充は手の中のメモを強く握りしめた。温かい雫がメモに落ち、黒い文字を滲ませる。会社を立ち上げたばかりの、一番大変だったあの頃を思い出していた。苦労知らずだった莉子なのに、両親の反対を押し切って、自分と一緒にエコノミークラスで世界中を飛び回り、接待に付き添ってくれた。よく一緒に徹夜で企画書も仕上げたし、疲れたら飛行機の中で肩を寄せ合って眠った。お腹が空くとパンを二つ買い、公園のベンチで分け合って食べ、犬の散歩をする家族を見ては、自分たちの結婚後の生活を語り合ったりもした。充が初めて大型契約を結んだ日、二人は誰もいない会社の屋上で抱き合って泣いた。莉子は目を赤くしながら、充が左手の中指に指輪をはめてくれるのを笑顔で見つめ、そっと呟いた。「おめでとう。充の頑張りが、こうして形になったね」充はゆっくりと目を閉じる。込み上げてくる様々な思いを飲み込むかのように、喉が絶えず上下に動いていた。少し気持ちが落ち着いてから、充はゆっくりと他の隠し扉も開けていく。メモには、充に必要なものか、あるいは二人で約束したのにまだできていないことが書かれていた。例えば、一緒に海外旅行に行くことやラベンダー畑で写真を撮ること。それから、自分たちでウェディングドレスを選ぶこと……全てのメモを読み終えた充は、息ができないほど胸が苦しくなった。まるで目に見えない大きな手で、心臓を強く握りしめられているかのようだった。ぽつりぽつりとこぼれ始めた涙は、やがて顔中を伝い、充は声にならないほど泣いた。もうすぐ幸せに手が届くはずだったのに、どうしてこんなことになってしまったのか……充には、なぜ自分と莉子との関係がここまでになってしまったのか分からなかった。メモを一枚一枚丁寧に箱に戻し、その箱を自分の戸棚にしまう。他の書類や賞状を脇に寄せ、箱を一番真ん中に置き、それからまたベッドに横になった。頭の中にはたくさんの場所が浮かんだが、莉子が行きそうな場所は思いつかない。莉子が一番行きたかった場所は?分からない。じゃあ、一番したかったことは?やはり、分からなかった。莉子が絶対に自分から離れないと確信して以来、充は莉子のことを知ろうとしなくなっていたのかもしれない。だから今になって思い出そうとしても、何もかもが曖昧で、まるで他人事のよ
続きを読む