兄が意地になって家を飛び出したあの日、私・雨宮遥(あめみや はるか)は土砂降りの大雨の中、必死で彼を探しに行った。――まさか、落下した電線が頭上から落ちてくるなんて、思いもしなかった。その事故で、私は両腕を永遠に失った。医者になることを夢見ていた私は、その日から、皮肉にも「病院の終身患者」になった。私は何度も自殺を図った。けれど、そのたびに家族が私を死の淵から引き戻した。兄の雨宮陽翔(あめみや はると)は私の前に跪き、涙ながらに懇願した。「……俺が悪かった。頼む、死なないでくれ。お願いだ」母である雨宮惠子(あめみや けいこ)は仕事を辞め、昼も夜も私に付き添ってくれた。「あなたはお母さんの命なのよ。あなたが死んだら……お母さんはどうやって生きていけばいいの?」父は私のリハビリ費用を稼ぐため、無理な残業を重ね、ついには海外へ単身赴任することになった。――私はきっと少しずつ人生は良くなっていくのだと思っていた。それなのに。ようやく両足で両手の代わりをする生活に慣れ始めた頃、偶然に家族の会話を耳にしてしまった。「……正直に言えばさ。最初から、あの時死なせておいた方が良かったんじゃないか」その日の夕方、私はひとりでビルの屋上まで這い上がった。風は強かった。鼻をすすったけれど、涙は出なかった。「遥!動かないで!」母が駆け寄ってきて、全身の力で私を屋上の縁から引きずり下ろした。勢いが強すぎて、私たちはそのまま一緒に地面に倒れ込む。起き上がる間もなく、母は手を振り上げ、乾いた音とともに平手打ちが私の頬に落ちた。「何考えてるの!?お母さんを殺す気なの!?」耳の奥がキーンと鳴り、頬が焼けるように痛んだ。次の瞬間、母は私を胸に抱き寄せ、力いっぱい抱きしめた。「もし飛び降りたら……お母さんも一緒に死ぬ!」熱い涙が次々と私の首元に落ちてきた。兄はそばで荒く息をしていた。あまりにも必死で走ってきたせいで、今にも倒れそうだった。私が無事なのを確認した途端、彼は膝の力が抜けたように今にも跪きそうになる。私は母の肩に顔を埋めたまま、小さく言った。「……死ぬつもりじゃなかった。本当に。ただ、風に当たりたくて……少し、息抜きしたかっただけ」母は一瞬、体を強張らせた。けれど、私を抱く腕は
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