花束が床に叩きつけられ、渡辺颯太(わたなべ そうた)は、私には一瞥すらくれずに踵を返して出て行った。私は藤堂亜衣(とうどう あい)。彼と付き合って、もう五年。プロポーズされた回数は、これでついに百回目だ。周りはみんな、さすがに今度こそはゴールインだろうと思っていた。日にちだって、私の誕生日に合わせてわざわざ選んだ。友だちがそろって二時間も待っていたのに、彼が遅れてきた理由は、彼の幼なじみである葉山鈴(はやま すず)が映画を観たいと駄々をこねたから。バンと、扉がまた乱暴に開け放たれ、溶けかけていた生クリームのケーキがドサッと床に崩れ落ちた。彼はそれを一顧だにせず、私の大好物のローストビーフだけを、全部持ち帰り用に包ませた。さすがにその場の、私を気の毒がるような空気が気になったのか、彼は言い訳めいたことを口にする。「ほら、あいつ最近ずっと情緒不安定だろ。どうせプロポーズなんて、もう何回目か分かんないくらいやってるし、今回くらい別にいいだろ?先に鈴の機嫌を取ってくる。お前はここでみんなの相手してて。夜、様子見て戻れそうなら戻るから。誕生日プレゼントは、そのとき改めて渡す。そうだ、このスペアリブ、まだ誰も箸つけてないよな?これも持ち帰るから、お前らもう一皿頼んで」友だちの誰かが、私の代わりに怒ろうとしてくれた。でも私は逆に張り切って、彼を手伝い、ついでにほかに欲しいものがないかまで聞いてしまう。彼が指で軽くテーブルを示すと、その一帯の料理はきれいにごっそり、持ち帰り用の袋に消えた。「悪いな。鈴、潔癖だからさ、他人が箸つけたものの持ち帰りは無理なんだ」彼は、忙しく立ち働く私の様子を見て、どこか満足げにうなずく。「今日は珍しく、全然キレないんだな。その調子で、これからも頼むよ」前の私なら、必ず颯太を問い詰めていた──私と鈴、どっちが大事なのかって。そのたびに喧嘩になって、傷つくだけ傷ついて、最後は彼が腹いせに鈴の家へ泊まりに行くのがお決まりだった。けれど、今日はもう、本気でどうでもよくなっていた。颯太が大きな紙袋を両手に提げて店を出ていくと、友だちが怒りに任せてテーブルを叩いた。「てっきり、あいつはテイクアウトなんか絶対しないタイプだと思ってたのに!」彼は付き合いの飲み会も多くて、外での集まりにはし
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