見つからないパズルピース

見つからないパズルピース

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-10
Oleh:  酔夫人Baru saja diperbarui
Bahasa: Japanese
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彼女は死んだ。 そして、彼女に何かをした人間が次々と死んでいく。 不可解な転落死。 事故として処理される死。 放火による焼死。 立て続けの不審死に妻は怯える。 幽霊を恐れて祈祷師を呼び、俺を恐れて離れに閉じこもる。 罪は、裁かれなければならない。 幽霊によってでも、人の手によってでも。 これは人間の罪の物語。 そしてこの物語を書いたのは――。

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1

彼女は事故死だったのか。

それとも自殺だったのか。

ずっと、答えのないことを考えている。

その答えを持つ彼女は死んだ。

彼女が死んだのは、俺が妻と結婚した日だった。

 ***

―― 草薙さんの携帯電話でよろしいでしょうか?

あの電話が来たのは妻との新婚旅行先だった。

隣では夜を共にした妻が眠ってきた。

そんなベッドで電話をとった俺が悪いのであって、そこに彼女の死を報せてきた警察に非はない。

それが彼らの仕事だ。

彼らは彼女が死んだことを告げた。

身元の確認に来てほしい、と。

別れた女だから関係ない。

いつもの俺ならそう言っただろうが、いま思えばあれは虫の知らせとでも言うのだろう。

すぐに行くと伝えて電話を切った。

身支度がほとんど済んだところでベッドで寝ていた妻が起きた。

どうしたのかと尋ねる妻に、説明するのも面倒で仕事だと伝えて俺はホテルを出た。

タクシーの中で妻から電話がかかってきた。

新婚旅行を途中で切り上げた詫びとしていろいろ強請られた……と思う。

何を強請られたなど覚えていない。

おそらく服とか宝石だったのだろう。

好きにしろと言って電話を切ると、タクシーの運転手が幹線道路を降りた。

空港へと頼んだはずだと詰問すれば、タクシーの運転手はこちらのほうが早いと言った。

進路を阻まれた気がして苛立てば、急いでいるのは分かっているとタクシーの運転手は笑った。

別れた女のために何を焦っているのかと落ち着こうとしたとき、タクシーは再び幹線道路に戻った。

後ろを振り返ると幹線道路は渋滞していた。

―― 間に合うといいですね。

この言葉を思い出すたび、鋭い棘が俺の胸に刺さる。

東京で地上に降りてまた空に舞い上がり、俺が降り立ったのは北海道。

北海道はまだ寒かった。

東京は桜の最盛期なのにと、そんなことを思いながら目に留まったコートをサイズだけを確認して購入した。

空港前に停まっていたタクシーに乗り、行き先を問われて数時間前の電話で相手が一度だけ名乗った警察署の名前を運転手に告げた。

このときまで聞いたこともない地名だったのに、その場所が滑るように俺の口から出てきた。

警察署に向かう道はただ外の風景を眺めていた。

こんな地に彼女がいるわけがないと自分に言い聞かせていた。

彼女は寒いのが嫌いだった。

そんな彼女が寒いと分かっている北海道にいるわけがない、と。

警察署に着いて受付で名前と用件を告げると、受付にいた職員がパソコンを操作した。

やがて納得したような顔をすると俺に顔を向けた。

痛ましげな顔に、この先に悪夢が待っていることを予感した。

そんな顔で俺を見るなと言いたかった。

担当の警察官が二人きて、彼らに案内された先は遺体安置所だった。

テレビの中でなら見たことがあるが実際に入ったのは初めてで、でもテレビで見たことがあるから中に何があるのかは分かっていた。

予想通りの光景。

