Semua Bab 逃げられると思っていた 〜囲われた男の再就職〜: Bab 11 - Bab 20

30 Bab

第十一話 紹介できない関係

 恋人になって、初めての出勤日だった。 いつものようにシャワーを浴び、用意された服を着て、朝食をとる。 いつもと同じはずなのに、何かが違う。 雄一の視線だ。 今まで、朝食の時間の雄一は、ほとんど無表情だった。黙々と食べ、黙々と片付け、淡々と出かけていった。 でも今朝は、違う。 雄一が、湊を甘い目で見ている。口角が上がって、唇が緩やかな弧を描いている。一緒にいられることが嬉しくてたまらない、というような顔をしている。 そんな表情、見たことがなかった。 湊は、落ち着かなかった。視線を感じるたびに、頬が熱くなる。箸を持つ手が、少し震える。 ――こんなふうに見られるのは、初めてだ。 元婚約者との関係では、湊が見る側だった。相手の機嫌を窺って、相手の顔色を読んで、相手に合わせて。 見られる側になるのは、慣れていなかった。 朝食が終わると、雄一が食器を洗い始めた。 湊も手伝おうとしたが、雄一に「僕が湊のためにやりたいから」とやんわり断られた。仕方なく、食洗機に入れていた昨夜の食器を片付けることにした。 不思議に思ったことがある。 朝は手洗いで、夜は食洗機を使う。なぜそんなふうに使い分けているのだろう。 聞いてみたら、意外な答えが返ってきた。「夜は、湊とゆっくり過ごしたいから」 強いこだわりがあるのかと思っていた。でも、理由はそれだけだった。 恋人と一緒の時間を過ごしたい。そのために、家事の効率を変える。 ――この人は、本当に俺のことを大切に思ってくれているのだ。 そう思うと、胸が温かくなった。 雄一が食器を片付けている間に、湊はネクタイを締めて出勤の準備を整えた。雄一は食事前にすでに準備を終えているらしく、その時間は必要ない。 鞄を持って玄関へ向かうと、雄一はすでに靴を履いて待っていた。柔らかい笑みを浮かべている。「お待たせしました」「行こうか」 雄一がドアノブに
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第十二話 居場所

 雄一のマンションは、防音性が高かった。 窓を閉め切っていると、外の音がほとんど聞こえない。車の音も、人の声も、街の喧騒も。まるでこの場所だけが、世界から切り離されているような感覚になる。 高層階だからだろうか。窓を開けても、外の音は遠い。爽やかな風が吹き込んで、カーテンがゆらゆらと揺れる。たまに飛行機の音が聞こえるくらいで、地上の気配はほとんど届かない。 湊は窓辺に立って、眼下に広がるビル群を見下ろした。 ――俺が、こんな場所に住んでいる。 まだ信じられなかった。数週間前まで、ネットカフェで夜を明かしていたのに。借金取りに追われていたのに。今は、こんな高層マンションの一室で、何不自由なく暮らしている。 守られている。 でも、何かが、足りない気がする。 ソファに目を向けると、雄一がタブレット端末の画面を凝視していた。先日の会議で、雄一は「新しいプロジェクトが始まる」と言っていた。システム開発の会社は、クライアント企業が休みの日にシステムを導入することがあるらしい。だから、休日なんてあってないようなものだ。 その会社のトップである雄一は、さぞ忙しいだろう。けれど、その忙しさを湊には見せない。湊の前では、いつも余裕のある顔をしている。 せっかくの休日なのに、今日は何もすることがない。雄一と二人きりで部屋にいるだけだ。 甘い雰囲気になるわけでもなく、会話があるわけでもない。雄一は仕事をして、湊は邪魔にならないように息を潜めている。 ――ひとりでいるのと、変わらないな。 そう思って、苦笑した。 窓際に立ったまま、ソファに座る雄一の横顔を眺めた。 長い睫毛。切長の目は冷ややかに見えるけれど、微笑むと優しくなる。鼻筋が通った、整った顔立ち。短く切り揃えられた髪は清潔感がある。社長という立場上、髪を長くしたり染めたりはしないのだろう。いや、雄一の性格がそうさせているのかもしれない。 一見細身に見えるけれど、胸板はしっかりしていた。抱きしめられたとき、分かった。鍛え上げられた身体だと。 ――いい男だな。
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第十三話 連絡

