「ここへは不死鳥を見に来たのです」 園内へ入った彼女は、僕の方へと振り返り、いともあっさりと目的を告げた。 当たり前だが、僕は面を食らう。 はっきり言ってしまえば、まさか彼女がこんな奇天烈な思考や態度を持った人物だとは思っても見なかったからだ。「不死鳥? 勘弁してくれ。そんなものがいるわけないだろ」「いますよ。ワタシは見た事がありますから」 彼女はきっぱり言い捨てると、僕と歩幅を合わせる事もしないまま進んだ。 流石に僕はもう少しだけ引き留める。「いや、まてよ。それが見たいというのはわかった。しかし、せっかく来たんだ、他のものもゆっくり見てから、目当てのものは最後に見ればいいじゃないか?」 彼女は振り返りもしなかった。「いえ、ワタシは不死鳥に会いに来ただけです。向かう先は決まっています」 彼女は人だかりの出来たパンダやゾウに脇目も振らず、ただひたすらに自らの目的へと一目散に向かって行く。 きっと、彼女にとって、そんなもの達の事はどうでもいいのだろう。 僕はそこに、自分の見たいものや、欲しいものが全てと考える、彼女の幹《かん》に流れる傲慢さと愚直さをはっきりと見た。 正直、とても興奮した。 何故ならそこで僕は、ついに彼女が本性を現したと思ったのだ。 これは、誰も知らない彼女の一面。 圧倒的な自我。譲らない価値観。 普段の重たい制服から解き放たれ、足取りが軽くなった彼女は、優雅に羽ばたく鳥のようだった。 そして、僕は想像した。 部室でずっと後ろから眺めていた、あの黄金色の髪を揺らしながら笑う彼女。 容姿が良く、愛想が良く、気立が良く。 誰からも愛されて然るべき彼女。 上品でお淑やかな、あの振る舞いの下。 あの笑顔の下で、きっと彼女は何人からも向けられた好意を、自らの揺るがぬ価値観で無惨に切り捨てて、上面《うわつら》のみで笑っていたのではないかと。 まるで油彩の如くぶ分厚く塗り重ねた、彼女の下にある地の色はきっと、最初からこういうものだったのだと。 それを想像して。 どうしようもなく、興奮したのだ。* * * やがて彼女は一つの檻の前で足を止めた。 早速、目的にたどり着いたのだ。 なんて事はない、通路の脇。 誰も見向きもしない古びた鉄の檻。 そこにいたのは一番《ひとつがい》の鳥だった。「うふふ。なんと美し
Terakhir Diperbarui : 2025-12-05 Baca selengkapnya