夫の河野悠斗(こうの ゆうと)が帰ってきたとき、私はベランダでタバコを吸っていた。悠斗はタバコの匂いが嫌いで、嗅ぐとすぐに眉をひそめる。だから彼と一緒になってからは無理に禁煙していた。一時期は禁断症状に苦しんだほどだ。悠斗は私がタバコを吸っているのを見て、一瞬固まった。でも、とくに何も言わなかった。彼は何気なく私にプレゼントの箱を渡すと、淡々と言った。「7周年のプレゼントだよ。ごめん。今夜は急に残業になっちゃって、連絡するの忘れてた」「ううん、大丈夫だよ」最後の一服を終えてから、私は箱を受け取って開けてみた。中には、星のネックレスが入っていた。箱を閉じて、「すごく嬉しい。ありがとう」と伝えた。悠斗は呆然としていた。何か言い訳したそうだったけど、言葉が出てこないみたいだった。彼は驚いた顔で私を見ていた。いつものように、私がしつこく問い詰めてくるとでも思っていたんだろう。私も、あのトレンドを見たら、きっとヒステリックになって悠斗を問い詰めて、大喧嘩の末、気まずく終わるんだろうと思っていた。今日は私たちの結婚7周年の記念日。プロポーズしてくれた時のレストランを予約して、悠斗をサプライズで喜ばせるつもりだったのに。わざわざ仕事を早く切り上げて、国立天文台の入り口で彼を待っていた。でも、待っている間に、トレンドニュースを見てしまったんだ。#本日正式発表!国内で新たに発見された惑星、識別番号960306を「二宮美緒(にのみや みお)の星」と命名。#天文学者の河野悠斗氏、記念すべき初の惑星発見そのすぐ下で話題になっていた投稿の主は、悠斗本人だった。【君の名前を、あの星につけた。これで宇宙にいても、君はひとりじゃないよ】添えられていたのは、レストランで美緒と顔を寄せ合っているツーショット写真。美緒は、その惑星の命名証明書を手に持っていた。コメント欄を開くと、一番「いいね」がついていたのは美緒のコメントだった。【二人だけのロマンチックなことをみんなに教えてくれて、ありがとうございます!先輩、すごく嬉しいです!】私はスマホを助手席に放り投げ、予約していたレストランへと車を走らせた。私はひとり、二人分のステーキを食べた。もうすぐ終わる私たちの7年間の結婚生活を弔うかのように。もう一本タバコ
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