All Chapters of 初恋に溺れた夫、義母に追い出される: Chapter 1 - Chapter 10

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第1話

結婚して一年、私は妊娠した。佐藤慎也(さとう しんや)は私をお姫様みたいに甘やかしてくれた。お義父さんもお義母さんも佐藤家の恩人だと言ってくれていた。私はずっと、こんな暖かい家族にめぐり会えて、自分はなんて幸せなのだろうと思っていた。あの日、あんなことが起こるまでは。私はやっと、すべては仕組まれた嘘だったと気づいたのであった。妊娠してから私はやたら眠くなるようになった。一日二十四時間のうち、10時間以上寝てしまうこともザラだ。その日は昼間に水を飲みすぎたせいか、眠っている途中で尿意で目が覚め、トイレへ行こうとベッドから起き上がろうとした。しかし電気をつけると、隣で寝ているはずの慎也の姿がないことに気がついた。名前を呼んでみたが返事がなく、部屋にいる気配もない。スマホを見ると、すでに深夜一時をすぎていた。こんな時間に、慎也はどこへ?少し気にはなったが、深く考えずにトイレを済ませ、またベッドに戻って眠ろうとした。でも、慎也が帰っていないせいか、どうにも落ち着かず、浅い眠りを繰り返した。さらに夜も更けた頃、突然ベッドが沈む感覚と同時に、鼻先にふわりと桃の甘い香りが漂ってきた。私は一瞬で目が覚め、胸の奥がドクンとはねた。妊娠中は夫の浮気が増える、ネットでよく見る話だ。妻が妊娠中は性行為が難しくなるため、外でつまみ食いする男がいると。まさか、慎也も外で食べてきた?いやそんなわけない、慎也は性欲に振り回されるタイプじゃないし、結婚後の頻度だって決して高くなかった。でもじゃあ他に何が?なによりあの香水の匂いはどう説明すれば?考えているうちに、私はまた眠気に負けてしまった。翌朝、目が覚めてから昨夜のことを聞くと、慎也は一瞬だけ固まり、それからすぐに「会社の同僚がどうしても急ぎの書類が必要だったから、夜中に届けに行ったんだ」と答えた。説明自体はおかしくないが、どうしても胸のざわつきが消えなかった。それから少し注意して様子を見ていると、確かに慎也は最近どこかおかしかった。慎也の帰宅はどんどん遅くなり、家に戻ってからトイレに篭る時間もやたらと長くなった。男の人にとってトイレは第二の家だという話は聞くが、それにしても長すぎる。そして何より、私が近づくと、必ずと言っていいほどス
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第2話

頭の中がぐちゃぐちゃだ。慎也が不倫した?その事実に至った瞬間、涙がこぼれ落ちた。どういう感情なのか自分でもわからず、ただ苦くて辛くて、胸が締め付けられた。こういうのは初めてではない。十年前に母も同じ目に遭っていた。当時父は外の女に夢中になっていて、母と離婚したいと騒ぎ立てた。母が拒否すると、父は勝手に家を出て別の場所で暮らし始めた。とうとう、家の中は大荒れになってしまった。母はどうしようもなくなって離婚を受け入れ、私の親権以外何も求めなかった。父はそれを聞くや否や喜んでいた。離婚後の十年、私と母は二人で寄り添って生きてきた。私はやっと結婚して、妊娠して、慎也の家族にも大切にしてもらえて、自分もようやく幸せになれたと思っていたのに、全部水の泡だ。慎也のこれまでの優しさは全部嘘だったの?一日中泣き続け、目はくるみのように腫れ上がった。帰ってきた慎也にその顔を見られた。慎也は一瞬固まり、「結衣(ゆい)、どうしたんだ?何かあったのか?」と聞いてきた。私はテレビを指差し、「悲しいドラマを見てて……主人公が可哀想で、つい泣いちゃったの」と誤魔化した。慎也はほっと息をつき、近づいてきて、そっと私を抱き寄せた。「本当に感受性が強いんだから。テレビなんて全部作り話なのに、女性ってこういうの見るの好きだよな。ほら、街角の店のクッキーを買ってきたから、早く手を洗っておいで」慎也の声も仕草も優しいのに、私の胸は苦しさでいっぱいだった。あのラインのメッセージを見なければ、慎也のことを疑うこともなかったのに。慎也が外で他の女とそういうことをしていたと思うと、吐き気で食事も喉を通らない。慎也は私のつわりが急にひどくなったと思ったらしく、私も適当な理由で誤魔化した。少なくともあの女が誰なのか突き止めないと。翌朝、慎也は朝早くに出勤した。彼が家を出たあと、私は急いで身支度を済ませて会社の近くまで後をつけた。妊娠してから、慎也の勧めで私は仕事を辞めた。慎也が「俺の稼ぎで十分だから、結衣が外で嫌な思いをする必要はない」と言ってくれたのだ。だから今の私には時間がたっぷりある。何日か観察したが、慎也は会社と家の往復のみで規則正しく、怪しい行動はなかった。誰が見ても理想の夫だった。一週
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第3話