でも冷静でいられたのは、真っ白な大きな布をかけられて姿の見えない遺体が“彼女ではない”という期待を俺に持たせていたからだろう。

―― 遺体は顔も分からないほど焼き焦げてしまっています。

彼女ではない確信がしたくて、俺は覚悟を決めて布をめくってもらった。

異臭が鼻に届いたのが先か。

それとも作り物めいた焼死体が目に入ったのが先か。

やっぱり彼女ではない。

焼け焦げた遺体。

彼女との共通点は何もない。

彼女の髪は絹糸のように艶やかだった。

彼女の瞳は垂れ目気味で黒目がち。

薄紅色に染まる唇。

生気に満ちたバラ色の頬。

彼女だったものが何一つない遺体を俺は彼女と認めたくなかった。

彼女である証拠を示せと俺は怒鳴った。

その証拠と言わんばかりに、部屋の奥にいた女性警察官が白い布を掛けた小さな包みを持ちあげた。

―― この女性は妊娠していました。

布をめくると、柔らかな桜色の台座の上に胎児が置かれていた。

気づけば、俺はその冷たい体に触れていた。

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彼女は事故死だったのか。それとも自殺だったのか。ずっと、答えのないことを考えている。 その答えを持つ彼女は死んだ。彼女が死んだのは、俺が妻と結婚した日だった。   ***―― 草薙さんの携帯電話でよろしいでしょうか?あの電話が来たのは妻との新婚旅行先だった。隣では夜を共にした妻が眠ってきた。そんなベッドで電話をとった俺が悪いのであって、そこに彼女の死を報せてきた警察に非はない。それが彼らの仕事だ。彼らは彼女が死んだことを告げた。身元の確認に来てほしい、と。別れた女だから関係ない。いつもの俺ならそう言っただろうが、いま思えばあれは虫の知らせとでも言うのだろう。すぐに行くと伝えて電話を切った。身支度がほとんど済んだところでベッドで寝ていた妻が起きた。どうしたのかと尋ねる妻に、説明するのも面倒で仕事だと伝えて俺はホテルを出た。 タクシーの中で妻から電話がかかってきた。新婚旅行を途中で切り上げた詫びとしていろいろ強請られた……と思う。何を強請られたなど覚えていない。おそらく服とか宝石だったのだろう。好きにしろと言って電話を切ると、タクシーの運転手が幹線道路を降りた。空港へと頼んだはずだと詰問すれば、タクシーの運転手はこちらのほうが早いと言った。進路を阻まれた気がして苛立てば、急いでいるのは分かっているとタクシーの運転手は笑った。別れた女のために何を焦っているのかと落ち着こうとしたとき、タクシーは再び幹線道路に戻った。後ろを振り返ると幹線道路は渋滞していた。―― 間に合うといいですね。この言葉を思い出すたび、鋭い棘が俺の胸に刺さる。    東京で地上に降りてまた空に舞い上がり、俺が降り立ったのは北海道。北海道はまだ寒かった。東京は桜の最盛期なのにと、そんなことを思いながら目に留まったコートをサイズだけを確認して購入した。空港前に停まっていたタクシーに乗り、行き先を問われて数時間前の電話で相手が一度だけ名乗った警察署の名前を運転手に告げた。このときまで聞いたこともない地名だったのに、その場所が滑るように俺の口から出てきた。 警察署に向かう道はただ外の風景を眺めていた。こんな地に彼女がいるわけがないと自分に言い聞かせていた。彼女は寒いのが嫌いだった。そんな彼女が寒いと分かっている北海道にいるわけ
