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命の血清を奪った夫、今さら後悔しても遅い!

命の血清を奪った夫、今さら後悔しても遅い!

By:  小鹿ちゃんCompleted
Language: Japanese
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私は8年間、菅原大輔(すがわら だいすけ)を愛してきた。 登山中、私は毒蛇に噛まれた。命が尽きかけたその瞬間……大輔は、最後に残った一本の血清を彼の心を奪ったある女性にあげてしまった。 「彼女も怖がってるし、お前は医者だろ?つべこべ言うなよ」 それからしばらくして、警察から遺体の引き取りを求める電話が、大輔の元にかかってきた。 その遺体というのが私だと知った瞬間、大輔は私の亡骸の前で、この世の終わりかというほど泣き崩れた。 私は静かに彼を見る。「大輔。私は死ぬのよ。これで、あなたとはもう何もかも終わりね」

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Chapter 1

第1話

「大輔!蛇に噛まれた!助けて!」

私は子供のころから蛇が大の苦手だった。写真を見ただけでも震えてしまうぐらいなので、本物が目の前に現れたときの怖さなんて言うまでもない。

一瞬、なにかに喉を締めつけられる感じがしたあと、冷や汗が頰を伝って首筋を流れる。

私は震える声で菅原大輔(すがわら だいすけ)に助けを求めた。しかし彼は、増田若葉(ますだ わかば)を庇うように立ち、私の声なんて聞こえていないようだった。

ぐったりと大輔の腕の中に倒れこむ若葉の足元では、小さな蛇が動いている。そして、彼女はか細い声で自分も怪我をしたと訴えていた。

「大輔さん、私死にたくないよ。だって、まだあなたと叶えられていない約束がいっぱいあるでしょ?あなただって約束してくれたのに……」真っ青な顔の若葉はぼろぼろと大粒の涙をこぼす。

そんな若葉を見て心を痛めた大輔は、彼女を抱きしめ優しく慰めた。「若葉、大丈夫だから。蛇に噛まれた時は、むやみに動いちゃだめだぞ。毒が体にまわるのが早くなるからな」

そう言って大輔は若葉を背負うと、やっと私の方を見た。私の傷口をちらっと見ると、ほっとしたように息を吐く。

「美優(みゆ)、お前の傷はたいしたことなさそうだし、お前は医者なんだから、自分でなんとか出来るだろ?俺は麓の病院で待ってるから」

私は信じられない思いで目の前の男を見つめ、叫んだ。

「大輔!私を噛んだのは毒蛇なの!彼女より私のほうが危険な状況なんだよ?」私は悔しさをのみ込み、事実をはっきりと伝える。なぜなら、昔、医療ボランティアで地方に行ったとき、見たことがあったから。

しかし、大輔は振り返りもせず、若葉を背負って山をかけ下りていった。心の底から激しい怒りがこみあげ、もうどうにかなりそうだった。

その時、若葉が振り返って私を見た。その目には、勝利を確信したような挑発の色が浮かんでいる。

私は震える手で鞄からミネラルウォーターと消毒液を取り出し、急いで傷の応急処置をすると、足を引きずりながら山を下りた。

麓の町のひとつしかない小さな診療所の医師は困った顔で、血清は一本しか残っていないと私たちに告げる。

大輔はその血清を手に取ると、迷わずに言った。「美優、見た感じお前の傷は大したことないだろ?でも若葉のほうは、噛まれたところが赤く腫れてるから、彼女のほうが重症だ。