その時私は嬉しくて、石井綾香に酒を一杯注いであげた。彼女は飲み干すと泣き出して、「あなたたちがずっと幸せでいられますように」と言った。今思えば、その涙は祝福などではなく、私が慎也と結婚したからこその涙だったのだ。私は慎也の友達をほとんど知らないし、彼も私を友人の集まりに連れて行ったことがない。だから彼の周りから情報を得るのはまず不可能だった。そこで私はサブ垢を使い、慎也の友達から彼女のペンネームを聞き出してネットで検索した。驚いたことに、彼女の情報はネットにたくさん出てきて、かなり有名なネット小説の作者なようだ。彼女の作品は全部で五冊、ざっと読んだがどれも甘やかされ妻系の小説ばかりだ。文体は繊細で最新作は『青春のあと』というタイトルだった。開いて読んでみると、大学生活を舞台にした男女の恋愛物語で、主人公の女は感受性の強い小説家、男は両親が公務員の保守的な家庭育ち。慎也の家族構成と全く同じだ。物語では、二人は大学卒業後、男の方の親の反対で結ばれなかった。しかし二人は互いを忘れられず、男の方はその後結婚したものの、妻は難産で亡くなり、子供が一人残された、と書いてあった。そして二人は再び運命に導かれるように結ばれる、そんな展開だった。どういうわけか、私にはその物語が石井綾香と佐藤慎也の話にしか思えなかった。そして物語の中の早死にする佐藤の妻、それが私の役割なのだろう。そう思った瞬間、吐き気がするほど気分が悪くなった。綾香は自分を清らかなヒロインとして描き、私のことは男を奪って死ぬ悪役扱いだった。最後は難産で死ぬなんて、どれだけ私を馬鹿にすれば気が済むのだろうか。小説の読者グループを辿っていき、ついに私は石井綾香のサブ垢を見つけた。そこには彼女の本音が大量に記録されていた。最初の投稿は数年前のものだった。【私の彼は本当に優しい。私に家事は一切させないし、皮付きの果物なんて食べさせられたことがない。渡してくれる水はいつでも蓋が開いていて、私が行きたい場所にはどこへでも付き合ってくれる。彼はいつでも私を支え、理解してくれる】と書かれていた。次の投稿では綾香は【別れた】と書いていた。理由は【私は体が弱いし、先天性の心臓病があって子供が産めない。でも彼の家族はとても保守的で、しかも彼は一人息子。
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第4話