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それから、警察官がどんな風に彼女たちの死を説明したのかはよく覚えていない。何度も聞き直して理解したのか?いや、それはないな。これまで嫌というほど当時を思い出して、眠る間も惜しんで考えて、想像して、それでもまだ分からないことだらけ。俺はあの日からずっと未完成のパズルを見ている。真実はピタリとそこにはまるけれど、俺の推測や希望で作ったピースは歪んでいて隙間だらけ。彼女しか知らない理由はぽかりとそこで穴をあけてる。   *  ――山で火が燃えている。地元住民からの通報で消防と警察が現場に向かうと、一台の車が燃えていた。ガソリンが大量に入っていたのか、車は長時間焼け続けたという。火が収まったところでようやく車内を確認でき、運転席と思われる場所から彼女の焼死体が出た。彼女だと身元の分かるものはすべて焼けてしまっていた。そして彼女の遺体は検死解剖にまわされた。注射さえも痛いと泣いていた彼女の体が切り刻まれたことに今でもいろいろな感情が渦巻くが、それで子どもが見つかった。顔も分からないほど焼け焦げた彼女とは対照的に子どもに焼損はほとんどなかった。    辺り一帯のカメラから焼けた車両を割り出した。通った車の数が少なかったことと、ほとんどがその地域住民の車だったこと。彼女が乗ったレンタカーが割り出されるのは早かったが、なぜ彼女がレンタカーを借りてあんな山道を走っていたのかは分からなかった。   なぜかと分からないことがあるたびに思考を止めてしまう俺とは対照的に、警察の事実確認は迅速だった。 車を借りたときに彼女が提出した免許証から警察は彼女のアパートに行った。部屋にあったブラシを押収し、採取した髪の毛と焼けた遺体のDNAを分析した。結果は一致。結果が出るまで間に、警察はアパート周辺の産婦人科の病院に聞き込みを行い、彼女が受診していた病院を見つけた。彼女が病院に提出した書類の緊急連絡先に俺のことが書かれていたから、警察は俺に連絡してきた。 彼女が緊急連絡先に俺の名前を書いたのは信頼でもなんでもない。施設で育った彼女には家族がおらず、腹の子どものことを考えれば書くのは「父親」という法的責任がある俺の名前が最適だっただけ。でも、感謝している。彼女の本意ではなかっただろうが、彼女が書類に俺の名前を遺してくれたお
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「お帰りなさいませ、旦那様」「綾子は?」俺の言葉に出迎えてくれたお手伝いの花江さんが困ったような顔をする。「いいよ、分かった。いつも通りだろう?」 綾子はずっと離れに閉じこもっている。全ての窓と扉の前に盛り塩し、週に一回は祈祷師を呼び、残りの日は祈祷師から購入した香を焚いている。離れに俺たちが入ることを綾子が拒否している。花江さんも信用できないらしい。だからと言って、お嬢様育ちの綾子に家事ができるわけがない。いま綾子は祈祷師が紹介した女に身の周りの世話をさせている。離れとはいえ同じ敷地。不審人物を入れるわけにはいかないため祈祷師の男について調べたが、よく考えたら祈祷師の経歴をどこを見れば信頼度が測れるかなど分からない。何しろ本名も分からない。とりあえず祈祷師が来る日には本邸と離れの間に警備員を二名置いている。  「いかがなさいますか?」「いつも通りさ。綾子の好きにさせればいい」我ながら冷たい回答だとは思う。正直に言えば面倒なのだ。俺にできることはないし。離れから出そうとすると綾子は狂ったように暴れ、俺が自分を殺そうとしていると叫ぶ。敷地は広いが、この家は孤島にあるわけではない。近隣の善良な方々の通報により警察が三回もうちに来ている。殺人未遂やDVの疑いで彼らは来るが、俺の顔にある綾子の爪がつけた深い傷、俺の腕にある赤黒く残った人間の歯の噛み痕をみて「激しい夫婦喧嘩」で納得して帰っていった。次も、と考えるとどうしたって面倒になる。   *  「おかえりなさい」部屋着に着替えて食堂に行くと母が食事をしていた。うちには家族揃って食事をする習慣はなくそれぞれが適当な時間に食事をしているが、それなりに世間一般の夕飯時に食事をする気はあるので食堂で母に会うことは珍しくはない。だから、いま俺が戸惑っているのは母がいるからではない。戸惑いの原因は母の「おかえりなさい」だ。最近これをよく聞く。おかげでこの家が“家”になった気がして居心地が悪い。だから――。 「帰ってたんだ」挨拶を完成させないために、俺は母に「ただいま」とは言わない。違和感もあって、別の言葉を返してテーブルにつく。花江さんが俺の前に椀が置いた。母の顔が不機嫌そうに歪む。一応“心配している顔”なのだろうが、表情筋が
