九年間付き合った彼氏が、突然LINEの名前を【Saki♡Love】に変えた。理由を訊いても、教えてくれなかった。彼の秘書が【Saki】という名前で二人がイチャイチャしている写真を送りつけてきた時、ようやく全てを理解した。私は冷静にその写真を保存し、それからお母さんのLINEを開いてメッセージを一つ送る。「お母さん、実家に戻って政略結婚する件、分かったわ」メッセージを見たお母さんから、すぐにビデオ通話がかかってきた。「詩織、それじゃあ結婚式、今月末に決めよう」いいわ。長谷部之野(はせべ ゆきや)との関係は、あと十五日で終わりにする。「そうそう!すぐ届け出とかしないと。有名な先生に占ってもらったら、その日がとっても良い日なんだって!」お母さんは上機嫌にそう言うと、私は頷いて「うん」とだけ返事をした。通話を切った後、スマホを持ったまま呆然としていると、浴室から出てきた之野が私の背後に立ち、少し緊張した声で訊いてきた。「今言った届け出ってどういうこと?」また私が結婚をせっつくんじゃないかって、警戒してるんだ。「何でもないわ。ちょっと証明書が切れたから、更新しなきゃいけなくて」適当にあしらってその場を離れようと彼を通り過ぎた瞬間、ツンと鼻をつく香水の匂いがした。之野は私の様子がおかしいことに気づいたのか、慌てて弁解した。「途中で香水のセールスがあったから。試してみただけなんだ。匂いがこんなにきついとは思わなかった」彼の言い訳は、あまりにも拙かった。私は微笑んで「そう」とだけ返し、寝室へと向かう。街をぶらつくのが何より嫌いな之野が、セールスに興味あるなんておかしくないか?明らかに女性ものの、濃厚な香り。彼自身がデパートのカウンターで試すはずもない。九年も一緒にいれば、彼の嘘なんて簡単に見抜ける。私はただ、ずっと自分に嘘をついてきただけ。一時間前、私は小野寺咲(おのでら さき)のSNS投稿を見ていた。彼女と之野は、大きな誕生日ケーキの前で、人だかりに囲まれながら、ぴったりと体を寄せ合っていた。咲の手には、之野が贈った六カラットのダイヤの指輪が光っている。もともと咲は、地方の私立大学を卒業したごく普通の女の子だった。之野の同郷だという理由だけで、私は彼女をいわゆる「縁故採用」とい
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