彼女は事故死だったのか。それとも自殺だったのか。ずっと、答えのないことを考えている。 その答えを持つ彼女は死んだ。彼女が死んだのは、俺が妻と結婚した日だった。 ***―― 草薙さんの携帯電話でよろしいでしょうか?あの電話が来たのは妻との新婚旅行先だった。隣では夜を共にした妻が眠ってきた。そんなベッドで電話をとった俺が悪いのであって、そこに彼女の死を報せてきた警察に非はない。それが彼らの仕事だ。彼らは彼女が死んだことを告げた。身元の確認に来てほしい、と。別れた女だから関係ない。いつもの俺ならそう言っただろうが、いま思えばあれは虫の知らせとでも言うのだろう。すぐに行くと伝えて電話を切った。身支度がほとんど済んだところでベッドで寝ていた妻が起きた。どうしたのかと尋ねる妻に、説明するのも面倒で仕事だと伝えて俺はホテルを出た。 タクシーの中で妻から電話がかかってきた。新婚旅行を途中で切り上げた詫びとしていろいろ強請られた……と思う。何を強請られたなど覚えていない。おそらく服とか宝石だったのだろう。好きにしろと言って電話を切ると、タクシーの運転手が幹線道路を降りた。空港へと頼んだはずだと詰問すれば、タクシーの運転手はこちらのほうが早いと言った。進路を阻まれた気がして苛立てば、急いでいるのは分かっているとタクシーの運転手は笑った。別れた女のために何を焦っているのかと落ち着こうとしたとき、タクシーは再び幹線道路に戻った。後ろを振り返ると幹線道路は渋滞していた。―― 間に合うといいですね。この言葉を思い出すたび、鋭い棘が俺の胸に刺さる。 東京で地上に降りてまた空に舞い上がり、俺が降り立ったのは北海道。北海道はまだ寒かった。東京は桜の最盛期なのにと、そんなことを思いながら目に留まったコートをサイズだけを確認して購入した。空港前に停まっていたタクシーに乗り、行き先を問われて数時間前の電話で相手が一度だけ名乗った警察署の名前を運転手に告げた。このときまで聞いたこともない地名だったのに、その場所が滑るように俺の口から出てきた。 警察署に向かう道はただ外の風景を眺めていた。こんな地に彼女がいるわけがないと自分に言い聞かせていた。彼女は寒いのが嫌いだった。そんな彼女が寒いと分かっている北海道にいるわけ
Last Updated : 2026-01-07 Read more