私は登記簿をそっと渉の前に滑らせた。「名義人:橋本萌乃(はしもと もえの)」という文字が、私の目を刺すようで、痛かった。長瀬渉(ながせ わたる)の顔色が瞬時に青ざめ、無意識にその紙を隠そうとしたが、手が半ばで宙に固まった。「澪(みお)、説明させてくれ……」彼は声がかすれ、目尻が急速に赤らんだ。見慣れた姿だ。私に申し訳なく思う時、彼はいつもこんな無垢で脆い表情を見せる。昔、私はその表情に一番弱かった。「いいわ、聞くよ」私は目の前のお茶を手に取り、奇妙なほど平静な口調で言った。彼は私を見つめると、目の中に一瞬の動揺が走った様子だった。私の冷静さが彼の予想を超えていたようだ。「萌乃……彼女はうまくいってないんだ」彼は苦しそうに口を開いた。「あの時、両親が反対して無理やり引き裂いたんだ。それで萌乃は重度の鬱病になって、長い間休学してて、それで人生めちゃくちゃだだから、この家は彼女への償いだ。澪、俺は彼女に償わなければならない」私はうなずき、理解を示した。「じゃあ、私は?」渉は呆然とした。私の言葉を理解していないようだった。私は彼を見ずに、携帯電話を取り出し、長年大切に保管していた一枚の写真を探し出した。それは私たちが6畳にも満たない地下室を借りていた頃に撮ったものだ。古びた折りたたみテーブルの上には、借金返済の督促状がびっしりと積まれていた。写真の隅には、絶望に打ちひしがれた彼の横顔も写っていた。「彼女への借りは、もうこの家で返したけど。じゃあ、私へのはどうなの?」彼はうつむいて写真を見ると、体が激しく震えた。この写真が、苦しみながらも支え合ったあの記憶を呼び覚ましたようだ。長瀬家の莫大な借金を返済するため、私は安定だった仕事を辞め、一日三つのアルバイトを掛け持ちした。あの三年間、私の睡眠時間は一日四時間を下回らない日なんてなかった。一度高熱が出た日もあって、お金を節約するために病院に行かず、無理やり布団にくるまって耐えようとした日。その日、渉は肺炎になりかけた私を抱きしめ、子供のように泣きながら、必ず本当の居場所を与え、二度と苦しませないと誓った。彼はそれをやり遂げた。渉は再起を果たし、ビジネス界の新星となった。そして私に居場所をくれた。しかし、その居場
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