「あら、喜介君。今日は一人? 草薙社長はどうしたの?」 その週の金曜日、僕はもう一度、今度は一人でクラブ・夜香蝶にきた。麗香ママは僕を覚えていて、洋輔さんパワーの名残で僕は上座のテーブルに案内された。クラブの二番人気の女性に奥に案内される青二才。どこの御曹司かと探る客の目、僕は意図して堂々と振舞う。 「洋輔さんが来られないなんて残念だわ。また来てね、と伝えてね」「先日こちらで飲んで養父は大変楽しかったようで、飲みすぎてドクターストップです」「またまた」麗香ママは冗談だと思いつつも、でも満更でもなかったようで楽しそうに笑ったが、僕にとっては笑いごとではない。ドクターストップは本当のこと。飲みすぎても何も、洋輔さんは酒一杯でノックアウトする。森川唯が亡くなってからずっと、洋輔さんは粥しか食べられない。お祖母様が雇った栄養士資格を持つ料理人が栄養のある粥を作っているが、それでも健全な食生活とは言えない。でも、何も言えない。何か食べようならば吐いてしまう。僕が成人していくつか食事の席を代理できるようになったが、重要な席はやはり洋輔さんが出なければならず、食事をしたその日は洋輔さんのえづく声が深夜まで続き、それが終わると主治医が洋輔さんに点滴を施す。これが草薙家の日常。そんな体で摂取する酒は毒と変わらず、高い酒を入れさせようと店の女性が作る濃い酒など洋輔さんの体には耐えられない。おかげでこの五日間、洋輔さんはベッドの住民になり、お祖母様は心配そうにお小言を言っている。 そんな洋輔さんの療養のお供はトレゾア。最近のトレゾアはなぜか古代中国の所刑法に興味を持っており、洋輔さんはトレゾアの望むままにそれを教えている。トレゾアの基本的な人格みたいなものは僕と同じ年の女性をベースにしている。草薙家にきて一番最初に与えられた役割が、トレゾアの話し相手だった。今日は何をしたのか。いま学校ではどんなものが流行っているのか。洋輔さんは僕に与えてくれたのと違う愛情をトレゾアに与えて”彼女”を育てた。最初は、森川唯をバーチャル上に作るのだと思っていた。次は、森川唯との間に生まれた子をバーチャル上に作るのだと思った。でも、違う。トレゾアは洋輔さんの欲の塊。あの二人にこうしてあげたかった、洋輔さんのそんな欲を満たす存在。洋輔
Last Updated : 2026-01-20 Read more