All Chapters of 見つからないパズルピース: Chapter 11 - Chapter 20

35 Chapters

10

ウィンディ映像は風間太一と風間奈美の夫婦二人でやっている小さな会社だった。主な業務は自治体や企業からの委託による記録映像の制作。防災訓練、地域行事、社内研修、工場の安全教育など、ああいうのかって理解できた。特に不審な点がない会社。派手な収入はないが安定した収入がある会社。墨田聡への入金記録がなければ、この会社には何も疑いはもたなかっただろう。あの入金記録があったから、この会社ではあり得ないあの金はどこから得たものかという疑問がわいた。 その答えを知るために俺は風間夫妻を探した。そして見つかった、地方新聞の記事で。人の好い不動産会社のあの社長は「埼玉のほうに家を買ったみたい」と言っていたから、俺は「埼玉」「風間」で検索をかけていた。これに引っかかった。その記事には、二人が不審な死を遂げたとあった。不審と言っても、死因は分かっている。服毒死。夫婦で毒を煽ったならば心中、つまり自殺(もしかしたら一方は他殺)。ただこの場合は同じ毒を飲むことが多い。でも二人は違う種類の毒を飲んで死んでいたという。毒性の差から、同じタイミングで飲んでも死ぬタイミングは時間単位で変わる。でも二人は同じ時間に死んでいた。 ネット民が喜ぶ謎のある事件ではあるが、全国紙の関東版のニュースになるほどではない。隣県で起きたこと、あの夫婦をマークしていなければ分からない。そして俺はこの事件を綾子に教えていない。でも綾子はこの事件を知っていた。 ―― 私も殺される!綾子はそう叫んだ。綾子は地元で大きな寺にお祓いを頼んだが、寺の住職を困惑させるだけに終わった。そんなことをしたからか。綾子が離れに引き籠って数日後、祈祷師を名乗る男が草薙家にやってきた。対応した花江さんが受け取った祈祷師の名刺をもとにネットで検索すると、除
Read more

11

人間が起こした事件だとすれば、犯人像はいくつか浮かぶ。事件は四つある。 彼女の骨が盗まれた件。三沢加奈が転落死した件。墨田聡が転落死した件。風間夫妻が服毒死した件。 犯人がそれぞれ存在するなら、犯人は四人。後ろの三つは俺にとっては今のところどうでもいいから、彼女の骨を盗んだ犯人だけ捜せばいい。でも現時点で子の犯人を見つけるのはほぼ不可能だ。警察が探しているのに見つからないから、捜査力が圧倒的に劣る俺がこの犯人を見つけることはできない。 遺骨が盗まれる事件は国内外で時折発生している。動機や背景は様々だが、今回の件で考えるなら、身代金目的、怨恨や復讐、オカルトや宗教的な動機の色が濃い。俺としては身代金であってほしい。彼女の骨を取り戻せる可能性が一番高いから。でも警察は身代金目的という推測に当初から難色を示していた。彼女の骨だけが盗まれたから。身代金目的なら二つ盗む。何らかの理由で一つしか盗めないなら、子どもの骨のほうを盗む可能性のほうが高い。そんな理由だった。残念なことに、警察の推理のほうが当たりそうだ。あれからかなり時間がたつが、いまだに身代金の要求はない。やはりこんなことはやめようと思ってしまったのだろうか。やめてくれ。ぜひ身代金を要求してくれ。そうでないと――他の動機ではほぼ彼女の骨は俺の手元にこない。オカルトや宗教的な目的の場合は分からないが、俺に対する怨恨や復讐が目的なら、俺が犯人の立場なら手に入れた骨は捨てる。もしくはばら撒く。その光景を見せて留飲を下げることをするかもしれないが、彼女の骨が失われる可能性は極めて高い。 だからだろうか。三沢加奈、墨田聡、風間夫妻。この三つの事件が彼女に関わっていてほしいと思っているのは
Read more

