会社の親睦会の最中、長谷司朗(はせ しろう)が一眼レフを構えて、斉藤佳雪(さいとう かゆき)の写真を熱心に撮っているのが見えた。興に乗った同僚たちが「私たちも撮って!」とせがむのを、司朗は苦笑いでさらりとかわした。「悪いな。このカメラは琉叶専用なんだ。他の人の写真は撮らないことにしてる」羨望の眼差しを向ける社員たちの傍らで、佳雪は、どこか気まずそうな表情を浮かべた。無理もない。彼が口にした「琉叶」とは、私、佐藤琉叶(さとう るか)のことだったのだから。司朗は口にした瞬間に失言だったと悟ったらしい。微かに眉を寄せ、佳雪の居心地の悪さを取りなそうと言葉を継ごうとした。だが、社員たちはすでに勝手に納得し、盛り上がっていた。「佳雪さん、幸せすぎますよ。社長のカメラに収まるなんて、それだけで特別扱いです」「佳雪さんは綺麗だし、社長とは本当にお似合いです」その言葉は無数の棘となり、私の心臓の奥深くまで突き刺し、じわじわとした痛みが広がっていく。私の姿に気づいた瞬間、社員たちは一様に口を噤んだ。それぞれの顔に複雑な色が浮かび、その場の空気が一気に凍りつく。佳雪は、殊更申し訳なさそうに身を縮めて謝ってきた。「すみません、琉叶さん。社長がカメラを持っていらしたので、つい甘えて撮っていただいちゃって……どうか、怒らないでくださいね」私が答えるより先に、司朗が淡々と言い放った。「写真を数枚撮っただけだ。そう怒るようなことじゃないだろう?さあ、次の場所へ行くぞ」移動中も、佳雪はずっとはしゃぎながら写真を見せてほしいとせがんでいた。彼女は人目も憚らず司朗の腕に絡みつき、今にもその懐に溶けてしまいそうなほどの距離感で寄り添っている。司朗はカメラを操作しながら、穏やかな顔で彼女と談笑していた。その姿は、どこからどう見ても、絵に描いたような睦まじい恋人同士そのものだった。その様子を見ていた社員が、堪えきれないといった風に羨望の溜息を漏らす。「社長は冷徹だって聞いてたけど、噂なんてあてにならないわね。あんなに細やかで優しい人だったなんて。琉叶さん、本当に羨ましいわ。あんなに素敵な旦那様がいるなんて。うちの無神経な夫も、爪の垢でも煎じて飲んでほしいくらいよ。容姿も財力もあって、その上あの優しさ……もう、完璧すぎて反則よ
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