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「あの子が妊娠していたことには気づかなかった。妊娠していると分かったら……堕ろさせたかもね」母の表情が歪んだ。「私はあの子を、婚約者のいる男を寝取ろうとする女だと思っていた。そういう女が昔から嫌いだった。そういう女が私のもとにたくさん来たから。面白いのよ。皆、判を押したように同じことを言うの。あの人の子どもを妊娠したから慰謝料を寄越せって。全く、あの人がどうやって妊娠させるって言うのよ」体の弱い父は、肩書きこそ副社長だったが、ほとんどを専務の母に任せて家で療養していた。女性と関係を持つほどの体力もなかった。 「それに比べてあなたときたら……息子なんて産むんじゃなかった、娘を産むべきだったと何度思ったことか」女遊びが激しかったことは自覚している。それなりに容姿が整っているほうだった俺は高校に入った頃に言い寄ってきた先輩を相手に初体験をすませると、それで大人になった気がしたのだろう、言い寄ってくる相手と適当に関係を持っていた。親の稼いだ金で遊んでいただけ。親の稼いだ金を女に渡して、俺は女を貪るだけ。遊ぶことすら親のおかげだった。 「社会人になっても変わらない。私もあなたのお守りに疲れて、見合い話のあった綾子さんにその役を任せることにしたの」母の狙い通り、気が強い綾子は俺に近づいてくる女を片っ端から追い払っていた。そのころ仕事の面白さが分かってきていて、綾子のヤキモチともヒステリーとも言える抗議も煩わしかったので俺は女遊びをやめた。母にはそれが、俺が綾子との婚約に真剣に向き合っているのだと感じたらしい。 「綾子さんとの結婚話が具体的になった頃、あなたの刺々した雰囲気がなくなって、優しくなった。足元の覚束ない危うげな子どもが一気に大人の男になった気がした。私は結婚して家族を持つ自覚ができたからだと思った。きっとあの頃なのね、あなたがあの子に恋をしたのは」 ―― ご両親から与えられたものを受け取るだけ受け取って何も返さない、その当たり前ってあなたの態度が大嫌いなの。大嫌い。いつも垂れ目気味の目を吊り上げて怒った彼女に俺は恋をした。   *  彼女と初めて会ったのは会社の近くにあるカフェだった。彼女の第一印象は『要領の悪い女』。なんでも仕事を引き受けて、周りは適当にサボっているのに一人だけ頑張って働いている女。でも、働くほ
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「婚約者のいる男を寝取ろうとする女、か」あの真っ直ぐな彼女がそんな誤解をされていたとは。「俺はもう、あのとき綾子とは……「分かっているわ」」母は俺の言葉を止めた。いつもより甲高い声。少し荒い息。緊張、しているのか?母が? 「いまは分かっているの。あの子はそういう子じゃない。でもあのときは、そんな女だという綾子さんの言葉を信じてしまった。あなたをあの子に奪われるかもしれないという綾子さんの不安に同調してしまった」「……同調?」「お義父様の送別会にあなたはあの子を連れてきた。あなたはあの子を大事にしていた、お義父様もあの子を可愛がっていた。あの子は私にないものを持っていた。他の人たちも最初はあの子に反発していたけれどあの子の持つ雰囲気が、あの子を受け入れさせていた。可愛らしさや要領の良さといえばいいのかしら、あれは私が欲しくて欲しくて堪らないものだったわ」母が大きく息を吐いた。「嫉妬したの。だからあの子をちゃんとみなかった。綾子さんの言うことをそのまま信じたの……私がそれを信じたかったから。だから、あの子がお金を貸してほしいと言ったときは嬉しかった。