Semua Bab 『ラブコメディ失調症』 ーマキナ医院・精神整形外科ー: Bab 11 - Bab 20

21 Bab

『鳳凰が待つべき雌雄』

「ここへは不死鳥を見に来たのです」 園内へ入った彼女は、僕の方へと振り返り、いともあっさりと目的を告げた。 当たり前だが、僕は面を食らう。 はっきり言ってしまえば、まさか彼女がこんな奇天烈な思考や態度を持った人物だとは思っても見なかったからだ。「不死鳥? 勘弁してくれ。そんなものがいるわけないだろ」「いますよ。ワタシは見た事がありますから」 彼女はきっぱり言い捨てると、僕と歩幅を合わせる事もしないまま進んだ。 流石に僕はもう少しだけ引き留める。「いや、まてよ。それが見たいというのはわかった。しかし、せっかく来たんだ、他のものもゆっくり見てから、目当てのものは最後に見ればいいじゃないか?」 彼女は振り返りもしなかった。「いえ、ワタシは不死鳥に会いに来ただけです。向かう先は決まっています」 彼女は人だかりの出来たパンダやゾウに脇目も振らず、ただひたすらに自らの目的へと一目散に向かって行く。 きっと、彼女にとって、そんなもの達の事はどうでもいいのだろう。 僕はそこに、自分の見たいものや、欲しいものが全てと考える、彼女の幹《かん》に流れる傲慢さと愚直さをはっきりと見た。 正直、とても興奮した。 何故ならそこで僕は、ついに彼女が本性を現したと思ったのだ。 これは、誰も知らない彼女の一面。 圧倒的な自我。譲らない価値観。 普段の重たい制服から解き放たれ、足取りが軽くなった彼女は、優雅に羽ばたく鳥のようだった。 そして、僕は想像した。 部室でずっと後ろから眺めていた、あの黄金色の髪を揺らしながら笑う彼女。 容姿が良く、愛想が良く、気立が良く。 誰からも愛されて然るべき彼女。 上品でお淑やかな、あの振る舞いの下。 あの笑顔の下で、きっと彼女は何人からも向けられた好意を、自らの揺るがぬ価値観で無惨に切り捨てて、上面《うわつら》のみで笑っていたのではないかと。 まるで油彩の如くぶ分厚く塗り重ねた、彼女の下にある地の色はきっと、最初からこういうものだったのだと。 それを想像して。 どうしようもなく、興奮したのだ。* * * やがて彼女は一つの檻の前で足を止めた。 早速、目的にたどり着いたのだ。 なんて事はない、通路の脇。 誰も見向きもしない古びた鉄の檻。 そこにいたのは一番《ひとつがい》の鳥だった。「うふふ。なんと美し
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-05
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『嫉妬したギプスは誰が為に』

 土曜日だった。 僕のバイト先であるセル店には、土日にイベントという物があり、それはAVのセクシー女優を招き、ファンサービスをするという物だった。 もちろん当たり前だが、なにも性的なサービスをするわけではない。 水着で写真撮影したり、握手したり、サインを書いたりと、大体やる事はファンと近しいアイドルなんかと一緒だ。 僕が出会った女優は、基本的に皆、愛想が良く綺麗な人が多かった。 それでも、中にはごく稀に横暴な人もいたし、それでなくとも、ファンから貰った贈り物の一部は捨てて帰る人が多かった。 それは特に食べ物の類だ。 口に運ぶものはどうしても仕方がないのだ。 何故ならそれが安全という確証が全くないのである。 ファンの皮を被って、何がきっかけか、恨みを抱いた人物の悪意というのは、一体何をしでかすかわかったものではない。 だから、毎回イベント後には沢山の供物が店に残り、僕はいつもそれをありがたく貪っていた。 そう、僕にとっては、万が一毒が盛られていようが知った事ではなかったのだ。 もし、この程度のくだらない事で死ぬのならば、その時はその時だと、腹を括っていた。 それほどまでに最近の僕は、特に生にしがみついてなどいないのだ。 そして、イベントが無事終わり、女優が帰った後、今日残されたものは、なんだか見た事もない洒落たドーナツだった。 一切口をつけられずに、寂しく残されたそれを、僕は箱のまま家に持ち帰ろうと準備した。 そんなシフトを終えた夕方。 僕が店を出て駅の方へと少し歩いたところで、その声は聞こえた。「肯太郎さん! お疲れ様です! さあ、こちらをどうぞ!」 差し出されたのは、微糖の紅茶。 差し出したのは、あの制服に身を包んだマイだった。「おいおい、なんでマイがいるんだ? しかもまた制服だし……」 いきなりの事で感謝の言葉をかけるのも忘れた僕は、ひとまず紅茶を受け取る。 しかし、マイはなんだか複雑そうな顔をしていた。「すみません! 明日のデートが待ち遠しくなり、会いに来てしまいました! しかし、ワタシはとんでもないものを見てしまったのです! まさか肯太郎さんがそんな人だとは思ってもみませんでした!」 怒っているのか、なんなのか。 マイはカクカクとしたぎこちない動きで、金色のアホ毛をゆらしながら、強めに言い放つが、僕はその
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-08
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『その先に映る面影への狂熱』