12

「喜介、これをデータにしておいて」養父から渡された分厚い紙の束。“をかし”“いとをかし”と教科書でしか見たことのない文字列。苦手な古典表現がずらりと並ぶ。「そんな顔をするな、トレゾアの学習意欲を見習え」トレゾアは養父の開発したAI。僕の養父である草薙洋輔は、草薙グループの副社長をやりながら通信制の大学に通ってAIについて学んだ。目標があれば何でもできると養父は言うが、もともとの才能もあったのだろう。 「学習はAIの本質、つまりトレゾアの得意技じゃないか」「確かに」そう言って笑う養父は悪戯っ子のよう。仕事中に使っている机の上に広げた雑誌。そこには草薙洋輔がどんっと載った見開きの記事。経営の才能と実務経験がある技術者ってすごい。人、会社、業界、国。いろいろなところを巻き込んでトレゾアを開発している。その結果は『日本AI界の寵児』。雑誌は草薙洋輔をゲップが出るくらい賛美している。オーダーメイドのスーツを着て、艶やかな黒髪を撫でつけて、鋭い目で頂点にたつ草薙洋輔。鼻歌を歌いながら話しかけるようにキーボードを叩く、いま俺の目の前にいる草薙洋輔とは一致しない。 僕の十七年の人生は十歳のときに大きく変わった。それまでは母の人形。母の機嫌がよければ撫でられる。母の機嫌が悪ければ殴られる。母がよく呪いのように言っていた「こんなはずじゃなかった」。その意味が分かったのは、僕の父親の従弟とかいう養父がきたから。養父は一緒に連れてきた弁護士に母を任せて、僕を病院に連れていってくれた。外傷の治療と、慢性的な栄養失調の体の改善。病室で養父は僕に「自分の子どもにならないか」と提案してきた。僕の返事がNOなら安全な施設を用意すると言われた。YESならば、草薙グループの後継者として学ばなけれ
Read more

13

僕にとって感情は性と同じ棚に並んでいる。整理できるものと、できないものがあるだけだ。   *  「……っ!」行為を終えて、ゴムが外れないように注意して先輩の体から出る。外したゴムを手早く処理して、気づいた。この作業にも慣れてきた。 トレゾアに学習させる内容には恋愛もあるため、多幸感が溢れる恋物語やドロドロの愛憎劇などトレゾアが読み込む横で僕もそれを読んできた。僕の年齢が上がれば猥褻な表現がそこかしこにある本も増えた。恋愛感情と違って本能から生まれる性欲は理解しやすい。悶々としていたわけではないが、丁度興味が高まっているときに同級生の女の子から誘われて初体験をした。なんであれがバレたのかは未だに分からないけれど、数日後に養父から通販の荷物を渡されて、首を傾げて開けると中には避妊具が入っていた。バレた恥ずかしさと、大人の階段にかけた足を不意打ちで払われたような悔しさみたいなものがあって――。―― 洋輔さんだってしているんだろ?いっぱしの大人ぶってそんなことを言った。 ―― ずっとしてない、罪悪感が半端ないから。 それを聞いたとき、最初は意味が分からなかった。罪悪感と言えば浮気と考え、その浮気と綾子さんとの夫婦関係が上手く整合性がとれなかった。草薙洋輔には忘れられない女性がいる。「お前も大人になったことだし」と、余計な一言付きで『彼女』のことを教えてもらったのはこのときだった。―― 以上が俺の……。そのあとの言葉は父の口から出なかった。言いたかったのは「大恋愛」とかそんな感じだろう。恋愛って言葉は両想いのハッピーエンドを想像しがちだから、後悔や罪悪感で恋愛とは言えなかったのだろうか。僕から見れば、養父寄りの考えであることは重々承知で、「大恋愛」だ。草薙洋輔が『彼女』に抱く感情は、草薙洋輔の人生の軌
Read more