私は間違っていなかったと思えたから」なんだろう、この気持ち……やるせない?力が抜ける。レンゲを持つ力もなくて、俺はほとんど食べていない椀にレンゲを戻した。 俺は彼女と別れたあと、まるで当てつけのように綾子との婚約を大々的に公表した。あれは綾子の誕生日だった。華やかに飾られたパーティー会場で、俺がドレス姿の彼女の頬にキスした写真はあちこちに拡散された。それを母は見たのだろう。俺と母は恋愛について話すような気安い仲ではなかった。だから俺が彼女をどう思っていたのかは知らない。だからあのSNSを見て、母が彼女を俺を寝取ろうとした金目当ての女と認識を改めたことは仕方がないのかもしれない。俺に近づく悪い女を追い払っただけ、それで片づけたことも仕方がないことだったのかもしれない。でも、一言でも彼女が俺に会いにきたと言ってくれれば。当時の俺ならばもう別れた女だと知らんふりしたかもしれない。でも、“かもしれない”だ。違ったかもしれない。もし違ったなら、俺は温かなあの子に触れられたかもしれない。こっちも“かもしれない”だ。でも――あったかもしれない未来。その考えが捨てられない。
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彼女と子どもの骨を引き取る。彼女には身寄りがないから、それは叶う願いだと俺は思っていた。でも彼女たちの骨を受け取るまでには思った以上の時間がかかった。俺と彼女が何も証明がない関係だったから。記録がない「元恋人」という関係は証明できず、証明できない関係に法的な力はない。病院、役所、葬儀社相手に思い知った。役所でも、葬儀社でも、最初に確認されるのは関係性だった。「ご家族ですか」という問いに俺はいつも一拍遅れて「いいえ」と答えた。婚姻関係のない俺たち。家族ではない記録はある。 ――恋人だったという、なにかこう、証明みたいなものは?警察のほうも困っていた。このままでは彼女の骨は無縁仏として埋葬することになる。でも目の前に俺がいて、名の知れた企業の御曹司で、できれば面倒は避けたいというのが彼らの顔にありありと出ていた。写真の一枚でもあれば特例として認めないでもない。そんな空気があったが、彼女と恋人だったときにとった写真は一枚もなかった。スマホ本体の中の写真は俺自身が消していた。綾子から結婚前にきちんと関係を清算してほしいと言われ、それも当然だと思って削除した。メッセージアプリから彼女とのトーク履歴も連絡先も消した。スマホの写真はクラウド上に自動的にバックアップが取られているが、そちらも消えていた。彼女といった店の写真。彼女が可愛いと言って撫でようとしてた道端の猫の写真。彼女といたという記憶は俺の中だけで、彼女が写っている写真は一枚もなく俺は彼女の元恋人であることも証明できなかった。若い警察官は自分も別れた恋人の写真は見るのもつらくて削除するとか、その場の空気を軽くしようと軽口を叩いてくれたが、気を使ってくれたことに感謝の言葉を言うことしかなかった。―― へへっ。お偉いさんっていつも“やってもらって当たり前”って態度なのに、草薙さんは違うんすね。彼女のおかげでそういう人間になれた。でもそれも彼女との関係の証明にならなかった。 子どもの骨も同じだった。俺の子だというのは可能性が高いというだけの話。可能性では足りなかった。父親であることの証明が必要だと言われて、DNA鑑定を受けることになった。あの子の小さな骨から取られたDNAと俺の血のDNAが比べられた。検査には時間がかかった。あの子の検体採取に時間がかかってし