 待ち合わせ場所には、少し早く着いてしまった。 普段は殆ど来ない上野駅周辺を、先にぶらりと見て回ろうかとも思ったが、初夏の厳しい日照りがそれをやめさせた。 僕は震えるスマホをポケットから取り出すと、相変わらずマイからの細かいメッセージが入っていた。 ──今、駒込を出ました。 GPSなど付けなくても、勝手に位置情報を共有してくれるのは、こういう場合にとってはありがたい事だった。 まだマイが到着するまでの時間があるとわかった僕は、そのままスマホでSNSを開く。 「やっぱり、もつまる先生は更新してないな」  何度確認しても、ずっと更新されないもつまる先生のSNSを見て、そういえば僕も、長らく文章を綴っていない事を思い出した。 初対面で薪無先生に夢想家なんて呼ばれた事もあったが。 実際、僕には小説を書いて、世間の大衆から分け隔てなく絶賛されたいなどと思うほどの志は特に無かった。 誰にでも受ける大衆性や娯楽性とは、僕にはやはり無縁だったからだ。 僕が文章を綴るのは、常に僕の思考を押し付けるだけの極めて独りよがりな自慰行為に他ならない。 きっと僕は、最高に気持ちの良い極上の自慰行為を、世間の目先で見せつけて、よがりたい。 ただ、それだけなのだ。 それでも、僕の小説を見て共感を表してくれる、かけがえの無い読者がぽつぽつといるというのは、純粋に嬉しい限りで。 簡単に個人の発言が許されて、なんだか声が大きくなってしまったマイノリティの、そのまたさらに先にあるような、限りなく孤独に近い人々の思想の分母を拾い上げている感覚になり、まだまだ世間も捨てたもんじゃ無い。などと勝手に都合良く解釈する事もあった。  そんな中。 僕は本当は初恋の“あの娘“の事が書きたかった。 埃っぽい思い出を記憶から掘り起こし、その芳醇な香りを鼻いっぱいにすするように、僕は僕の文で“あの娘“を生かしたかった。 でも、不思議な事に何度書いても、もつまる先生の“あの娘“を超えられないのだ。 僕はそこに大衆性と娯楽性の絡んだ魅力というものを見出していて、決して僕には描《えが》けない、理想的な“あの娘“という圧倒的な存在に恋焦がれてしまったのだ。 つまるところ、現実に虚構を程良く絡めたものは、全てを凌駕すると悟っていた。 だから僕は、今ならなんとなく。 人が何故、その背
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-09
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『鎮座する黄金色の憂鬱』

