都内のIT企業に勤務する神宮寺貴美子は、朝、ベッドから起き上がり、シャワーを浴びていて、右腕の前腕部の内側に奇妙なアザが浮き出ているのに気付いた。ポリエステルの垢擦りで擦っても消えなかった。それはアルファベットのような彼女が見たこともない文字が前腕部に平行に10センチほどの長さで四列に浮き上がっていた。文字はテレビで見るアラビア文字のようでもあった。触ってみても皮膚に入れ墨をしたようで、スベスベしていた。 バスルームから出て、彼女は部屋を点検した。ドアはしっかりとロックされてチェーンがかかっている。ベランダへの窓も大丈夫だった。大きくもない部屋のクローゼットとかトイレも調べたが誰もいない。彼女一人だった。 (まさか昨夜誰かに睡眠薬を飲まされて眠っている内に入れ墨を入れられたってわけじゃなかったな) 彼女はいろいろ考えたがこんな皮膚の異常が現れる原因に思い至らなかった。アレルギーがあるわけじゃない。でも、アレルギーは急に体質が変わって現れることもあると聞いたことがあった。昨日食べたものを思い出したが、別段、普段食べているものと同じものだ。おかしな食材を摂取したわけでもない。 (落ち着こう。まず、写真を撮っておこう) タオル姿でダイニングの椅子に腰掛け、スマホで十数枚、いろいろな角度から写真を撮った。スマホの画面を拡大してみる。どう見ても無秩序な入れ墨?アザ?ではない。これは文字だ。しかし、なぜ私の腕に文字が浮き出るの?なぜ? 貴美子はスマホで会社の近くの皮膚科を検索した。会社のある同じビルの三階に『皮膚科・アレルギー科 諸星クリニック』があった。ネットでの予約ができたので、9時半に予約を入れた。 社のグループチャットで上司の末澤均に病院に行ってから出社します、とメールを打った。同じAI開発プロジェクトを担当している同僚に遅れて出社する旨メールを回覧した。末澤から『具合が悪いなら休めばいいよ、有給も溜まってるだろう?』とレスが来る。同僚の高杉恵子からも『休めよぉ~!休め!無理すんな!』とレスが来た。 手早く朝食を済ませた。『女子プロの岩谷麻優みたいに入れ墨のある左腕だけプロテクターをするわけにもいかないわ』と思い、初夏だったが、ブルーの長袖のボタンダウンシャツを着た。 午前中の出社時間だったので、クリニックの待合室は閑散としていて、
Terakhir Diperbarui : 2025-11-12 Baca selengkapnya