恋人の神谷奏也(かみや そうや)のもう一つの家を見つけたとき、中から激しい口論の声が聞こえてきた。「結婚なんてさせたくないなら、七日後の結婚式に乗り込んで、俺を奪いに来いよ」扉の向こうで奏也と向き合っていたのは、彼の初恋――早見美弥(はやみ みや)だ。「奏也、あなた……自分が何を言っているのか分かってるの?」「どうした、怖いのか?美弥、お前が本当に来るなら、俺はその場でお前を選んで、そのままお前と結婚するよ!」美弥はしばらく黙り込み、やがて唇を噛みしめてうなずく。「いいわ。式の日に、桐谷安奈(きりたに あんな)の手から、あなたをこの手で取り戻してみせる!」次の瞬間、二人は抑えきれない想いに突き動かされ、抱き合って唇を重ねた。その光景を見た私は、胸が締めつけられて息ができなくなった。私たちは五年間も付き合ってきた、傾きかけた彼の会社を、私は必死で立て直した。そのうえ、自分の持てるものはすべて彼に差し出してきた。それなのに彼は、初恋の女とこっそりもう一つの家まで構え、挙げ句の果てには、その女に私たちの結婚式を公然とぶち壊させようとしている。拳を握りしめ、私は心の中で決意した──七日後、彼らが式に押しかける前に、私は結婚式から逃げ出す。……「桐谷社長、本当に結婚式当日に、あのお二人の写真や動画を公開なさるご予定でよろしいでしょうか?」秘書は何度も確認してくる。私は小さく間を置き、そしてきっぱりと答える。「間違いないわ。 それと、ビザの手配もお願い。式の日には海外に行くから。この件は絶対に口外しないで」部屋の中では、あの二人がまだ名残惜しそうに抱き合っている。もうこれ以上見ていられなくて、私は疲れた体を引きずるように背を向けた。その夜、奏也が家に帰ってきたのは深夜になってからだ。彼は足音を立てないようにベッドに上がり、私の背中からそっと腕を回すと、あごを私の肩に預けて小さくつぶやく。「安奈、まだ起きてるんだろ?前は遅くまで俺のこと待ってくれてたのに、どうして今日は待ってくれなかったんだ?」そう言う彼の体から、女物の香水の匂いがふっと漂ってきて、私は思わず吐き気がこみ上げた。彼の手首をつかんで押しのけ、私は感情を押し殺した声で言う。「眠いの。もう寝よう」明日は出国の手続きもしな
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