 僕に処方されたご都合主義。 夢乃マイはとても素直な娘だった。 明るく、無邪気でいて、どんな些細な事でも全身で感情表現をする彼女。 その恥ずかしいまでの幼稚な振る舞いすら難なく許せるくらいに、マイは非常に可愛らしい女性だった。 小さな背丈でありながら、スタイルも良く。 大きな目、白い肌、小さな口、高い鼻。 現代の美的な要素を申し分なく、その顔に宿している。  腰ほどまである長い金髪は、前髪を真っ直ぐ切り整えた、艶のあるストレートヘアーで。 性格の隙を感じさせるような、頭頂部の揺れるアホ毛がまた愛らしく、ハキハキと喋る姿はなんとも誠実そうな印象をうける。 だからきっと、夢乃マイは何もなくたって、大衆の誰もが羨む可憐な美女なのだろう。 だが、僕はそんなマイの過去を全く知らない。 それどころか、誕生日も家族構成も、例えば好きな食べ物の一部ですら、僕はまだ知らないのだ。 ──擦り合わせ。 そうだ。 本来ならわかり合おうとするべきなのだ。 本来なら向き合おうとするべきなのだ。 僕は真っ直ぐに“夢乃マイ“を覗くべきなのだ。 それが薪無先生の言う、本来のセックスの意味なのかも知れない。 されども、残念ながら。 こんな僕はやっぱり、独りよがりな自慰行為しか出来ないのだろうか。 小説と同じように、自分の思想や価値観をそこに押し付ける事しか出来ないのだろうか。 そんな事に頭を悩ませていた。  ……それでも、ただ。 この僕の行いを、完璧な間違いだとは。 決してこの世の誰も、言えやしないのだろう。 それだけは都合良く。 僕はこの世界の懐の深さを── 信じている。* * * 夜の森を出た僕達は西園に渡り、更に様々な動物を見た。 ハシビロコウは一切動じず。 コビトカバは意外と大きく。 オカピは何だか良く分からず。 アイアイは思いの外醜かった。 僕とマイはその一つ一つを指差して。 驚いたり、笑ったり。 慄いたり、白けたり。 僕達の二人の関係が、訳の分からないご都合主義だなんて事は全部忘れて。 ただただ当たり前に。ごく普通に。 恋人としての距離を、真っ当に縮めていた。 しかし、その最中であっても、僕の足元に留まる影の中には、何やら不穏な得体の知れない物体が蠢いているのを感じざるを得なかった。 緩い風に乗って、ふ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-11
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『細く尖った安堵の切先』

「あなたが薪無一郎《まきな いちろう》先生ですよね?」 足を踏み入れた小さな診療室の扉を閉めた後、私はすぐに彼へと話しかけた。 背を向けていた彼は、豪華な革張りの大きなソファに座っており、そのままくるりとソファを回転させ、こちらを向く。「おお!もしかして、本当に来てくれたのかい? いやぁ、良かった。待っていたよ! ささ、座って! 座って!」 促されるまま、私は遠慮なく椅子に座った。「薪無一郎先生。いきなり呼び出された立場として、一つ聞いてもよろしいでしょうか? あなたが私をこのタイミングで呼び出したのは、やはり何か、訳があっての事なのですか?」 私の質問に薪無先生はそのボサボサした頭をつまみながら、にへらにへらと軽薄に笑う。「いやいや。この度はいきなり呼び付けてしまって申し訳ない。いや、なに。そろそろ君にも話を聞かないといけないと思ってね。たぶん、現場が煮詰まってくる頃だからさ。そういう君も何となくの状況はわかっているんでしょ?」 それを聞いて、その何となくと言った事情をすぐに察した私は、なるほど。と頷いた。「それにしても先生は、よく私だってすぐにわかりましたね。私はSNSに顔も載せていないし、本名だって公開していないはずなのに」 「いやぁ、それは確かに君からみれば驚くのも無理はないよ。でも、私も今まで様々な患者を見てきたからね。まあ、簡単に言えば経験則ってやつかな。勘だよ。勘」 私は薪無先生の言った、『経験則』という言葉に疑いは持たなかった。 多分本当にこの先生は、今までの経験から来る研ぎ澄まされた勘で、私の事を見つけ出したのだろう。 しかし、こうもあっさりと見つけ出された事に、私は釈然としない気持ちもあった。 今までこんな事は一度もなかったからだ。 だから私は、次の言葉に少しばかりの皮肉を添えた。「そうですか。先生はお若そうなのに随分とまあ、良い経験をお持ちなようで」「あら、君から見てもそんなに若そうに見える? それは嬉しいね。私はあまり格好や外見に頓着する方では無いけども、ルックスはいいに越した事ないからね。患者もその方が安心するしさ。ねえ、君もそう思うでしょ?」「いえ、私はお若そうと言っただけで、別に先生のルックスを褒めたわけではありませんよ」「なーんだ。それは残念。釣れないねぇ」 つんと唇を尖らせて不貞腐れる薪無先
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-15
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『忘却された幸福の香り』

