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第7話

Auteur: 千両箱
「琉叶、調子はどうだい?仕事には慣れたかな?」

渡辺結仁(わたなべ ゆいと)がドアを開けて入ってきた。彼がパチンと指を鳴らすと、それを合図にヘアメイクやスタイリスト、給仕たちがぞろぞろと後に続いた。

「衣装を選びに行く暇もないと思って、こちらに来てもらったよ。身支度が済んだら出発しよう」

今夜は結仁の友人が主催するプライベートパーティーがある。

私は彼のパートナーとして出席することになっていた。

豪華なクルーズ船の上で、結仁が友人たちに私を紹介した。

「結仁、見慣れない顔だね。もしかして、彼女さんかい?」

結仁は耳の付け根を少し赤くして、「いや、まだだよ。今はまだ、大切な友人だ」と答えた。

木村龍平(きむら りゅうへい)は私たちにニヤリと意味ありげな笑みを向けると、結仁の肩を抱いて甲板の方へと促した。

「来いよ。雲都から来ている大物を紹介してやる」

雲都?

私は一瞬呆然としていた。けれど、あんなに広い街のことだ。必ずしも司朗だとは限らない。自分にそう言い聞かせ、平静を装った。

しかし、現実は残酷なほど予想通りだった。そこに立っていたのは、紛れもなく司朗だった。

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    「琉叶、調子はどうだい?仕事には慣れたかな?」渡辺結仁(わたなべ ゆいと)がドアを開けて入ってきた。彼がパチンと指を鳴らすと、それを合図にヘアメイクやスタイリスト、給仕たちがぞろぞろと後に続いた。「衣装を選びに行く暇もないと思って、こちらに来てもらったよ。身支度が済んだら出発しよう」今夜は結仁の友人が主催するプライベートパーティーがある。私は彼のパートナーとして出席することになっていた。豪華なクルーズ船の上で、結仁が友人たちに私を紹介した。「結仁、見慣れない顔だね。もしかして、彼女さんかい?」結仁は耳の付け根を少し赤くして、「いや、まだだよ。今はまだ、大切な友人だ」と答えた。木村龍平(きむら りゅうへい)は私たちにニヤリと意味ありげな笑みを向けると、結仁の肩を抱いて甲板の方へと促した。「来いよ。雲都から来ている大物を紹介してやる」雲都?私は一瞬呆然としていた。けれど、あんなに広い街のことだ。必ずしも司朗だとは限らない。自分にそう言い聞かせ、平静を装った。しかし、現実は残酷なほど予想通りだった。そこに立っていたのは、紛れもなく司朗だった。司朗は一匹狼のように海を眺め、何事にも興味を惹かれないといった様子で佇んでいた。「司朗、せっかく来たんだから一緒に楽しもうぜ。紹介するよ、こちらは渡辺結仁だ」龍平が声をかけても、司朗はこれっぽっちも興味を示さない。「龍平、俺はお前が『人探しに協力する』と言ったから来たんだ。邪魔をするな」不機嫌そうに吐き捨てて振り返った瞬間、彼の言葉はぴたりと止まった。視線がぶつかったその刹那、私は彼の瞳に灯った鮮烈な驚喜を見た。それはまるで、失くしたはずの至宝をようやく見つけ出したかのような、激しい動揺と歓喜が混ざり合った表情だった。彼は私を腕に抱きしめた。鼻腔をくすぐる、懐かしいシダーウッドの香り。耳元で、司朗が震える声で私の名前を呼んだ。「琉叶……やっと、やっと見つけた。ごめん、俺が悪かった。全部、俺が間違っていたんだ。佳雪とはもう話がついた。彼女のお腹の子も……処置を終えた。もう彼女が俺たちの邪魔をすることはないから。見てくれ、琉叶。新しいヘアゴムを買ったんだ。これからは、これを君にだけ使う。君のためだけのものなんだ」彼はまるで宝物を披露する子供のよ

