「部長、私、異動したいです」「君の業務レベルなら、総務部では才能がもったいないよ。後悔しないか?」「もう決めました」浅草明美(あさくさ あけみ)の目には決意と覚悟しかなかった。部長の向井志雄(むかい しお)は眉をひそめ、もう説得せず、報告書を置いた。「手続きには少し時間がかかるだろう。最遅で二週間くらいだ。この期間は元のスケジュール通り飛ぶことになるが……」志雄は明美を見つめ、少し躊躇したが口を開いた。「……この件は、やはり君の機長、津田さんに伝えておく必要がある」「わかりました」津田颯真(つだ そうま)のことを聞いて、明美の顔色は少し青ざめた。彼女は何事もなかったかのようにうなずき、振り返って部屋を出た。ドアを閉めた瞬間、彼女はほっと息をついた。彼女が離れることは、絶対に颯真には知らせないつもりだ。なぜなら颯真は彼女の機長であるだけでなく、二年間共に過ごした夫でもあるからだ。二人の出会いは、いかにもドラマチックな展開から始まった。高嶺の花である浅草家の令嬢が、敵に追われ路地で危うく辱められそうになったとき、颯真はヒーローのごとく現れ、彼女を救った。その日、少年は白い制服を着て、まるで守り神のように彼女の世界に現れた。彼は彼女のために十数人の不良と戦い、命を落としそうになった。不良たちを追い払った後、彼女は震えながら、少年に「どうして一人で私を助けに来たの」と尋ねた。日差しに髪の汗が光る中、少年は笑った。その表情は穏やかで、決して揺るがなかった。「怖がることはないよ。お前は女の子だろ。どんなことがあっても、俺が守ってあげなきゃな」その瞬間から、明美は津田颯真という名の渦に救いようもなく巻き込まれていった。彼女は転校して、彼の学校に通った。毎日彼と登下校を共にし、朝食と昼食を作った。彼の家が貧しいことを知ると、彼に隠して学費を全額援助した。彼が航空学のトップ大学を目指していると知ると、明美は海外の学校や推薦枠を諦め、颯真と一緒に努力して受験勉強をした。周囲の人々は、明美が性格を変えて、真面目に勉強するようになったと言ったが、明美自身だけが知っていた。彼女がこれらすべてをしていたのは、ただ颯真にもっと近づき、彼に好きになってもらうためだった。ついに努力が実を結び、彼女は望
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