 薪無先生からマイの話を聞いた、次の日。 僕は店の裏でタバコを吸っていた。 相変わらず手で巻く事にこだわったタバコは、側から見れば、いつもと同じような重たい煙を上げていたが、それが放つ香りは以前とだいぶ違っていた。 何故なら僕はもう、紅茶の香りのするパラダイスティーを吸っていなかったのだ。 まだ口に馴染まない新しいフレーバーに、僕は戸惑いを感じながらも、ゆっくりと煙を肺に入れて、またゆっくりと煙を吐き出す。 疲れた頭にニコチンを染み渡らせると、わかりやすくクラクラして、寝ぼけた頭のように、ふわふわと不明瞭な自我の糸を綱渡りしながら、僕は頭をぐしゃぐしゃと掻いていた。「肯太郎さーん! おいしょ! あら、あらら!」 左から聞こえるのはマイの声。 格好はあの白いワンピース。 金色のアホ毛を揺らしながら、大きなお尻を金網のフェンスに擦って現れる。 そんなマイは無邪気な笑顔を浮かべていた。「おはようございます! こちらをどうぞ!」 綺麗な角度のお辞儀から差し出される、微糖の紅茶。 僕はそれを見て微笑む。 そう。あれから僕と夢乃マイとの関係は何も変わっていなかった。 ──上野デートの帰り際の事。 僕がトイレで散々吐いて満身創痍になり、ふらふらとそこから出ると、マイはトイレの前で心配そうに僕を待っていた。 大きな目に涙を溜めながら、眉を顰めて胸の前で手を祈るように組む、マイ。 そこにあの狂気の目はもうなかった。 マイは通常のマイに戻っていたのだ。「ああ、肯太郎さん!! お身体は大丈夫でしょうか? どこか具合が悪いのでしょうか? それともワタシが何か肯太郎さんに嫌われるような事をしてしまったのでしょうか? もしその様でしたら大変申し訳ございません!」 マイは僕に駆け寄って、ぎゅっと袖を掴む。 その言葉に嘘や裏は無いのがすぐにわかった。 マイは全力で僕を心配していたのだ。  もう出すものも全部口から出して、めまいと頭痛のピークも去ったと感じた僕は、これ以上の痛みのぶり返しを恐れて、なるだけ何事もなかったように笑ってみせる。「いや、大丈夫だよ。僕の金鶏に対する強い想いにマイも驚いてしまったんだろう。悪いのは僕の方だ。それじゃないなら、せめてはお互い様だ」「い、いえ。肯太郎さんは何も悪くなんてありません。きっとワタシが取り返しのつか
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-16
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『白無垢を纏う白昼夢』

 薪無先生から聞いた夢乃マイの生い立ちは、凡俗な僕にはあまりにも理解し難いものだった。 それは決して悲劇的で、衝撃的な過去等ではなく。淡々と緩やかに歪んでいく、一見自然に見えるまでの不気味さからくる不協和を感じた。 まず、マイの両親は幼い頃に他界している。  しかし、こういう言い方もどうかと思うが、それ自体に大した意味はない。 と、いうのも、両親が他界したのは、マイがとても小さな時分の事であり、マイの記憶としては、両親はもういないところから始まっているとの事で。 その後も両親がいない事に対して、特別な負の感情は抱かなかったと、本人が言っていたらしい。 マイの問題とは、こういった何かの喪失や決定的なショックで起こったものではなく、ほんの些細なところのズレと、マイ自身の難儀な性格により発現した事である。 両親の他界後は、未成年後見人として、母親の姉にあたる伯母に引き取られ、その後マイは、特に何不自由ないと言って差支えない生活をしていた。 伯母は一人での生活が長く、貯えもそれなりにあったので、マイはひもじい思いなんかもしていなかった。 だけど残念ながら、ここで一つのズレが生じる事となる。 それは伯母に“子育ての勘“が無かった事だ。 薪無先生は、物事において“勘がない“というのは、何よりシンプルで、何より大きな欠点であると話す。 すなわち、いつまでたっても“勘“が掴めないものの難易度とは、思いの外とても高くなってしまうものなのだ。 所謂、“感覚“というものと同義だろう。 自転車に乗る時、自身の体を自然に制御し、いちいち手元や足元を見なくとも、軽く前に進めるようになるように、人はその“勘“や“感覚“で物事の理解や制御を早め、習得する。 だが、マイの伯母には子育てのノウハウに関して、そういった習得する勘というものが、一切備わっていなかった。 それによってマイは周りとは少し違う、どうにも特殊な環境で育つ事になってしまっていた。 具体的に言えば、伯母はマイを、“子供“としてではなく、“個人“として解釈していた。 伯母は自我の曖昧な子供に向かい、大人と同じような自我がある前提で育ててしまったのだ。 例えば、成人した同い年の友人が、突然仕事を辞めてしまったところで、誰も頭ごなしにすぐに次を探して働けなどと、上から目線で全力をかけて叱咤する事は無
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-19
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『交差した交接を成す為の鍵』