ここまで考えたところで、歯が砕けそうなほどの悔しさが込み上げてきた。慎也こそが私を深い闇から掬い上げてくれる人だと思っていた。私は彼を愛していたし、彼のいうことならなんでも聞けると思っていた。でも今になって、私と慎也の出会い自体が、最初から仕組まれていたのではと思う。あの頃、私と慎也は同じ会社にいて、私は慎也が担当するインターン生だった。幼い頃から家庭環境が良くなかった私は、いつも自信がなく、仕事で理不尽な扱いを受けても反抗できなかった。そんな私をずっと助けてくれたのが慎也で、時間が経つにつれて、私は彼を好きになっていた。やがて彼が告白してくれて、私たちはすぐに結婚した。もしかしたらその時点で、田舎から出てきた気弱な女で、不公平な扱いを受けても言い出せないような私は、すでに慎也の獲物になっていたのかもしれない。私ほど都合のいい道具に向いた人間はいないだろう。でも、追い詰められればウサギだって噛みつくし、操り人形だって怒る時もある。まさか私が永遠に泣き寝入りするとでも思ったのか?私と母を裏切った父が今どれだけ悲惨か、第三者は知らないのだろう。私はもともと優しい人間なんかではない。この世で一番許せないものは裏切りなのだ。一度にあまりに多くを知りすぎたせいで、私はそのまま倒れてしまった。39度の高熱が出た。慎也は「どうして急に熱が?」と慌てふためいていた。その心配そうな顔にも、彼の本性を知っていなければ、私はまた騙されていただろう。私は掠れた声で「薬とってきて」と言った。慎也は困ったように「結衣、妊婦は薬を飲めないよ、赤ちゃんに良くないから」と返した。やはり慎也が気にしているのはお腹の子供だけだ。私は目を閉じ、それ以上何も言わなかった。それでも、私が本当に危険な状態だと思ったのか、慎也はアルコールで私の身体を拭いてくれた。翌日になってようやく熱が下がった。慎也も一晩中付き添ってくれて、大きなクマのせいか酷く憔悴して見えた。彼は掠れた声で「よかった……結衣、やっと熱が下がったね」と言った。「さっき友達から電話があって、ちょっと出てくる、またすぐ戻るよ」「ゆっくり休んでて。何か美味しいものを買って帰ってくるから」慎也がシャワーを浴び、身なりを整えて車で出ていく様子を、私は冷
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第5話

その頃には慎也も義両親もすでに病院に駆けつけてきていた。慎也は悪いことをして叱られている子供みたいに頭を下げ、私の母に必死に弁明していた。突然の事態だっただけに、母は慎也がその場にいなかったことをずっと根に持っていた。「妊娠後期で、しかも一晩中高熱に苦しんだ結衣を一人残して出かけるなんてありえない。どうしても外せない事情があったとしても、電話に出ないのは論外だ」母はそう憤っていた。あの時母が駆けつけてくれなかったら、私も赤ちゃんも死んでいたかもしれないのだ。義両親も当然、慎也が悪いとわかっていて、しばらく彼を叱りつけていた。慎也も自分が悪い自覚はあるのか、ずっと俯いたまま、謝ろうと近づいてきたが、私は顔を逸らして無視した。髪は乱れ、無精髭が伸び、服はシワだらけ、それに微かに香水の匂いがした。その姿を見るだけで、汚らわしく感じた。私が電話したあの時、彼が何をしていたかなど言わなくてもわかる。慎也が私を傷つけたことは、時間が経てば、もしかしたら許せたかもしれない。でも彼は子供までをも危険に晒したのだ、これだけは絶対に許せない。いずれにせよ、慎也と両家の親から見れば、私は慎也と冷戦状態に入ったようだった。その雰囲気のまま私は退院して家へ戻った。義両親は「素人の自分たちでは不安だし、嫁姑問題が起きても困る」と相談し、二人の産後ケア専門の家政婦を雇い、慎也が私の世話をすることにした。そうすれば少しは夫婦の関係も和らぐだろうと考えたようだった。家政婦のおかげもあり、産後一ヶ月で私はすっかり体調を取り戻した。赤ちゃんたちも順調に育っていて、兄は元気いっぱい、妹はおとなしく、二人ともふっくらしていて可愛らしい。お礼として、私は家政婦たちに少し多めに包んだチップを渡した。この期間、慎也はやたらと張り切っていた。初めて父親になった喜びで、一日中赤ちゃんのそばにいたがり、必死にパパと呼ばせようとしてた。その様子を見るたびに、胸がキュッと締め付けられるように苦しかった。もし慎也が不倫なんてしていなければ、私たちはどれほど幸せだっただろう。けれど外面だけの優しさに騙されてはいけないのだ、あの二人はいつでも私を排除しようとしているのだから。今のうちに身体を回復させ、これからどう動くか考えなくてはならない
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第6話