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事件は急に起きる。そこかしこで。  * 東京に戻ってあの子の骨を埋葬した数日後、家に警察がきた。彼女と子どもの件で俺に用事かと思い、夕飯時で花江さんが忙しそうだから俺が出た。警察は俺ではなく綾子に用事だった。俺は彼らを離れに案内した。俺は彼女たちの件で北海道に二ヶ月近くいて、帰ってきたら綾子は離れで生活していると母と花江さんに言われた。新婚旅行を一日で切り上げたから怒っているのだ。早く謝ったほうがいい。そんな母たちの言葉を俺は右から左へ聞き流して放っておいた。彼女たちのことがあったから新婚の夫として振る舞わなくてすむことに安堵もしていた。 離れの入口で、綾子は明らかに怯えた様子を見せた。当時はまだ俺にではない。俺の後ろにいる警察官だ。でもこのときは深く気に留めなかった。北海道にいる間はほぼ警察にいたから自分は警官の姿に慣れてしまったが、普通は綾子のように何をしたわけではないけれど警官が来たら驚くに違いないと思っていた。綾子が何かしたとも思っていなかった。モデルをしている綾乃は知人が多いし、そのうちの誰かのトラブルだろうと思った俺はその場を離れようとしたが警察官に留められた。警察官は二人とも男性だから、女性の綾子一人よりも俺がいたほうが色々いいと言われた。綾子は一人で大丈夫だと言った。いつもの俺なら綾子が一人でいいと言ったのだからといってその場を去っただろうが、これも虫の知らせか、俺は同席を了承した。 警察が綾子を訪ねてきたのは、三沢加奈という女の転落死の捜査だった。三沢加奈という女を俺も知っていた。綾子を通してではなく、彼女を通して。三沢加奈は彼女と同じ施設の出で、同じ年の二人は高校卒業と同時に施設を出たあとはずっと同居をしていた。最初は同姓同名かと思った。綾
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祖父の送別会に彼女を連れていったあと、祖父から継いだ仕事でバタバタ忙しいときに墨田聡は俺を訪ねてきた。二回ほど面会の希望があったけれど忙しくて断り、「受付で必死だったから見ていられなくて」と綾子が墨田聡を俺のところに連れてきてしまったので仕方がなく俺は彼と話すことにした。あの日、墨田聡が俺に見せた映像はいまも忘れられない。まず映ったのは彼女の全裸。そして目が覚めたのか、眠そうな顔をした彼女が墨田聡に甘く笑いかけた。でも次の瞬間に驚いた顔をして、悲鳴をあげて顔を背けた。撮られていることに気づいて恥ずかしくなったのだろう。そこからは彼女の抗う声が続いたが、墨田聡は照れる姿が可愛いと言って行為を続けていた。その先のことは知らない。墨田聡は映像をそこで止めたし、俺もそんなものを見る趣味がないのでこのときは気にしなかった。 ああ、やっぱり彼女は浮気をしていたんだな。このときの俺はそう思った。 祖父の送別会のあと、彼女は急によそよそしくなった。時間をひねり出してデートの時間を作っても断られ、バイト先の喫茶店にいくと気まずそうで素気なかった。その程度で浮気を疑ったわけではないが、彼女の項についた付けた覚えのないキスマークに初めて浮気を疑った。ショートカットの彼女は首にキスマークをつけるのを嫌がったし、何よりも彼女とそういう行為をしてからはかなり時間がたっていた。浮気を一度疑うと、どんなことも浮気の証拠に聞こえるから不思議だ。忙しいくせに彼女の浮気を確認しようと彼女のアパートに行ったりして。隣の部屋に住んでいるらしい夫婦と会って、妻のほうに「この前はありがとう」と心当たりのない礼を言われて、疑問を向けると隣にいた夫が「この人じゃないよ」と妻を窘めた。いま考えても取り留めのない話。でもこのときの俺は、彼女の周りに俺以外の男がいるとしか思わなかった。だから墨田聡との浮気の映像は、俺が彼女と別れる決定打になった。