「遂に終幕って感じの顔をしているね。少年」 薪無先生は左手でペンをくるくる回しながら、口角を上げる。「いえ。まだ、何も終わってませんよ。終わるとしたら、これからなんですから」 マイとの予定を明日に控えた僕は、この判断が本当に正しいのかと不安になり、薪無先生の下へと訪れていた。「じゃあ何故にそんなスッキリした顔をしてるんだい。まるでトンネルの出口が見えかけて、光が差してるみたいな様子だ」 僕の顔を見て、薪無先生は唇を尖らせて訝しんだ。 この診察室には鏡がないものだから、僕としては自分が一体どんな表情をしてるのかもわからない。 でも、きっと少し落ち着いた顔なんだろうという事だけは、何となくそれでわかった。 なので、僕はマイと一線を越える覚悟を決めた旨を先生に伝えようとするが、普通に気恥ずかしいもので、尻込みする。 いや、薪無先生ならこれで十分伝わるだろう。 そう思って、僕は端的に述べた。「明日、マイを家に呼びます」 その途端。 一瞬、驚いた顔を覗かせて、あー。と声を漏らし、徐々になんだか渋い顔に変わる薪無先生。 目を瞑って、こめかみをぽりぽり掻いた後。 先生はジト目を僕に向けた。「君は出来ないよ。セックス」 意図が伝わるどころか、その先を読んだようにスパッと一刀両断されてしまった僕は、気が抜けて、ぽかんと口を開けてしまう。「は?」 薪無先生は深いため息を大袈裟に吐いて、呆れた口調で僕に言った。「あのさぁ、前にも言ったでしょ。セックスってのはただ単純に、少年のその焦って硬くした不安をマイちゃんにぶち込めばいいって訳じゃ無いんだぜ? それとも何か? 少年は前戯も無しにいきなりぶち込む畑の人? そういう趣味?」 おい。流石に酷いだろ。 人の事を勝手に激ヤバな強姦魔に仕立て上げないでくれ。 突拍子もない酷い扱いを受けて、僕も思わずジト目を返す。 「いやいや、何もそんな言い方ないじゃないですか! 下品な言い方はよしてくださいよ! 僕はただ、マイの欲求が大きくなって、これ以上溢れ出たらいけないから何とかしようって思って……」「それは奢りだ」「……え?」 いきなり事で、いつそうなったのか僕は気が付かなかった。 薪無先生は笑っていなかった。 鋭く目を細めながら、笑い事じゃないよ。と言いたそうな圧のある目を僕に向ける。「君は
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-21
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『いずれ何処かで破裂する吐息』