私は思わず声を上げた「誰が言ったの?うちの子が体外受精だなんて」「そんなデタラメ、誰が流したのよ?私たち自然妊娠だけど」綾香は完全に固まった。慎也も同じように、凍りついたように動けなくなった。その場の空気が一気におかしくなった。頭の中で、何かが殻を破って飛び出したような感覚がした。結婚して長い間妊娠しなかった頃、慎也は私を友達が経営しているという市立病院へ連れ行った。その時医者は体外受精を勧めてきた。慎也も何度も私にやってみようと急かした。でも私は自分の身体に問題はないと思っていたから断った。その後、自分で身体を整えていたら、自然に妊娠したのだ。あの時慎也の言葉を信じていたら、私はあの二人の代理母にされていたかもしれない。綾香の卵子が私の身体にこっそり移植されていたかもしれない。だからこそ、あのサブ垢で【あの女のお腹の中の子供は私と佐藤さんの子なんだ】と書いていたのだ。そういうことか。思っていた以上に彼らは狂っていた。その場にいた三人のうち誰の表情が一番ひどかったのかはわからない。長い嘘の中で生きていた私か、今ようやく真実に気づいた綾香か、それとも二人を同時に騙していた慎也か。帰る時の綾香は今にも倒れそうなほどふらついていた。元々細くて弱々しい上に、ショックを受けたせいか余計にか弱く見える。慎也の目には彼女に対する痛ましさが溢れかえっていた。私は奥歯を噛み締め、胸の中の怒りを必死で抑え込んだ。階段を降りる時、綾香は足を滑らせ、慎也が一歩で駆け寄ってきて抱きとめた。「気をつけて」私は冷ややかな目でその光景を見つめ、後ろから落ち着いた声で言った。「来週の水曜日、うちの子の生誕一ヶ月記念のお祝いがあるの。綾香さん、ぜひいらしてね」綾香は振り返り「必ず行くわ」と答えた。彼女の目は典型的な華やかな目だ。深い水色のように潤み、花のように艶やかで、その奥には強情なくらいの輝きが宿ってる。その夜、慎也は理由をつけて外出した。家政婦は何か言いたげで、遠回しにほんの少しだけ忠告をくれた。そうだ、他人ですら気がつくのに、当事者の私が気づかないはずがない。私の目の前で堂々とこんな真似をするなんて、馬鹿にするにも程がある。その夜綾香のSNSを見ると、また更新されてい
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第7話

綾香は早々に来て、慎也の友人たちのテーブルに座り、失意に満ちた顔で、より一層か弱く見えた。まさか本当に来るとは思わなかった。慎也も綾香の姿を見て驚いたようで、何度も彼女の方へ視線を投げていたが、綾香は一度も慎也を見なかった。二人が今喧嘩中なのは明らかだった。ということは綾香はわざと来たのかもしれない。このクズな二人の思考なんて理解しようとするだけ無駄だ。碌でもない人間の行動はいつだって理解不能だ。でも来てくれたおかげで助かった、綾香がこなければこれからの舞台が始まらなかったのだから。ちなみに義両親も綾香を見て驚いた様子だった、特に義父は表情が一瞬で険しくなった。どうやらこの二人の間には私の知らない事情がまだありそうだ。お祝いの盛り上がりが最高潮に達した時、司会者が私に新米ママとして一言求めてきた。私はマイクを受け取り、妊娠中の苦労や母になった喜びなどを話した。そして話題を変え、「皆さんに見て欲しいものがあります」と言った。その瞬間会場のスクリーンが点灯した。全員の視線が一斉にスクリーンへ向けられる。そこに映ったのは慎也と綾香の写真。街角で手を繋いでいる写真、キスしている写真、見つめ合っている写真、綾香がSNSに載せたベッドの写真。モザイクを入れたが、それが慎也であることは誰の目にも明らかだった。さらに綾香のSNSの投稿も表示された。彼らが私を、代理母にして子供を産ませたら離婚するつもりだったと書いていた部分を特に強調しておいた。そしてあの日、綾香がうちに来た時、二人がトイレで交わした会話の録音も流した。【どうして?どうして私を騙してたの?あの女を好きになったの?】【違う、綾香、愛しているのは綾香だけだ。あの女と一緒にいるのは子どものためだ】【信じてくれ、子どもの授乳が終わったら必ず離婚する。そしたら綾香と結婚して、ずっと一緒だ】会場の全員の顔がその場で凍りついた。慎也の両親も、綾香も。綾香は私がすでに全て知っていたことも、今日暴露するつもりだったことも知らなかったようだ。彼女は怯えたウサギのように立ち上がり、テーブルの皿をひっくり返してしまい、会場中の視線を集めた。最初に動いたのは母だった。母は一直線に慎也のところへ行き、思い切り頬を叩いた。慎也の顔は横に大き
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第8話

