夫がトイレに入っている間、彼のスマホが鳴った。画面を見ると、夫の弟の橋本健太(はしもと けんた)からの着信。私は少し眉をひそめたが、電話に出ることにした。「兄さんさ、今月の仕送り30万円、まだ振り込まれてないって。さっき母さんから聞かれた」電話を切った瞬間、全身の血が逆流するような感覚に陥った。夫の給料、手取り40万円ほどだったはず。ローンが10万円、私への生活費が15万円、自分のお小遣いが5万円。親への仕送りは10万円って言ってた。なのに……どうしてそれが30万円になってるの?結婚して5年。私は一度も、夫の給料振込口座の通帳を見たことがなかった。この他に、私の知らないことが一体どれだけあるのだろうか。……電話の後、私はその場に立ち尽くした。10分間、頭の中が真っ白だった。ただ、「30万円」という言葉だけが脳内でリフレインしていた。先月のお盆、実家の両親に5万円あげたいと私が言った時。彼は「今月は苦しいから、また今度にしてくれ」と言った。私はそれを信じ、そんなお願いをした自分を責めて、申し訳ない気持ちにさえなった。両親は逆に私のことを慰めてくれて、「私たちのお金とか家とか、将来は全部あなたのものなんだから、気にしなくていいよ」って言った。まさか、彼の言う「苦しい」の正体が、自分の親への毎月30万円の仕送りだったなんて。「……落ち着いて聞いてくれ」夫・橋本健司(はしもと けんじ)が私の手を掴もうと歩み寄る。私は思い切り手を振り払った。目は氷のようだった。「聞くって何を?あの30万円が嘘だって言うつもり?」過去の情景が、どうしようもなく胸の奥から溢れ返ってくる。セール品のコートが気に入って、半月迷ったけど、結局買わなかった。毎週、スーパーでできるだけ安くなるように計算して買い物をしている。数十円のために店の人と値段交渉をすることもある。お肉を少し多めに買うだけでも、今月の残りのお金が足りるかどうか、いちいち考えてしまう……それなのに、彼は?目を赤くして夫を見た。胸がぎゅっと締め付けられるように痛くて、ほとんど息ができなかった。拳を固く握りしめ、爪が手のひらに深く食い込んだ。彼は青ざめた顔で視線を逸らした。「健太は結婚したばかりだし、奥さんも妊娠してて物入り
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