な?分かるだろ?」

この男は若葉の為にこんなことを言うなんて、私の命なんてどうでもいいのだろう。そう思うと、胸が痛み、息もできなかった。

医師が何か言いかけていたが、大輔はそれを遮って話を続ける。

「美優。俺はこれから若葉と山頂に星を見に行くから、お前は近くの病院で注射なり打ってもらって、先にひとりで帰っててくれ」

そう言い残し、二人は恋人つなぎで去っていった。まるで、本当に愛しあっている恋人のように……

医師が不思議そうに私に尋ねる。「あの人、本当にあなたの旦那さんなんですか?」

私はその哀れむような視線に耐えられず、苦笑いだけを返し、すぐに背を向けた。

その瞬間、涙がせきを切ったようにあふれ出し、冷たい地面にぽたぽたと落ちる。

しかし、今は時間との勝負だ。涙を服の袖でぐいっと拭う。

私が蛇に噛まれてから、もう1時間が経っていた。それに、一番近い病院までは車で40分はかかる。

噛まれた傷は小さいが、あの蛇の毒は命にかかわるし、1時間から4時間ぐらいで眩暈や手足の麻痺が始まることもある。急がなければ……

手のひらの冷や汗を拭う。毒が全身にまわっていくのが、はっきりと分かるうえに、胃からこみあげてくる吐き気で、息が詰まりそうだった。

でも、止まるわけにはいかない。周りになにもない山道。助けを呼ぶこともできないのだから。

カーブにさしかかったとき、対向車線から来た大きなトラックが、突然進路を変えた。私は恐怖で反射的に目を瞑り、ハンドルを強く握りしめる。

ドンッ、という大きな音。次の瞬間には、車は崖の下へ落ちていき、私は強い衝撃と共に車外へと投げ出された。

意識を失う直前、私は無意識に電話をかけた。それは、登録してある唯一の緊急連絡先……電話が繋がると、大輔が若葉に何か言っている声が聞こえてきた。「迷惑電話だから気にしなくていいよ」