 いつも通りの朝が来た。 同じ時間に目が覚めて、シャワーを浴びる。最近は、雄一に起こされる前に自分で起きて、キッチンへ向かうようになった。 身体が、この生活のリズムを覚えてしまった。「おはようございます」 朝食を作っている雄一の背中に声をかけると、振り返って優しく微笑んでくれる。「おはよう。すぐに朝食の準備ができる」「さっさとシャワー浴びてきますね」 毎朝の、変わらない会話。 それが、心地よかった。同じことの繰り返しなのに、安心する。この人のそばにいれば、なにも怖くない。予定外のことも起きないし、驚かされることもない。 守られている。 そう思うと、胸が温かくなった。 脱衣所には、雄一が準備した服が置いてあった。シャワーを浴びてから、用意されていた服を広げる。今日は日曜日だからか、白いシャツにチノパンというカジュアルな装いだった。どちらも肌触りのいい生地で、上質なものだとわかる。 以前はTシャツにジーンズばかり着ていた。襟のついたシャツを休日に着るのは、なんだかこそばゆい。 ――服まで、変わったな。 鏡に映る自分を見つめた。 髪も、雄一の勧めで少し切った。清潔感のある長さに整えられている。肌の色も、ちゃんと食事を取るようになってから、少し良くなった気がする。 前の自分とは、別人みたいだ。 それがいいことなのか、そうでないのか、湊にはわからなかった。* 朝食が終わると、雄一が食器を片付けながら言った。「今日は仕事でちょっと出かけてくる。湊は家にいてくれ」「わかりました」 休日なのに出かけなければならないのだから、やはり雄一は多忙なのだろう。社長という立場は、想像以上に大変なのかもしれない。 湊はなにも手伝えない。仕事のことはわからないし、口を出す立場でもない。ただ、家で待っていることしかできない。 玄関まで見送りに行くと、雄一が立ち止まった。 湊の顔を覗き込んで、優しく微
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第十四話 嘘をついた朝

 西村から連絡があった次の週、メッセージが届いた。『来週の土曜日のお昼に会おう』 その文字を見た瞬間、湊の胸が高鳴った。 ひとりで外に出る。 それだけのことなのに、こんなにも気持ちが高揚するものなのか。 いつから、外に出ることがこんなに特別になったのだろう。いつから、ひとりで出かけることがこんなに難しくなったのだろう。 考えると、胸がざわついた。 でも、今はそれより、課題がある。 どうやって雄一に外出を告げるか、ということだ。 きちんと説明すれば、分かってくれるはずだ。湊は子供じゃない。大人なのだから、多少のことは許してくれるだろう。 そう思ってみた。 でも、同僚の三崎とふたりきりで話しただけで嫉妬され、玄関先で激しくキスをされたことを思いだす。「僕以外の誰かと話すことが耐えられない」 あの言葉が、頭の中でリフレインした。 気が引けた。怖かった。 けれど、心配して連絡をくれた西村との約束を、破りたくなかった。 湊を探し出してくれた人。会いたいと言ってくれた人。その約束を、守りたかった。* 西村との約束の土曜日が来た。 いつもと同じ時間に起き、いつもと同じようにシャワーを浴び、いつもと同じように朝を過ごす。 なにも変わらない朝のはずなのに、心臓がずっと落ち着かなかった。 朝食を取っているとき、雄一が湊に声をかけてきた。「今日はなにをするんだ?」 来た。 いつもの予定確認だ。毎日、同じことを聞かれる。それに答えるのは、もう習慣になっていた。 でも、今日は違う。 湊の身体に、緊張が走った。「……えっと」 一瞬、言葉が詰まった。 ただ「予定はありません」と言えばいいだけだ。いつも通りに。なにも考えずに。 けれど、予定がないと言えば、外に出ることなんて無理だ。西村との約束
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第十五話 嘘がバレた夜