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あの日、墨田聡が向かったのは埼玉県の秩父地方。甲高いブレーキ音とドンッと響く音がして、近くにある展望エリアにいた人たちが現場に駆けつけるとう墨田聡のバイクが単身で事故を起こしていた。プロテクター入りのライダースーツだったため即死は免れ、彼らが呼んだ救急車に乗って病院に運ばれた。墨田聡はその病院で死んだ。それを知った俺は墨田聡が勤めているホテルに行った。墨田聡が死んだことは家族からホテルに連絡がきており、俺は墨田聡の友人だと名乗って葬儀に参加するためと言って墨田聡の生家を訪ねた。個人情報だが草薙グループの名前が聞いて、俺は墨田聡の両親がいる千葉にいった。墨田聡の家は農家。墨田聡の親族や葬儀にきた者たちの中に、墨田聡が分譲マンションを二つも持てた理由となりそうな人物はいなかった。 刑事ドラマでは、事件の捜査のため刑事たちは金の流れを追うが一般人にはこれが限界。ただ墨田聡の両親は善人で、俺が墨田聡の友人だと信じて、墨田聡が死んだ本当の理由を教えてくれた。"本当の”と言っても俺が勝手にバイクの事故で死んだと思っただけだが。 墨田聡はバイクの事故では死んでいない。事故から数時間後に目を覚ましたときには脳波も正常で特に危険とみられる兆候はなかったと、墨田聡の事故の知らせを受けて病院に駆けつけた墨田聡の母親は俺に言った。墨田聡が死んだのは、階段からの転落死。非常階段から大きな物音がして、看護師数名が駆けつけると墨田聡が階段下に横たわっていた。その首の骨はあり得ない方向に折れており、通報を受けた警察によってその死亡が確認された。 墨田聡に何があったのか。それを知るための手掛かりとなる防犯カメラは壊れていた。一年ほど前に壊れたのだが病院経営も厳しくて直していなかった。非常階段を使う人は基本的にいないし、一階の入口と外来と入院フロアを分ける三階の入口のカメラは正常に作動しているからセキュリティは最低限確保されていると考えたようだ。この辺りは病院の業務上過失致死になるのだろうが、非常階段に出るまでの墨田聡には誰かに連れ出された様子はなかったという。ただ非常階段にいった理由が分からない。階の移動ならばエレベータを使えばいい。墨田聡の部屋はエレベータに近い。さらにエスカレータを無視して非常階段に向かっている。ほぼ事故。でも事故の証拠
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ウィンディ映像は風間太一と風間奈美の夫婦二人でやっている小さな会社だった。主な業務は自治体や企業からの委託による記録映像の制作。防災訓練、地域行事、社内研修、工場の安全教育など、ああいうのかって理解できた。特に不審な点がない会社。派手な収入はないが安定した収入がある会社。墨田聡への入金記録がなければ、この会社には何も疑いはもたなかっただろう。あの入金記録があったから、この会社ではあり得ないあの金はどこから得たものかという疑問がわいた。 その答えを知るために俺は風間夫妻を探した。そして見つかった、地方新聞の記事で。人の好い不動産会社のあの社長は「埼玉のほうに家を買ったみたい」と言っていたから、俺は「埼玉」「風間」で検索をかけていた。これに引っかかった。その記事には、二人が不審な死を遂げたとあった。不審と言っても、死因は分かっている。服毒死。夫婦で毒を煽ったならば心中、つまり自殺(もしかしたら一方は他殺)。ただこの場合は同じ毒を飲むことが多い。でも二人は違う種類の毒を飲んで死んでいたという。毒性の差から、同じタイミングで飲んでも死ぬタイミングは時間単位で変わる。でも二人は同じ時間に死んでいた。 ネット民が喜ぶ謎のある事件ではあるが、全国紙の関東版のニュースになるほどではない。隣県で起きたこと、あの夫婦をマークしていなければ分からない。そして俺はこの事件を綾子に教えていない。でも綾子はこの事件を知っていた。 ―― 私も殺される!綾子はそう叫んだ。綾子は地元で大きな寺にお祓いを頼んだが、寺の住職を困惑させるだけに終わった。そんなことをしたからか。綾子が離れに引き籠って数日後、祈祷師を名乗る男が草薙家にやってきた。対応した花江さんが受け取った祈祷師の名刺をもとにネットで検索すると、除
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