 その日は僕の住むアパートの最寄りである、四ツ谷駅で待ち合わせをした。 繁華街ではないものの、サラリーマンの多い新宿通りは、どの時間帯でも人がいて、秋葉原とはまた違った雰囲気の都会感がある。 確かマイは池袋が最寄りだと言っていたので、僕はJRの方ではなく、丸の内線の改札前で待っていた。 それから程なくして、マイは現れた。 僕にとってはだいぶ見慣れてしまったマイの容姿だったが、普段のなんて事はない最寄り駅の情景と重なると、なかなかやはり人混みの中でもよく目立つもので。 長く艶めいた金髪はそれだけで目を引くし、そして何より、その身分を偽って纏った、清楚なロングスカートの制服姿は、軽く周囲をぎょっとさせるくらいには現実味を置き去りにする可憐さがあった。「肯太郎さん! 申し訳ございません! 大変お待たせ致しました!」 パタパタと駆け寄ってきたマイは、近くで見ると淡いピンクの口紅を引いていた。 僕はその唇に、今日という日にかけたマイの期待と覚悟を直視してしまいそうになり、慌てて頭頂部の気の抜けたアホ毛に目を移し、話す。「おはよう。大して待ってないから大丈夫だよ。さあて、どうしようか。すぐに僕の家に行っても、面白いものは無いからつまらないだろうし、どこか飲食にでも入って食事でもしようか?」 待ち合わせしたのは大体、正午だった。 四ツ谷という土地の性質上、サラリーマンが昼休憩を取る正午は、飲食店に彼らがごった返す。 なのでそれをあえて狙って、昼食に誘おうと思ったのだが、マイは僕の提案に勢いよく首を横に振った。「いえ! 肯太郎さんが特に空腹で無いのであれば、ワタシも空腹ではありませんので、どこにも寄らずお家にお伺いする方向で構いません!」 ああ……そうか。だとすると。 このまま直行になってしまうな……。 僕は顎に手を添えて考えたが、確かに僕も変な緊張で空腹感はなく、ここはもう白旗だった。 これの何が白旗なのかと言うと。 正直僕は、少しでも自然に時間稼ぎがしたかったのだ。 先日の僕は、覚悟を持ってマイを家に呼ぶ事に決めたのだが、その後の薪無先生との話で、あの決断が早計だと知らされた。 暗いトンネルを出る為の、もう一つの鍵。 僕の過去に直結する、その鍵を探さなくてはならなかったのだ。  けれども、そんな抽象的すぎるそれに心当たりが
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-26
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『いつか無力と決めつけた錯覚』

 鍵を開けたその部屋は、十二畳の1Kだった。 決して広いとは言い難いが、一人暮らしには十分だと感じられるほどの空間だ。「とりあえず、遠慮せずに上がってくれ」 僕は玄関で乱暴に靴を脱いで、いつも通り何も気にせずスタスタと上がるが、マイは僕の放った靴を手早く屈んで拾った上に、それは丁寧に揃えると、玄関の端に並べて寄せた。「失礼します! お邪魔させて頂きます!」 大きな声と共に、ぺこりと綺麗にお辞儀して、申し訳なさそうに壁に手を添えながら、後ろに足をあげ、上品にローファーを脱ぐマイ。 僕はまだ、釈然としない胸のざわつきを抱えて緊張していたが、そういう大袈裟で大胆かつ繊細なところが、なんだかマイらしくて笑えたし、やたらと可愛く思えて、少し辛くなった。 踏み入れた僕の部屋に、物という物は大して多くなんてなかった。  小説や漫画の刺さった本棚とパソコンデスク。 パイプフレームの安いシングルベッドと小さなガラクタ棚。 後は……。 存在感を放つ、一本の水槽が置かれていた。 玄関から部屋に入り、一番目につく位置に置かれた大きなそれは、上面に取り付けられた青白いライトで照らされている。 濾過《ろか》フィルターから循環して戻ってきた水が、表面に水流を作り、波立たせ、閉め切った薄暗い部屋の壁に大きな波紋を映し出していた。  さながらそれは、部屋全体を水没させたと錯覚させるほどの、幻想的な揺らめく淡い光に満たされていて、まるで外界からの影響を受けずに隔離された、永遠の空間にも感じられた。 しかし、こんなのは僕としては日常的な事で、普段から部屋の明かりをつけないものだから、特に見慣れた光景になっていたが、マイは流石にすぐに気がついて、それは強く興味を持った。「な、なんですか?! とても美しいです!」 明るくはしゃいで、うっとりとしたマイは、話を聞かない子供のように慌てて水槽へと駆け寄って跪《ひざまず》くと、ガラスに手を付き、なんなら鼻先までをちょこんと付けて、懸命に中を覗き込む。 だが、その水槽の中には、おそらくマイが期待したであろう、美麗な熱帯魚の群などは泳いでいない。 きっと落胆して肩を落とすかもしれないと懸念して、僕は自分が何も悪く無いにも関わらず、なんだか少々ばつが悪くなるのを感じた。 そこに入っていたのは、深緑色をした丸太のような風体の、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-31
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