14

警察庁舎の中は外から見るよりずっと古い。僕は自分の姿を見下ろす。高校の制服。首から下げているのはビジターカード。入口には最新のセキュリティゲート。でも、僕の足元にある床材は使い込まれていて年季を感じる。 すれ違った警察官が驚いた顔で、何食わぬ顔をして僕が通り過ぎると振り返ってもう一度見る。なんで高校生が、そんな顔をしている。部外者がこんな奥まで。自分たちの内側に入り込まれた、そんな嫌悪感も見える。許可はとってある。この先で会う人がいる。でも「高校生が警察内部にいる」という見た目だけで判断される。バイアス思考。技術は更新されるが、建物と人はそう簡単に入れ替わらないらしい。   *  スマホを確認して、扉にかかったプレートと見比べる。【捜査資料管理課】。間違いない。ここは随分と静かだ。許可がなければ入れない警察内部。ここまで来るのに必要だからと好奇心を言い訳で飾って、フロア案内図で捜査一課や捜査二課というドラマでお馴染みの単語に心を踊った。捜査一課や捜査二課が出入り口に近いのは、捜査のための出入りがあるからだろう。ここはそれらのもっと奥。人の出入りのない、事件の最前線から一歩引いた記録と保管のための場所だ。 「どうぞ」ノックをしたら応答があり、許可を得たからと扉を開けると……誰もいない?声の主はどこへ?「ここだ」そう言われて上を見た。高い梯子の上に座って彼は本を読んでいた。その高さと、なんでそんなところでという思いにヒヤっとする。 「――来たか」そう言うと、目にかけたというよりも鼻に引っかかった感じの眼鏡がズレた。この高さから落ちたら割れるんじゃないかと思った。
Read more

15

「聞いていると思うが、資料の原本は見せられない」「はい」「正確には原本の全てだ。分析に必要な範囲だけ抜粋した資料ならと上も首を縦に振った」あの頭の固い連中をどう説得したのか。浩市さんの目は僕に答えを要求していた。純粋な好奇心。それなら答える必要はない。不要に腹を探られるのは嫌だ。「僕は父に言われたことをやっているだけなので」便利な言い訳に逃げる。「くくっ、未成年だとその言葉が使えて便利だな」浩市さんは信じてはいないが、信じる真似はしてくれるようだ。「俺になんでも聞いてくれ。言えないことは話さないから安心していい」安心していい。大人の庇護が必要な子どもの扱い。苛つきがないというと嘘のようになるが、今後も使える手段だという理性の声のほうが大きい。「お願いします」浩市さんの目に感心したような感情が現れる。……よしっと思った自分はまだ子どもだ。 「ここにあるのは捜査一課の資料、どれも殺人の記録だ。俺はこれを全部パズルだと思っている」「……パズル?」「一つの資料で完成しているパズルもあれば、いくつもの資料をつなげて完成するデカいパズルもある。完成していればいい。でも未完成のパズルもたくさんあるし、力づくでピースを歪めて無理やり完成させたパズルもある」浩市さんは傍にあった資料を取り出してパラパラとめくる。「たった一つでもピースが見つからなきゃ未完成だ。事件は無限、でも捜査員は有限。どうしたって未完成で諦めるときがある。そしてその“諦めたこと”が新たなピースになって事件が起きることもある」浩市さんは自分の頭をトンっと突く。「人間の記憶力には限界がある。人間には感情があるから尚更だ。例えば、この事件の被害者は五歳の子どもだ」「まだ五歳の子ども……」「そうだ。“まだ”五歳の子ども。どうしたって俺たちはそう感じる。五歳だから可哀そう、感情が
Read more

16

「森川唯は東京都港区の公園のトイレで発見された。臍の緒もついた状態で、生まれて間もないと判断された」 二月四日、公園のトイレで泣いている赤ん坊が発見された。通報を受けた警察と救急隊が駆けつけ、病院に運ばれた。柳瀬さんが見せてくれた病院の診察記録によると、赤ん坊は低体温と脱水の兆候があるものの命に別状はなく、へその処理や感染症の有無を確認された。警察は遺棄の可能性がある事件として捜査を開始。しかし手掛かりはなかった。児童相談所に保護された赤ん坊は乳児院に移され、同時に里親の募集がかけられた。赤ん坊は仮の名前として「森川唯」が与えられた。森川唯には軽い喘息の症状があったため里親は見つからず、森川唯は二歳の十二月まで乳児院で育てられ、それ以降は児童養護施設「ひかりの丘」で育った。ひかりの丘にある生活記録によれば、森川唯は面倒見がよく、施設の子どもにも慕われていた。 「三沢加奈がひかりの丘に来たのは、森川唯が八歳のとき」三沢加奈は重要人物なので、施設の他のメンバーは名前だけだが、三沢加奈の情報もデータ化していく。「施設の記録によれば、二人は仲が良かった。三沢加奈のほうが積極的に森川唯に声をかけていた」浩市さんが読んだ情報をトレゾアに教えていく。小学校の成績表。中学校のテストの結果。生活態度や三者面談の結果など、データとして残っているものを入力していく。このデータをどう分析するのかはトレゾアが考える。浩市さんの言う通り、感情に左右されることなく森川唯の選択を評価せず事実として判断し、そういう選択する女性だというデータにする。 「高校を卒業するとデータがかなり減りますね」人格の評価という客観的なものはなくなり、残っているものだけになる。自治体に残る記録から住まいや年間の収入。納税記録から勤め先。保険証の使用履歴から利用した病院。履歴書、問診票、健康
Read more

