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第10章

Penulis: 一旦セーブ
彼女は私の手を握り返し、温かく力強い手でそっと言った。「澪、実はずっと前から、あんたを実の娘のように思ってたのよ」

胸がほっこり温かくなった。

彼女は私を見つめ、笑いながら尋ねた。「ずっと、あんたの家柄とかで不満だったって思ってなかった?」

私は少し恥ずかしかったが、それでも素直にうなずいた。「確かにそう思ってました。何せ長瀬家は当時、名門でしたから」

「おバカ」彼女は失笑しながら首を振った。

「不満なわけないでしょう?私と渉の父も、かつてはゼロから始めたものよ。何もないところから努力して、事業を築き上げた。苦しい日々を散々経験してきた私たちが、人の出身だけで見下すわけないでしょう?」

「じゃあ……萌乃は?」思わず尋ねた。

「萌乃は違う」彼女は冷たく鼻を鳴らした。

「彼女は長瀬家に入った瞬間から、その目には名声や権利への欲望でいっぱいだったわ。渉が恋愛すること自体は反対じゃないけど、ただ、歪んだ人間に渉の人生を壊して欲しくなかった。でも残念、渉は当時恋に目がくらんで、私の言葉に耳を貸さなかった」

彼女はため息をつくと、すぐに悟ったように笑った。「でも澪、あんたは違う。あんたが渉を見る目は純粋で、思いやりがあった。一筋の雑念もない愛だ。それを見た瞬間、あんたは良い人だって分かったわ。渉と一生を共にできる人だって」

そうか、彼女は最初から私を受け入れてくれていたのか。

「だから、澪」彼女は真剣な眼差しで私を見つめた。

「たとえ渉と離婚しても、あんたは永遠に私の娘よ。もし嫌じゃなかったら、これからは私を母親だと思っていいのよ」

彼女は少し間を置き、付け加えた。「でも、できれば私のことを名前で呼んでほしいの――伊藤薰(いとう かおる)って」

「薰さん……」この名前を聞くのは初めてだった。

私はそっとその名を口にした。優雅で上品な響きは、彼女そのものだった。

「ええ」彼女の瞳に懐かしさの涙が浮かんだ。

「この名前、もう長い間呼ばれていなかったの。私自身も忘れかけていたほどに。

結婚前は、みんな伊藤家の娘って呼んでた。結婚後は長瀬夫人。渉が生まれてからは、母。

誰もが私のことを呼んでいたけれど、でも誰も、私のことを名前で呼んでくれる人はいなかったわ」

その瞬間、私はまるで、身分と責任に縛られ、「長瀬夫人」という殻に閉じ込められてきた魂が、
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