「大輔!蛇に噛まれた!助けて!」私は子供のころから蛇が大の苦手だった。写真を見ただけでも震えてしまうぐらいなので、本物が目の前に現れたときの怖さなんて言うまでもない。一瞬、なにかに喉を締めつけられる感じがしたあと、冷や汗が頰を伝って首筋を流れる。私は震える声で菅原大輔(すがわら だいすけ)に助けを求めた。しかし彼は、増田若葉(ますだ わかば)を庇うように立ち、私の声なんて聞こえていないようだった。ぐったりと大輔の腕の中に倒れこむ若葉の足元では、小さな蛇が動いている。そして、彼女はか細い声で自分も怪我をしたと訴えていた。「大輔さん、私死にたくないよ。だって、まだあなたと叶えられていない約束がいっぱいあるでしょ?あなただって約束してくれたのに……」真っ青な顔の若葉はぼろぼろと大粒の涙をこぼす。そんな若葉を見て心を痛めた大輔は、彼女を抱きしめ優しく慰めた。「若葉、大丈夫だから。蛇に噛まれた時は、むやみに動いちゃだめだぞ。毒が体にまわるのが早くなるからな」そう言って大輔は若葉を背負うと、やっと私の方を見た。私の傷口をちらっと見ると、ほっとしたように息を吐く。「美優(みゆ)、お前の傷はたいしたことなさそうだし、お前は医者なんだから、自分でなんとか出来るだろ?俺は麓の病院で待ってるから」私は信じられない思いで目の前の男を見つめ、叫んだ。「大輔!私を噛んだのは毒蛇なの!彼女より私のほうが危険な状況なんだよ?」私は悔しさをのみ込み、事実をはっきりと伝える。なぜなら、昔、医療ボランティアで地方に行ったとき、見たことがあったから。しかし、大輔は振り返りもせず、若葉を背負って山をかけ下りていった。心の底から激しい怒りがこみあげ、もうどうにかなりそうだった。その時、若葉が振り返って私を見た。その目には、勝利を確信したような挑発の色が浮かんでいる。私は震える手で鞄からミネラルウォーターと消毒液を取り出し、急いで傷の応急処置をすると、足を引きずりながら山を下りた。麓の町のひとつしかない小さな診療所の医師は困った顔で、血清は一本しか残っていないと私たちに告げる。大輔はその血清を手に取ると、迷わずに言った。「美優、見た感じお前の傷は大したことないだろ?でも若葉のほうは、噛まれたところが赤く腫れてるから、彼女のほうが重症だ。な?分かるだ
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