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    司朗は、まるで正気を失ったかのように、撤去作業をしていたスタッフたちに「元通りにしろ」と怒鳴り散らした。そんな彼のスマホに、拓海から琉叶の搭乗便の情報が届く。行き先は、二千キロも離れた海都。【兄貴、本気で追いかけるつもりかよ。あんな酷いことしておいて、琉叶さんが許してくれるわけないだろ】許してくれる?そんなはずがない。彼自身が一番よく分かっていた。けれど、彼は琉叶と離れることなんてできないのだ。二十年という歳月、生死を共にしてきた二人は、もう切り離せるような仲ではない。彼はそう信じ込んでいる。司朗はいくつもの信号を無視して車を飛ばし、家へと引き返した。琉叶を引き留めるための何かを、縋るための思い出を、一つでも多く手にするために。だが、家に着いた彼を待っていたのは、静寂に包まれたもぬけの殻の空間だった。琉叶の私物は、跡形もなく消え失せている。洗面台の歯ブラシも、玄関のスリッパさえも残っていない。彼の心にぽっかりと穴が開き、そこを冷たい風が容赦なく吹き抜けていく。彼は書斎へ駆け込み、金庫をこじ開けた。中に入っているのは、金目の物なんかじゃない。琉叶と彼が積み重ねてきた、二十年の歳月の欠片だ。ふと、司朗の視線が一枚の色褪せた絵で止まった。そこには一軒の家と、手を取り合う小さな二人の姿が描かれていた。右上の隅には、【二人で、お家をつくろうね】という拙い文字が添えられている。児童養護施設にいた頃描いた絵だ。二人で、お家をつくろう。家?確かに、本来はあったはずだった。けれど、それを完膚なきまでに踏みにじり、自らの手で壊してしまったのは、他ならぬ彼自身だった。司朗はその紙を胸に抱きしめ、激しい後悔に身をよじりながら床に蹲った。「琉叶……琉叶……」いくら名前を呼んでも、応える者はもういない。やがて、静寂を切り裂くようにスマホが何度も鳴り響いた。司朗は魂が抜けたような顔で、力なく通話ボタンを押した。「佳雪さんのご家族ですか?彼女に流産の兆候があります。至急、病院へ来てください」その言葉に、司朗は弾かれたように我に返り、病院へと急行した。病室のベッドに横たわる佳雪は、顔面蒼白で、瞼を真っ赤に腫らしていた。さぞかし、ひどく泣きはらした後なのだろう。医者の説明など、司朗の耳には入って

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  • さよなら、私の命を救った裏切り者   第3話

    私は悲哀に満ちた笑みを浮かべた。「ねえ。私が胃の切除手術を受けたあの日、あなた、どこで何をしていたか覚えてる?」司朗は言葉を失い、後ろめたそうに視線を逸らした。私は小さく溜息をつく。「佳雪の正社員登用を祝って、彼女の隣で花火を見ていたのよね。違うかしら?」「……誰に聞いたんだ?」「それが、今更そんなに重要なこと?」司朗は重苦しいため息を吐き出すと、もどかしそうに目を閉じた。「……率直に言え。どうすれば君の気が済むんだ?佳雪に子供を諦めさせればいいのか?」この期に及んで、彼はまだ私が単に「嫉妬して拗ねている」だけだと思っている。私は深く煙草を吸い込み、立ち昇る煙越しに淡々と言った。「財産分与の案、あなたが決める?それとも、私に決めてほしい?」――パタン、と乾いた音を立てて司朗が出て行った。結局、彼は最後まで財産の話をうやむやにしたまま、現実から逃げ出した。その時、指先に焼けるような鋭い痛みが走った。熱さに息を呑んだ瞬間、堪えていた涙が、その痛みを利用するかのように堰を切って溢れ出した。短くなった煙草の火が、指を焼いていた。吸い殻が床に落ち、火を失った灰が、私たちの関係のように虚しく四散していった。スマホのバイブ音が鳴った。佳雪からの「宣戦布告」だった。【琉叶さん、私、司朗のためにこの子を産むことに決めたよ】……なんとも健気で、ご立派な覚悟だこと。その文字を眺めているうちに、意識がふわりと遠のき、かつての自分を思い出していた。十歳の時に児童養護施設に入り、そこで司朗に出会った。二歳年上の彼は、端正な顔立ちで機転が利き、施設長のお気に入りだった。他の子供たちは施設の門を一歩も出ることを許されなかったが、司朗だけは例外で、自由な外出が認められていた。施設に来たばかりの私は、誰とも馴染めず、周囲からは疎まれていた。そんな孤独な私に唯一、救いの手を差し伸べてくれたのが司朗だった。司朗は外出するたびに、私を元気づけようと飴を買ってきてくれた。私の髪が伸びてくると、いつも丁寧にポニーテールに結んでくれたのも司朗だ。それ以来、私の髪を結ぶのは、いつだって司朗だった。ある時、他の女の子が羨ましそうに「私にも結んで」と司朗にねだることがあった。けれど司朗は、真っ直ぐに私の方を見て、こう問いかけた。

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