連想させる。「それは、仕事で成功して、宝くじも大当たりした」「えっ、それはいいことじゃないの?」 うまく言葉にできないけど、僕はもっと悪いことが起きたのかと予想していた。「そうね。それだけ抜き取ってみればいいことね。でも、それによってお金を手に入れて、あなたはお金を信じるようになった」「お金を? そんなはずないよ」 お金なんて今の僕は全然信じていなかった。もしかしたら一番信じていないかもしれない。お金で手に入るものはなんて限られているし、それでできた関係性はそれこそ脆い。「でも、お金は怖いのよ。お金があれば人はついてくる、物も買える、どこへでもいける」「それは見せかけの信頼だよね」「そうよ。でも人はそれを本物だと錯覚してしまう。お金があれば何でもできると思ってしまう」「それはどこかでおかしいと気づかないの?」「気づけないのよ。大金を手にするなんてことは、ほとんどの人は今までに経験したことがないことだから。自分に幸運が落ちてきたように感じるだけ。そしてはまって抜け出せなくなる」 彼女は僕の目を見て、話をさらに続けた。「あなたは、お金という魔物に憑りつかれて性格も変わってしまったのよ」「そんなに恐ろしいものなの?」「うん。あなたは、だんだんお金以外のことに重きを置かなくなってきた。最終的にお金で作れる関係だけを信じるようになった。他は全く信じなくなった。すべての基準をお金で判断するようになった」「それじゃあ、僕はたくさんの人を傷つけたね」 僕はまだ起こっていないことなのに申し訳なくなってきた。もしかしたら、それが原因で彼女が未来からやってきたのかもしれない。「残念ながらそれはそうね。でも私が言いたいのはそこじゃない。あなたの身に起こったことよ」「何が起こったの?」 僕は少し怖くなってきた。この話の結末が全然想像できないから。「心が壊れてしまったのよ」 そこで彼女は一粒の涙を流した。「どうして?」 僕は質問せずにはいられなかった。 話を聞く限り、未来の僕にとっていいことしか起こっていないから。 誰かの心を壊したなら僕でもわかる話だ。 でも僕の心が壊れた? 彼女の話の展開が早くて、
last updateLast Updated : 2025-10-21
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五章 三節 「関係性を壊した理由」

「だから、私は未来から来て、どんな時もあなたのそばにいることにした。あなたが辛い時、心が折れそうな時一人にならないようにしたいから」 彼女は僕の家にいる時もずっとそばにいてくれた。 突き放しているようで、どこか暖かさを感じることは多々あった。 それは彼女が僕のことを思ってくれていたからだった。 彼女がいたから、僕は辛い時に壊れずにすんだ。 人がそばにいるだけで、暖かい気持ちになるから。 彼女は僕を守るために、わざわざ未来からきてくれた。 簡単なことではなかったと思う。 未来の僕のために何かをすると言ったら、きっと周りの人も反対するだろう。 未来の僕は傲慢で自分のことしか考えていないから。 それでも彼女は現在に来ることを選んでくれた。 彼女の話によれば、二十年後の未来では精神病院の入院施設で、僕がベットに横たわり何も言葉を発することなくただ一日外を見ているらしい。 彼女はもしかしたらその時の僕の気持ちを知りたくて、よく窓から外の景色を見ていたのだろうか。 そうだとすれば僕はすごく愛されていることになる。 僕は胸が痛くなった。 自分の未来に絶望したからではない。 きっと大切な家族をたくさん傷つけたから。 でもどうしてもわからないことがあった。「現代に来て僕の信じるものを壊したのは美月だよね? なんであんなことする必要があったの?」 今後お金を信じて壊れることを教えてくれるだけではダメだったのだろうか。「それには二つの理由があるわ。一つ目は辛さを分散して軽くするため。未来のあなたは、これらを一気に失って、一人でとてつもなく辛い思いをした。また、早いうちに実際に失う辛さを味わっていてほしかった。体験してわかるものもあるから」 そこで彼女は微笑んだ。「今は些細なことで無理やり壊したからまた信頼関係を作ることは簡単だから安心して」 そんなことまで考えてくれているとはびっくりした。 僕はそんなに聡明ではない。 でも、僕の娘だという。 そうなると、僕の妻は誰なんだろう。 その疑問を胸の奥にぐっとしまい込んで、僕は質問した。「もう一つは?」「あなたが信じるものをちゃんと見つけて、今後生きていってほしいためよ。そうすれば、お金を手に入れた時にも、それに支配されないから」 お金はどんなことをしても手に入ることになっている。 