 リビングに戻った瞬間、空気が変わっていることに気づいた。 部屋の空気が、重い。 息をしているのに、酸素が肺に入ってこないような感覚がした。それどころか、空気の圧力が高まり、肺の中の空気まで押し出されていくような息苦しさがあった。 湊は、ごくりと唾を飲み込んだ。 ソファに座った。いつもと同じ場所。いつもと同じやわらかいクッション。なのに、今日は底なし沼に沈み込んでいくような感覚がした。 すぐ隣に、雄一が座った。 近い。いつもより近い気がする。 こっそりと、雄一の表情を盗み見た。 なにを考えているのかわからない、凪いだような顔をしていた。感情が読めない。怒っているのか、悲しんでいるのか、なにも思っていないのか。瞳の奥にも光がなく、どんよりと曇っていた。 テーブルの上に、雄一のスマートフォンが画面を伏せて置いてあった。 なにか調べていたのだろうか。 湊に見られてはいけないなにかを、見ていたのだろうか。 嫌な予感が、胸の奥でざわついた。 雄一のまとっている空気が、ピリピリと張り詰めている。静電気が走る直前のような、緊張感。 湊は、息が詰まった。 なにか話しかけたほうがいいのかもしれない。沈黙を破ったほうがいいのかもしれない。でも、今は自分が嘘をついているという後ろめたさで、頭が真っ白になっていた。 なにを言えばいいのか、わからない。 なにを言っても、嘘の上塗りになる気がする。 時計の秒針が、やけに大きく聞こえた。 カチ、カチ、カチ。 沈黙が、永遠のように長く感じられた。* そのとき、雄一がようやく口を開いた。「どこまで行っていた?」 その声は低く、静かだった。落ち着いているように聞こえた。でも、その落ち着きが逆に怖かった。 視線は冷たく、感情が読めない。「えっと……渋谷まで……」 湊は、
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第十六話 縋る夜

 雄一の愛の形は、歪んでいる。 湊を自分のそばに縛りつけて、どこにも行かせない。独占欲を隠そうともしない。湊がここから出られないことなど、最初から分かっている。 分かっていてそれでも、縛りつける。 ふたりの間に、沈黙が流れた。 重たい空気が、部屋を満たしている。まるで毒ガスのようで、息をするたびに肺が苦しくなる。 さっきまで言い争っていたのに、今はなにも言葉が出てこない。いつもと同じ距離にいるのに、ふたりの間には透明な壁があるようだった。相手は見えるのに、手を伸ばしても届かない。触れようとしても、弾かれてしまう。 同じ空間にいなければならないことが、こんなにも苦痛だとは思わなかった。 息が詰まる。 ここから逃げ出したい。 でも、逃げられない。 雄一の表情を、こっそりと盗み見た。 奥歯を噛みしめている。眉間に皺が寄っている。苦しそうな顔をしていた。 ――もしかして、言いすぎただろうか。 一瞬、そう思った。 でも、すぐに打ち消した。 いや、そんなことはない。今まで、なにも言わなさすぎただけだ。我慢しすぎただけだ。 雄一に伝えた言葉は、湊の本心だった。自由が欲しい。外に出たい。自分で決めたい。それは、嘘ではない。 だから取り消すつもりは、ない。 でも……。 出ていきたいと思っても、結局は行き場がない。 お金もない。仕事もない。頼れる人もいない。 西村がいるけれど、彼に迷惑をかけるわけにはいかない。家族とは連絡を取っていない。友人も、ほとんどいない。 それほど湊には、外の世界との繋がりがないのだと、改めて自覚した。 雄一がいなければ、湊にはなにもない。 その事実が、重く胸にのしかかった。 そのとき、雄一が動いた。 湊に背を向けて、リビングを出ていこうとした。 そして、そのまま玄関へ向かっていく。 湊の
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第十七話 戻ってきた場所