だからこそ、義両親が綾香を家系に入れたがるはずがなかったのだ。お義父さんは顔を真っ青にしながら言い放った「今すぐあの女と縁を切れ、二度と会うな」慎也は首を強張らせ「父さん、綾香は不倫相手なんかじゃない、俺が一番愛している人だ」と言った。お義母さんが駆け寄ってもう一発ビンタをくらわせて言った「あんた、本気で私たちを怒らせる気なの?」それでも慎也は折れず、「子供はもういるんだから、跡取りの心配はない」と開き直った。そして「これからは綾香と一緒に暮らす」と宣言した。お義母さんは嘆き顔で慎也を問いただした「不倫相手のために妻子を捨てるって?慎也、私たちはあんたをそう育てたかい?」「結衣さんを見なさいよ。あの子があんたの妻なのよ。出産してまだ一ヶ月よ、これからどうさせるつもりなの?」慎也は一瞬だけ申し訳なさそうに私を見たが、それもその一瞥だけで、すぐに決意を固めた顔に戻った。「結衣……すまないとは思っている」「でも俺と綾香は本気で愛し合っている。子供は結衣が連れて行っていいし、もし望まないのなら俺達が育てる」さらに「子供を置いていくなら2000万円と家を渡す」と言った。子供を連れていくなら「1000万円と今の家を渡す」とも。私は冷静に考えた、もう慎也とは無理だ、離婚するしかない。なら私は少しでも多くの金を取るべきなのでは?さもないと子供達をどうやって育てるというの。ただ、今はそれを口にする場面ではないと判断して黙っていた。しかしお義父さんは断固として反対し、「石井のやつと一緒になるのはお前が死んでからだ」と吐き捨てた。慎也は頭を掻きむしりながら崩れ落ちた。義両親は慎也を叱りつけてはいたが、血のつながった実の息子であり、誰を庇うかは明確だった。彼らは慎也を叱った後、矛先を私に向けて「今日は軽率だった」と責めた。「たとえ慎也に非があっても、家の中で処理すればいいこと。外にまで晒してどうするの?周りがどう見ると思ってるの?」私が口を開く前に母が激昂した。一日中怒りを押し殺していた母は、ついに義両親に怒りをぶつけた。「自分の息子のことばかりで、うちの娘の気持ちを考えたことがあるか?ここまで傷つけられたのに発散もさせないなんて、うちの娘を狂わせたいの?」「娘をここまで育てたのは、誰かに踏
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第9話

