雫は書類に素早く目を通した。「つまり、お母さんのために、この医療支援を申請できるってこと?」湊は頷き、雫の母のカルテを取り出した。「このプロジェクトは『特殊な患者』を対象にしている。身寄りがなく貯金もない人もそうだが、症例が極めて少ない希少な病気の患者も含まれるんだ。おばさんの病気は希少病ではないけれど、進行の仕方が一般的な症例とは異なっている。これを突破口にして申請できると思うよ」「私は何をすればいいの?」「準備は全部してある。申請書は一番下だ。俺が記入しておいたから、お前は家族署名の欄にサインするだけでいい」湊の準備は至れり尽くせりだった。雫は胸が熱くなり、心から感謝した。「湊、本当にありがとう。助かるわ」「友達だろ、水臭いな」湊は笑った。「本当に感謝してるなら、飯でも奢ってくれよ」雫は快諾し、二人は病院からほど近いレストランで簡単な食事をした。その間、湊は何かあればいつでも頼るようにと言ってくれた。雫は迷惑をかけたくなかったが、彼の好意を無下にもできず、笑顔で頷いた。基金の医療支援申請は順調に進み、三日も経たずに承認された。これで母の医療費は一時的に基金が負担してくれることになり、湊も母のケアを手伝ってくれる。雫の肩の荷はずいぶんと軽くなった。病院を出て、墨を流したような夜空を見上げ、雫は小さく息を吐いた。久しぶりに心が穏やかだった。「俺がいない間、南秘書は随分と楽しそうだな」背後から馴染みのある声がして、雫は反射的に体を震わせた。信じられない思いで振り向く。「司?出張じゃなかったの?」「予定より早く戻らなきゃ、こんなにリラックスしたお前の顔は見られなかっただろうな」司は眉を軽く挑発的に上げた。機嫌は良さそうで、出張の成果が上々だったことが伺える。ただ、なぜ彼が病院の入り口にいるのか。雫は目を見開いた。「誰かに私を尾行させたの?」「ただの偶然だ」司は嘘をついていなかった。出張から戻り、雫からの連絡がないことを思い出して部下に探させようとした矢先、骨折で入院した悪友から「お前の愛人さんを見かけた」と連絡が入ったのだ。「俺から来なきゃ、お前が素直に会いに来るわけないだろう?」司は、雫がまだパーティーの件で拗ねているのだと思っていた。新しいプロジェクトが順調だった
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