 日曜日も、いつもと同じ朝がやってきた。 同じ時間に起きてシャワーを浴び、用意してもらった服を着て朝食を取る。 今までと、なにも変わらない。 それでも湊の心は、ふわふわと浮ついていた。 昨日、雄一と甘い夜を過ごした。あれほど深く繋がった。あれほど愛を確かめ合った。 そのことを思いだすだけで、頬が熱くなる。雄一のちょっとした言葉や視線で、顔が赤くなってしまう。 だから、今日からは、もう少し甘い生活になるのかと思っていた。 恋人らしく、手を繋いだり、寄り添ったり。そういうことが、増えるのかと。 でも、そうでもなかった。 雄一は、いつも通りだった。朝食を作り、淡々と食事を取り、片付けをする。表情は穏やかだけど、特別甘いわけではない。 それが、雄一の性格なのだろう。 仕事でもプライベートでも、必要以上にベタベタしない。クールで、理性的で、自分を律している。 ――でも、少しくらいは。 昨日の余韻を、味わってもいいのではないだろうか。 そんなことを考えながら、湊は朝食を食べていた。 いつもと同じ会話が、繰り返される。「昨日はよく眠れたか?」「はい、ぐっすり眠れました」 身体を重ねたのだから、一緒のベッドで眠るのかと思っていた。でも、雄一は湊をゲストルームに送り、自分は自分の部屋で眠った。今まで通り、別々の部屋。 少しさみしいと思った。 でも、そういうものなのかもしれない。湊には、恋人同士の「普通」が分からなかった。元婚約者との関係も、結局は嘘だった。なにが普通で、なにが異常なのか、判断がつかない。 視線を雄一に向けると、次の質問が飛んできた。「今日の体調は?」「問題ありません」 熱を出して以来、毎朝必ず聞かれるようになった。よほど湊のことが心配なのだろう。見れば体調の良し悪しは、すぐ分かりそうなものだけど。 ――心配してくれている。 そう思うと、胸が温かくなった。
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第十八話 初めての計画

 雄一から会社に行かなくていいと言われて、三日が経った。 変わらない朝を迎えるたび、胃がきりきりと痛む。 同じ時間に起きて、同じシャワーを浴びて、同じ服を着て、同じ朝食を取る。 そして、同じ質問をされる。「今日の予定は?」 湊に予定があるわけがないと、雄一は分かっている。それなのに、毎朝同じ会話で予定を聞いてくる。 それが、たまらなく苦痛だった。 今日は少しだけ抵抗してみた。「散歩くらいはしても……」 言い終わる前に、雄一は首を横に振った。「駄目だ。外は危ない」 それだけ。 理由も説明されない。ただ「駄目」と言われるだけ。 これほど外出を制限されるとは、思ってもみなかった。 散歩すら許されないのか。マンションの周りを少し歩くだけのことが、そんなに危険なのか。 けれど、言い返す気力が湧かなかった。「分かりました」 そう答えて、食事を続けた。味は、しなかった。* 雄一が出勤していくと、ひとりポツンと部屋に残される。 玄関のドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。 その後は、静寂。 音のない空間に、身体ごと沈んでいくような感覚がある。外からの音が遮断されるだけで、息が詰まりそうになる。 どうしても外の世界と繋がりたくて、窓を開けた。 冷たい空気が流れ込んできた。外の喧騒は、まったく届いてこない。 高層階に位置するこの部屋には、街の音が届かない。車のエンジン音も、人の話し声も、犬の鳴き声も聞こえない。 改めて、ここが外から隔離されているのだと感じた。 窓から逃げだすこともできない。高すぎる。 玄関から出ても、コンシェルジュの前を通らなければならない。必ず目撃される。雄一に報告されるかもしれない。 ――逃げられない。 そう思えば思うほど、逃げたくなるのはなぜだろう。
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第十九話 外に出た日