17

事件は複雑な線で絡み合っている。推理を進めるには過去の情報が必要になる。どこに正しいピースがあるのか。心象という僕のバイアスでピースを歪めてしまっていないか。資料室にあった棚を埋め尽くす資料の数を思うたびに気が遠くなり、一つのミスが他の事件の解決の邪魔をしてしまうと思うと緊張する。   *  まずは過去十年間の資料をトレゾアに学ばせた。各都道府県警からのデータ収集は試行錯誤しつつも進み、試験運用まで四年かかった。このために洋輔さんが法的な整備を事前に進め、技術基盤を整えていたから四年ですんだとも言える。 試験運用が開始されればいろいろ問題が起きるだろうが、洋輔さんはこの点は特に気にしていない。気にしないどころか、あとは任せたと言わんばかりに僕たちに丸投げしている。運用開始と共に洋輔さんはトレゾアの前から動かなくなり、森川唯に関わりそうなことを探した。そしてトレゾアは新情報を掴んだ。一つは、森川唯の浮気相手だった墨田聡が暴行事件を起こしたとき、その身柄引受人は同居人の風間奈美(旧姓 根岸奈美)だったこと。もう一つはある企業の贈収賄疑惑の調査資料にあった一枚の写真に風間奈美がホステスとして、風間太一が客として写っていたこと。暴行事件の起きた日と写真の撮影日から、墨田聡と風間奈美が同居していた時期に風間太一が風間奈美がホステスとして働いていたクラブにきてきたことが分かった。お金の流れから三人に繋がりがあることは分かっていた。 僕たちは夫婦と男友だちだと思っていた。ヤバそうな金のやり取りがあって、一つは会社から振り込まれていて、もう一つはカモフラージュのために妻の名義の口座から振り込んでいたのではないか、と。でも今回のことで人物相関図が少しだけ形を変えた。多分、前のイメージはバイアスがあったのだろう。“ありえない”という思い込みが、真っ先に可能性を消していた。 「この三人のリーダーは風間奈美なのかもしれないな」「リーダー?」「なんかしてそうじゃないか、この三人で」“なんかしてそう”という根拠のない予想はトレゾアにはできない。今までの浩市さんの刑事としての経験と、ここで読んだ資料から感じ取ったことから言えたこの”なんかしてそう”は人間だから感じるものなのだろう。 「浩市さんならば、このあとどうやって捜査します?
Read more

