旋回する救助ヘリは、父と従妹を乗せ、遠ざかるように空へと消えていった。私は体の半分を濁流に浸し、力の入らない両手で流木にしがみついている。指の間からはすでに血が滲み、折れた肋骨は呼吸のたび鋭く悲鳴をあげた。口の中に、生臭く甘い味が広がったその時、朦朧とした意識の向こうで、救助隊の制服を着た父が私を高く抱き上げる幻影が見えた。「父さんがずっと唯ちゃんを守ってやるからな」頬に触れようと手を伸ばした瞬間、目の前の景色は泡のように儚く消えた。数日前。従妹の小嶋由奈(こじま ゆな)に、リゾートのイベントに付き合ってほしいと頼まれた。気乗りしなかったが、母に叱りつけられ、渋々承諾した。けれど、まさか由奈が、私に大会主催者の接待役を押しつけようとしているとは思いもしなかった。抵抗しようとしたその瞬間、突如として洪水が押し寄せ、リゾートは一瞬にして濁流にのまれた。私は由奈の手を引いて木に登ったが、彼女は泣きじゃくりながら私を罵った。「父さんと母さんの言う通り、あんたって本当に疫病神ね」胸の奥に広がるやるせなさを必死で押し込めていると、ようやく父が救助隊を連れて駆けつけた。しかし、ヘリに空きが一人分しかないと知るやいなや、父は迷うことなく私に繋がっていた命綱を切り落とした。「由奈ちゃんは泳げない。ヘリにもう席がないんだ。お前は少しぐらい助けるのが遅れたって、死にはしないだろう」私はヘリから突き落とされ、地面に叩きつけられた。内臓がねじれるような激痛に、呼吸すら奪われる。だが父は、苦痛に歪む私の顔など見向きもせず、冷え切った表情で由奈を抱き寄せ、ハッチを閉じた。そして今。目を開けた時、私は病院の救急治療室に運ばれていた。母が血相を変え、そばの看護師に詰め寄っていた。「Rhマイナスの血液、あと一袋しかないの?先に由奈に輸血して!」看護師は戸惑いながら私を指さした。「日向先生、こちらの患者さんも輸血を待っていますが――」母は私の顔を見て、一瞬だけ動きを止めた。その刹那、私の体から気力が消えていくのを感じた。舌先を噛み、必死に母の服の裾を掴む。「お母さん、痛いよ……」だが母は、まるで触れることすら嫌うように、冷たく私の指を引き剥がした。まるで私が実の娘ではなく、憎むべき誰か
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