 この家を出ると決めた次の日。 いつも通りの朝を過ごした。 同じ時間に起きてシャワーを浴び、用意された服を着て朝食を取る。雄一と向かい合い、いつもと同じ会話をする。「今日の体調は?」「問題ありません」「今日の予定は?」「特にありません」 嘘だ。 今日、ここを出る。それが、湊の予定だ。 でも、顔には出さなかった。声も震えなかった。昨日の夜、鏡の前で普通の顔を作る練習を何度もした。 雄一は、いつも通りの時間に会社に出かけた。 玄関で、つむじにキスを落とされた。「行ってくる」という声。いつもと同じ。 湊は、「いってらっしゃい」と答えた。いつもと同じ声で。いつもと同じ笑顔で。 玄関のドアが閉まった。 鍵が閉まる音がした。 足音が、遠ざかっていく。 湊は、その場に立ち尽くしていた。 心臓が、ばくばくと鳴っていた。 ――これが、最後だ。もう、ここには戻らない。 そう思うと、胸の奥でなにかが軋んだ。 雄一が出た後なら、ここから出るチャンスだ。 でも、すぐには動けなかった。 忘れ物をして戻ってくるかもしれない。あるいは、湊の様子がおかしいと気づいて引き返してくるかもしれない。 念のため、三十分ほど時間を空けてから出ることにした。 リビングのソファに座って、時計を見つめた。 秒針が、ゆっくりと動いていく。一秒が、とても長く感じられた。 カチ、カチ、カチ。 その音を聞きながら、湊は考えていた。 ――本当に、出ていいのだろうか。 ――本当に、これでいいのだろうか。 雄一は、湊を愛してくれている。守ってくれている。ここにいれば、安全だ。 でも、息ができない。 このままここにいたら、壊れてしまう。 だから出るしかない。 三十分が経った。
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第二十話 仮の居場所

 西村の部屋は、それほど広いわけではなかった。 部屋はワンルームで、キッチンとリビングが一緒になっている。ベッドはなく、布団を敷いて寝るタイプだ。雄一のマンションと比べると、本当に狭い。 でも、なにか懐かしい感じがした。 今まで自分がいた場所が、現実離れしていたのだ。高層マンション。広いリビング。防音の効いた静かな部屋。なんでも揃っている、完璧な空間。 あれは普通ではなかった。 こっちのほうが、普通だ。普通の、ひとり暮らしの部屋。 男のひとり暮らしにしては散らかっていないのは、西村の性格が表れているからだろう。見た目こそチャラそうだけど、実はしっかりしている。それが西村だ。 雄一の部屋のように常にいい匂いがするわけではない。でも、男の部屋という感じの匂いがする。洗濯物と、コーヒーと、少しだけ汗の匂い。 不思議と、嫌ではなかった。 湊は、部屋を横切ってベランダまで歩いた。 雄一の部屋とは違い、この部屋は十歩もあれば端から端まで行ける。そのことが、なぜか安心だった。 ベランダに出ると、西村の洗濯物がゆらゆらと風に揺られていた。Tシャツと、ジーンズと、靴下。気持ちよさそうに、乾いている。 ――普通だ。これが、普通の生活だ。 西村が出かける前に言った言葉を思い出す。「狭いけど、自由に使っていいからな」 その言葉に、心がふわりと軽くなったのを覚えている。 自由に。 この言葉は、魔法のようだった。今まで心の奥に沈み込んでいた、突っかかりのようなものが、スルッと解けた気がした。 ベランダから、外の音が聞こえてくる。 車道からは、車が通り過ぎる音がする。近くに学校があるのだろうか、子供たちの声も時折響いてくる。どこかで犬が吠え、遠くでは工事の音もする。 今までいた部屋とは、段違いの騒々しさだ。雄一のマンションでは、こんな音は一切聞こえなかった。 けれど、今はこの音が心地いい。 生きている音だ。外の世界の音だ。 ――
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