18

「まあ、草薙さんったらお口が上手」六本木の高級クラブ・夜香蝶の麗香ママが機嫌のいい声をあげる。周りで華やかな装いをした女性たちが囃し立てるような声をあげる。「嫌だな、本当のことを言っているだけなのに」洋輔さんはにっこりと笑う。顔面偏差値ってやつだろうか、酸いも甘いも嚙み分けていそうな女性たちが頬を染めた。 「すごいな、天職じゃないか?」「これが天職って、仕事は何です?」褒める浩市さんに、思わず冷たく返してしまう。いや、浩市さんは洋輔さんの要望通り体をはって頑張ってくれた。 風間奈美がホステスをしていた六本木の高級クラブ・夜香蝶に入店する前、僕たちは計画を立てた。綿密ではない。洋輔さんが誰から聞き出すか決めるまでの時間稼ぎ。浩市さんには頑張って酒を飲んでほしい、とそれだけ。浩市さんはお酒が好きだったようで二つ返事で了承したが、運悪く麗香ママが同伴出勤だったようで、思ったよりも飲む時間が長くなってしまった。でも、おかげで洋輔さんの一人舞台。注文状況から洋輔さんがかなり飲んでいると麗香ママは思っているようだが、ほとんど飲んだのは浩市さん。洋輔さんは酔った振り。 「草薙社長って、生成AIの開発をしているんですよね?」「そうだよ」目元をとろんとさせて、少し大げさに笑って見せれば女性たちから「すごい」の大合唱。僕は別の意味ですごいと思った。「どうして生成AIを作ろうと思ったんですか?」その質問に、洋輔さんの笑顔が一瞬だけ消えた。 「人を探すため」「えー、それって誰ですかあ?」その言葉を皮切りに、「教えて」コールになるけれど洋輔さんは何も言わない。思わせぶりにニコニコ笑うだけ。「もしかして、運命の女性とか?」イケメンの微笑みは女性の脳内にロマンス回路を構築するのか。いや、ある意味、正解ではあるか。 「草薙社長はどういう女性が好みなんですか?」「それをいま生成AIが探してくれているんだ。うちの女性社員とか、知り合いの女性とか、いろいろな人の顔のデータをもらって……残念ながら、まだ見つかっていないんだけどね」洋輔さんの顔に哀愁が漂う。女性たちは「そうなんですか」と洋輔さんに同情気味だが、その顔を見れば『チャンス!』と全面に書いてある。因みに浩市さんは「俳優になるべきだな」と洋輔さんの天職先についてまだ考え
Read more

19

トレゾアが風間奈美を探し出した。僕が頷くと、退屈を紛らわせる振りをして洋輔さんがパソコン画面を覗き込む。その目が一瞬、獲物を見つけた獣のように獰猛になった。「この女性、いいなあ」でも、口調は軽薄な男そのもの。「どんな子なのかしら」さり気ない風を装いつつも、洋輔さんを押しのけるように麗香ママがパソコンの画面を横から覗き込む。洋輔さんも「ひどいなあ」なんて口で言いつつも、素直に麗香ママに場所を譲った。麗香ママに風間奈美を見てもらうのが目的だからだ。そのために浩市さんにも頑張ってもらったのだ。思わず僕もパソコン画面を、さり気ない風を装って麗香ママのほうに向ける。 「あら、風花ちゃんじゃない」「へえ、風花さんって言うんですが」洋輔さんが声に興味を乗せてみせれば、周りの女性たちの幾人か、見た感じトップクラスの女性たちの表情が一変する。目元を強調したメイクだから、一斉に目を吊り上げると迫力は十倍増。 「草薙社長はこういう子が好みなの?」麗香ママの声にも咎める声。僕から見れば年齢で洋輔さんには釣り合わないと思うが、麗香ママの中では自分も洋輔さんの射程圏内なのだろう。明らかに、麗香ママの声は不機嫌である。風花こと、風間奈美と自分の雰囲気が明らかに違うことも麗香ママの不機嫌の理由だろう。 「風花さんは今もこちらに?」「もういませんの」「残念だな。いまは違うお店にいるんですか? どこのお店にいるんですか?」いまにもそっちに行こうと積極的な様子を洋輔さんが見せれば、周りの雰囲気が変わる。特に、洋輔さんが風間奈美を選んだところで興味を半分失っていた女性たちが再び注目した。金払いがいい客である洋輔さんを他の店に取られて堪るか、と言った雰囲気が満ちる。 「草薙社長がお気に召した子をあまり悪く言うのは申しわけないのですけれど」このような前振りで、悪口が始まらなかったことはない。「風花ちゃんにあまり関わらないほうがいいわ。あの子の旦那さん、いまは風間太一さんかしら、風間太一さんは怖い方だから」麗香ママの言葉に周りがざわめく。キョトンとしている女性たちは若い、風間奈美がここを辞めたあとに入ってきたのだろうか。一方で、ベテランの女性たちは「それって」と言いながら隣と顔をあわせたりして、聞き覚えがあるようだ。「それって…
Read more
PREV
1234
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status