結婚して一年、私は妊娠した。佐藤慎也(さとう しんや)は私をお姫様みたいに甘やかしてくれた。お義父さんもお義母さんも佐藤家の恩人だと言ってくれていた。私はずっと、こんな暖かい家族にめぐり会えて、自分はなんて幸せなのだろうと思っていた。あの日、あんなことが起こるまでは。私はやっと、すべては仕組まれた嘘だったと気づいたのであった。妊娠してから私はやたら眠くなるようになった。一日二十四時間のうち、10時間以上寝てしまうこともザラだ。その日は昼間に水を飲みすぎたせいか、眠っている途中で尿意で目が覚め、トイレへ行こうとベッドから起き上がろうとした。しかし電気をつけると、隣で寝ているはずの慎也の姿がないことに気がついた。名前を呼んでみたが返事がなく、部屋にいる気配もない。スマホを見ると、すでに深夜一時をすぎていた。こんな時間に、慎也はどこへ?少し気にはなったが、深く考えずにトイレを済ませ、またベッドに戻って眠ろうとした。でも、慎也が帰っていないせいか、どうにも落ち着かず、浅い眠りを繰り返した。さらに夜も更けた頃、突然ベッドが沈む感覚と同時に、鼻先にふわりと桃の甘い香りが漂ってきた。私は一瞬で目が覚め、胸の奥がドクンとはねた。妊娠中は夫の浮気が増える、ネットでよく見る話だ。妻が妊娠中は性行為が難しくなるため、外でつまみ食いする男がいると。まさか、慎也も外で食べてきた?いやそんなわけない、慎也は性欲に振り回されるタイプじゃないし、結婚後の頻度だって決して高くなかった。でもじゃあ他に何が?なによりあの香水の匂いはどう説明すれば?考えているうちに、私はまた眠気に負けてしまった。翌朝、目が覚めてから昨夜のことを聞くと、慎也は一瞬だけ固まり、それからすぐに「会社の同僚がどうしても急ぎの書類が必要だったから、夜中に届けに行ったんだ」と答えた。説明自体はおかしくないが、どうしても胸のざわつきが消えなかった。それから少し注意して様子を見ていると、確かに慎也は最近どこかおかしかった。慎也の帰宅はどんどん遅くなり、家に戻ってからトイレに篭る時間もやたらと長くなった。男の人にとってトイレは第二の家だという話は聞くが、それにしても長すぎる。そして何より、私が近づくと、必ずと言っていいほどス
Read more