慎也には冷徹、人でなしというレッテルが貼られた。一方、綾香はもともとネットで多少知名度があったため、矛先はより彼女へ向けられた。ネット民は口々に、偽善的なぶりっ子作家だと罵り、【見た目は弱々しいくせに裏では一番腹黒い女だ】【典型的なあざとい女だ】と書き立てた。さらにネット民は綾香の母親がかつて愛人だった過去を掘り返し、【親が歪んでいれば子も歪む】【一家揃ってとんでもない】と噛みついた。特に卵子のすり替えを図ったことは、多くの妊婦の怒りに火をつけた。女性は共感力が高い分、余計に許せなかったのだ。それから綾香の家には不審なものが送りつけられるようになった。自体は驚くほど早く炎上した。確かに私は二人にもう顔を上げて歩けないほど恥をかかせたいとは思っていたが、ネットでここまで叩かせるつもりはなかった。それでも結局は自業自得だろう。慎也の一家もこの騒動でてんやわんやだった。特に慎也は嫌がらせのものを何度も受け取り、何度か暴れ出しそうになっていた。しかし義両親に制止された。慎也は全ての責任を私に押し付けた。「どうしてこんなことをした?噂が人を殺すこともあると知らないのか?」「確かに昔は代理母にしようとしたが結局やらなかっただろ?結婚してから俺にどこか悪いところがあったか?なぜ俺をこんな目に遭わせる?綾香まで巻き込むなんて」怒りで血管を浮かせる慎也を見て、私はまるで知らない人間のように感じた。知り合ってからずっと、たとえ演技が混じっていたとしても、彼は優しく穏やかな顔しか見せてこなかった。こんなふうに怒り狂う姿を見たのは初めてだった。私は何度も「私がやったわけじゃない」と言ったが、慎也は信じようともしなかった。これまで私の味方だった義両親さえ、騒ぎに疲れ果てて、私への態度が冷たくなった。全て私のせいだと思っているようだった。でも私は明らかに被害者なのに。母がずっと味方でいてくれたから、私はなんとか踏みとどまれていた。事態はますます手がつけられなくなっていた。綾香が自殺を図ったのだ。その知らせを聞いた慎也は服もろくに着ずに飛び出して行った。もちろん綾香は死ななかった。十八階に上って数分も経たないうちに慎也が駆けつけ、彼の姿を見たん瞬間綾香はすぐに降りてきた。綾香は泣きながら慎也の
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第10話

家に戻ってから、私は自分の生活を立て直すことに集中した。ここ最近はあまりにも色々ありすぎて、子供達はずっと家政婦に任せきりだった。私は自分がどれだけ子供を後回しにしていたか気付かされた。母親になって初めて、子供にはなんでも一番いいものをあげたいと思う気持ちがわかった。子供を見つめていると、「慎也と揉めていたあの時間を全部子供に使えばよかった」と思わずにはいられなかった。お金があれば、男がいようがいまいがどうでもいい。あとは慎也が早く義両親を説得して、離婚の手続きを進めてくれるのを待つしかない。厄介な人間達がいなくなると、毎日がとても穏やかだ。子供が少しずつ成長していく姿を見るのは本当に幸せだった。あの日の午後までは。お義母さんから泣きながら電話があり、「お義父さんが入院した」と告げられた。私は子供を母と家政婦に預け、急いで病院へ向かった。そこで初めてお義父さんが慎也に怒らされて心筋梗塞を起こしたことを知った。この数日、慎也はずっとお義父さんと対立していたらしい。しかしお義父さんはどうしても折れなかった。そして今日、慎也は綾香の助言に従い、彼女を連れて義両親の家へ押しかけた。お義父さんは彼女を見た瞬間に機嫌が悪くなったが、綾香は必死に説得を試みた。そして最後には「認めてくれないなら、慎也さんと二人で家を出ます。これからは息子はいなかったものと思ってください」と言い放った。慎也は幼い頃から義両親の誇りだった。成績優秀、仕事も順調、人柄も良くて礼儀正しい。綾香と関わるまでは、義両親にとって完璧な息子そのものだった。お義父さんは慎也は綾香に惑わされたのだと思っていた。怒ったお義父さんは杖で綾香を叩こうとし、慎也が庇おうとしてお義父さんを押しのけ、その拍子にお義父さんは倒れてしまった。床に倒れ、そのまま呼吸が乱れ始めた。家族は大慌てでお義父さんを病院へ運び、その途中で私にも連絡を入れたという。私が到着した時、お義父さんはすでに手術中だったが、残念ながら手術は成功しなかった。お義母さんは何度も気を失いかけるほど泣き崩れた。私も見ていて胸が入り裂けそうになるほど辛かった。お義父さんは普段厳しいところもあったが、私には本当によくしてくれた。私が妊娠すると、義両親は栄養価の高い滋養食品
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