last updateLast Updated : 2025-10-21
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六章 一節 「関係性の再構築」

 僕は壊れたものを直していくことにした。 それは自分を見つける旅のようなものだ。 頭の中を空っぽにして0から物事を見て感じる。 そして、信じるとはどういうことか直接聞いてみて、自分で考えてみようと思った。 まずは親との関係性だ。「すみませんでした。前に話したことは全て嘘なんです」 僕は実家に行き、玄関で頭を下げた。 今日はいつもより少し暖かい日だ。 家を出るとき、彼女が一緒に行こうかと言ってくれたけど、僕はそれを断った。 確かに彼女が壊したのだから責任はある。 でも僕は自分でこの問題を解決することで、何かが得られる気がした。 何かとは、まだはっきりとはわからない。 でも信じることに繋がるもののはずだ。 彼女は「頑張ってきてね」と背中を押してくれた。「なんでそんなことしたの?」 両親からはまだ緊張感が伝わってくる。 それは当たり前の感情だと今ならわかる。 僕は周りの感情に無関心すぎた。 今思えば、僕は彼女に色々教えてもらっていた。 彼女は関係を壊す度に、僕になぜうまくいかないか丁寧に説明してくれていた。 その時は気づけなかった。ただ機嫌を悪くしているのかなぐらいしか思っていなかった。 大切なことはいつも自分のもとにきているのに、それに気づかないことが多い。 僕は鈍感かもしれない。 でも、まずはそれに気づけたことが大きな一歩だ。「それは詳しくは言えません。でも傷つける目的じゃないことは確かです。僕の未来のためなんです。許してください」 さすがに全部話しても信じてもらえないと思った。 また、未来の話を他の人に話すことで未来が変わってしまっても困るから。 僕は何度も頭を下げた。 家の中に上がるように言われたけど、僕はそれを丁寧に断った。 こうやって親と正面から向き合ったことも今までなかったと気づいた。 僕は今まで親とどんな関係でいたのだろう。僕は親と本当の意味で信頼関係を築けていなかった。 薄いつながりでしかなかった。 それで信じていた僕ははたからみたらおかしかっただろう。「あなたがそこまで言うなら、何かあるのでしょう。わかった。許します」 僕はホッとした。 今までと変わらない会話かもしれないけど、僕は前に進めた気がした。「ありがとうございます。それともう一つ、教えてほしいことがあります」「なに?」
last updateLast Updated : 2025-10-21
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六章 二節 「SNSと人の気持ち」

 次はSNSの関係性だ。 僕は前に投稿した文章について謝罪をした。 あれは嘘の投稿だったから。さらに言うなら、あの投稿を見た人がどんな気持ちになるか、僕は考えが甘かった。 自分本位な投稿だと今ならよくわかるから。 彼女がソファーに横になりながら、「何か手伝おうか」と聞いてきた。 彼女は最近前よりもよく話しかけてきてくれる。 僕のことを心から心配してくれているのが伝わってくる。 それだけで僕は十分だった。 パソコンで投稿していたので、隣で一緒に見ていてほしいと僕は言った。 彼女に対しても、自分の気持ちをもっとしっかり言おうと最近思うようになった。 「いいよ。コーヒーいれてきてあげる」と彼女は立ち上がり笑ってくれた。 前の投稿を思い出しながら、僕は苦しくなっていた。 彼女は僕にあえて苦しくなる体験をさせたのではないだろうか。 