一瞬にして、すべての視線が一点に集中した。先ほどまで狂ったように新婦を探し回っていた樹も、動きを止めてレッドカーペットの入り口を見つめた。まさか、夫婦揃って手の込んだ演出をしていたのか?ゲストたちの困惑をよそに、樹の瞳には熱い期待の光が宿った。「詩音……」彼女が来てくれた。それさえ事実なら、これまでの遅刻も、連絡がつかなかったことも、すべて些細な誤解だ。彼女はやっぱり俺を愛しているんだ。これからは今まで以上に大切にして、罪滅ぼしをしよう。裾の長いウェディングドレスを纏った人影が、ゆっくりと、しかし確実にレッドカーペットの上を進んでくる。長身で、スタイルは抜群。顔は厚手のベールで覆われており、濃いメイクの輪郭がおぼろげに見える程度だ。だが、この状況でウェディングドレスを着て現れる人物など、新婦以外にいるはずがない。樹も、ゲストたちも、疑いようがなかった。バイトの時間が終わって帰ろうとしていた「サクラ」のブライズメイドたちも、新婦の登場を見て慌てて駆け寄った。乱れた花びらを踏みしめながら、長いトレーンを整え、付き従う。樹はもう、式の段取りなどどうでもよかった。彼はバージンロードを駆け下りて新婦の元へ行き、その手を宝物のように恭しく取った。感極まって、声が震える。「来てくれると信じてたよ」新婦は何も言わなかった。ベールの下の表情も読み取れない。まるで人形のように、ただ無機質にそこに立っているだけだ。壇上の司会者は、自分のキャリアが終わる危機から脱したことに安堵し、額の汗を拭いながら声を張り上げた。「さあ皆様!新郎新婦が揃いました!これより結婚式を執り行います!」その声に合わせて、牧師やフラワーガールたちも再び位置についた。樹にとって、先ほどの騒動は悪夢のような一瞬だったが、今はもう過ぎ去ったことだ。彼は詩音の左手を固く握りしめ、片時も離そうとしなかった。牧師の問いかけに、樹は力強く「誓います」と答えた。そしてフラワーガールから指輪を受け取り、詩音の薬指に嵌める。「詩音。これでやっと、俺たちは夫婦だ」続いて、彼は自分の左手を差し出した。「さあ、詩音。今度は君が俺に指輪を嵌めてくれ」しかし、新婦は動かなかった。沈黙が流れる。樹は焦りと苛立ちを感じ、声を潜めて囁いた。
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