彼女ならそこまで考えてしていた可能性もある。 人の気持ちを知ることは苦しい。 人の気持ちを知ることに痛みを伴うなんて今まで知らなかった。 僕は今まで人の気持ちを知ったつもりでいただけかもしれない。ただ都合のいい部分だけを見て、仲良くしていると勘違いしていただけだ。 誰もが優しいわけではない。 人それぞれ色々なことを考えている。 それは時として、僕に対して攻撃的で厳しい言葉の時もある。 向き合えば傷つく。 でも傷つかなければ、相手を知る事なんてできない。 それが人とかかわり生きていくことなのかもしれない。 僕はやっとそのことがわかった。 そして、僕はどうしてあの時もっと声をあげなかったのだろう。 SNSの人たちを信じている。 そうであるなら、助けに来てくれなかったら、もっと強く自分を主張するべきだった。 これが本当に緊迫した状況だったらどうなっていたのだろう。 そう考えると恐ろしい。 僕は嫌われるのが怖くて、思っていることを言えなかったと気づいた。 優しくしてくれているからその気持ちに甘えているだけで、自分のことは何も伝えていなかった。 僕が相手を遠ざけていた。 自分のことを何も言わないで、相手が僕のことをわかってくれるだろうか。相手が僕と仲良くしたいと思うだろうか。 そんな都合のいいことはないだろう。 そもそも僕はどうして全て他人任せなんだろう。 自分から動かなければ何も変わら
last updateLast Updated : 2025-10-21
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六章 三節 「愛する人との関係性」

 最後にしおりとの関係性だ。 僕はしおりにたいしてどのように思っているのだろう。 もう一度考えてみることにした。 僕には考えることが多すぎて、時間はいくらあっても足りない気がしていた。 僕の中でしおりを思う気持ちはどれくらいの割合を占めるのだろう。 よくしおりのことを頭に思い描く。 しおりに会うと心が暖かくなる。 それはあまりにも当たり前になっていて、今まで気づかなかったことだった。 人はどうして特別なことをいつの間にか普通なことと思ってしまうのだろう。 僕にとってしおりは大切な人で、これから先も一緒にいたいと思える人だ。 僕の中でしおりを思う気持ちは大部分を占めていることに気づいた。 どうしてこんなにも熱い思いを今まで信じてこなかったのだろう。 僕は彼女の言う通りで、つくづく何も信じていなかったようだ。 自分自身の感情ですら信じられていないのだから。 そして、SNSで教えてもらった信じるとは『自己開示』という考えを思い出した。 僕はこの気持ちや思いをしおりに伝えたことがなかった。 しおりにすぐに連絡した。 すぐに伝えたい、伝えなければいけないと思った。 まだしおりの気持ちは離れてしまっていないだろうか。 その日の夜に、僕たちはいつも行くカフェで待ち合わせをした。 時間的にどこかのレストランの方がよかったんだけど、僕は初めて行くところはあまり得意じゃない。だから、いつも行っているところにした。 待ち合わせ場所に来た時、しおりはぎこちない笑顔を浮かべていた。 カフェはあまり人が入っておらず静かだ。「しおり、この前は突然ごめんね。実はこういう理由があったんだ」 僕は、しおりに包み隠さず彼女の話、僕の未来の話をした。 僕が話したいと思った。 全てを伝えないとしおりは納得してくれないだろうから。 しおりはしっかり聞いて、受け止めてくれた。「そういうことだったのね。私勝手に勘違いしてごめんなさい」 僕のせいなのに、しおりは謝ってくれた。 しおりは本当に優しい人だ。 僕はこの人を大切にしたいと深く思った。「いや、僕の方こそいつも一方的でごめん。それに普通はわからないことだし。そして、僕はしおりに自分の気持ちを今まで言ってこなったと気づいたんだ。聞いてくれるかな?」 どうしよう。胸のドキドキがどんどん大きくなって
last updateLast Updated : 2025-10-21
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