絶望の中、私はそっと目を閉じた。

沈んでいく夕日が、空を燃やすように照らしている。真っ赤なバラの花束みたいで、すごく綺麗だった。

「大輔。私は死ぬのよ。これで、あなたとはもう何もかも終わりね」
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第1話
「大輔!蛇に噛まれた!助けて!」私は子供のころから蛇が大の苦手だった。写真を見ただけでも震えてしまうぐらいなので、本物が目の前に現れたときの怖さなんて言うまでもない。一瞬、なにかに喉を締めつけられる感じがしたあと、冷や汗が頰を伝って首筋を流れる。私は震える声で菅原大輔(すがわら だいすけ)に助けを求めた。しかし彼は、増田若葉(ますだ わかば)を庇うように立ち、私の声なんて聞こえていないようだった。ぐったりと大輔の腕の中に倒れこむ若葉の足元では、小さな蛇が動いている。そして、彼女はか細い声で自分も怪我をしたと訴えていた。「大輔さん、私死にたくないよ。だって、まだあなたと叶えられていない約束がいっぱいあるでしょ?あなただって約束してくれたのに……」真っ青な顔の若葉はぼろぼろと大粒の涙をこぼす。そんな若葉を見て心を痛めた大輔は、彼女を抱きしめ優しく慰めた。「若葉、大丈夫だから。蛇に噛まれた時は、むやみに動いちゃだめだぞ。毒が体にまわるのが早くなるからな」そう言って大輔は若葉を背負うと、やっと私の方を見た。私の傷口をちらっと見ると、ほっとしたように息を吐く。「美優(みゆ)、お前の傷はたいしたことなさそうだし、お前は医者なんだから、自分でなんとか出来るだろ?俺は麓の病院で待ってるから」私は信じられない思いで目の前の男を見つめ、叫んだ。「大輔!私を噛んだのは毒蛇なの!彼女より私のほうが危険な状況なんだよ?」私は悔しさをのみ込み、事実をはっきりと伝える。なぜなら、昔、医療ボランティアで地方に行ったとき、見たことがあったから。しかし、大輔は振り返りもせず、若葉を背負って山をかけ下りていった。心の底から激しい怒りがこみあげ、もうどうにかなりそうだった。その時、若葉が振り返って私を見た。その目には、勝利を確信したような挑発の色が浮かんでいる。私は震える手で鞄からミネラルウォーターと消毒液を取り出し、急いで傷の応急処置をすると、足を引きずりながら山を下りた。麓の町のひとつしかない小さな診療所の医師は困った顔で、血清は一本しか残っていないと私たちに告げる。大輔はその血清を手に取ると、迷わずに言った。「美優、見た感じお前の傷は大したことないだろ?でも若葉のほうは、噛まれたところが赤く腫れてるから、彼女のほうが重症だ。な?分かるだ
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第2話
私の魂は宙に浮かび、自分の体を見下ろしていた。こんな辛い世界には、もう1秒たりともいたくはなかったのだが、魂がなにかものすごい力に引っぱられるように、私の魂は大輔のそばにやってきた。空には星が瞬き、少し冷たい風が吹いている。大輔と若葉は、山頂の岩に座り星空を見上げていた。その様子はとてもロマンチックで、温かい雰囲気が流れている。若葉がそっと大輔の肩に頭を乗せる。「大輔さん。私、美優さんに何か言ったほうがいいかな。だって、私のせいで二人がけんかするのは嫌なんだもん。私だってずっと美優さんと仲良くなりたかったから、頑張ってたんだけど……いつもなんだか誤解されちゃうの」若葉が傷ついたような顔をすると、大輔は宥めるようにその頭をなでた。「この何年、俺が美優を甘やかしすぎたせいで、あいつは思い上がってしまったんだよ。今日なんか、お前の命を救う血清を奪おうとするなんて……医者のくせに人としてやっちゃいけないことをしてさ。でも、安心して。あいつには、絶対お前に謝らせるから」私は大輔の前に歩み寄り、怒りを込めて問い詰める。「あなた、人の心を見抜ける弁護士だって、いつも偉そうに言ってたよね?なのに、この女の腹の底は見えないわけ?あなたの目は節穴なの?」そのときふと理解した。忘れられない女の人の前では、男の人は本当に目が見えなくなる。だって、若葉が帰国したあの日から、大輔の心はもう私にはなかったのだから。私が大輔と出会ったのは大学1年生のとき。あの日、私はルームメイトに携帯を盗んだと濡れ衣を着せられた。いくら言っても信じてもらえず、私はもう、死んで潔白を証明するしかないと思った。冷たい風のなか、私は顔をぐちゃぐちゃにして泣きながら、寮の屋上にたったひとりで立っていた。下には人だかりができていて、動画を撮っている人もいれば、「早く飛び降りろよ、この腰抜け!」とヤジを飛ばす人もいた。なんて冷たい世界なんだろう、と思った。一歩踏み出そうとしたそのとき、誰かによって私の体は後ろからぐいっと引き戻された。私は呆然と、目の前にいる綺麗な顔の男を見つめる。彼も私の顔を見つめていたが、急に我に返ったらしく、すぐに自己紹介をしてくれた。「名前は菅原大輔。法学部だから、もしかしたら何か手伝えるかもしれない」と。大輔は、私の真っ暗な人生に差し込んだ
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第3話
大輔と若葉が近すぎると私は苦言を呈した。男女なのだから、ちゃんと距離を考えるべきだ、と。しかし大輔は素知らぬふり。「若葉は妹みたいなもんだからさ。お前が毎日、疑ってかかるから、そうやって変なこと考えるんだよ」大輔と若葉は山のホテルで2泊した後、車で家に帰ったのだが、その間ずっと、私の魂は彼に引っ張られていた。私が事故にあった道路を通ったとき、少し渋滞していた。道端には、長い規制線が張られている。待ちきれなくなった大輔は、様子を見るために車を降りた。そして、若い女性が車ごと崖から落ちたと聞いて、眉を顰める。私はため息をつく。自分の死体が見つかったのだろう。夏で気温も高いし、きっとひどい臭いがしたはずだ。若い検視官が鼻をおさえて駆けだし、わきで激しく吐いているのだから。結局、年配の検視官が大きなマスクをつけて、現場の初期調査を終わらせた。「被害者は20代半ばから後半の女性。一見、事故死のように見えますが、体内から猛毒が検出されました。傷口から見て、毒蛇によるものだと思われます」車の中のはひどく壊れていて、警察もすぐに身元を特定できなかったようなので、あとはDNA鑑定を待つしかなさそうだ。「まだ若いのに、可哀想ね」人だかりの中で、中年の女性が袖口で涙を拭っている。「毒蛇」と聞いた大輔は、白い布をかけられた遺体に目を向け、はっと目を見開いた。しかし、すぐに自分の考えを否定するように首を振る。それはそうだ。まさか、その遺体が私だなんて、思うわけがないのだから。大輔はもっと何か聞きたそうだったが、車の列が動きはじめたので、何事もなかったかのように車内へと戻った。「事故でちょっと混んでただけみたい」しかし、助手席の若葉の目はすこし泳いでいた。彼女は大輔に、早くこの場から離れるよう急かす。おーい、行かないでよ。どうして降りてきて見ないの?もしかして、怖い?大輔。結局、私たちはすれ違ってしまったね。大輔は若葉を家まで送り、ゆっくり休むように言った。すると若葉は、背後から大輔にぎゅっと抱きつき、か細い声を出す。「大輔さん、今夜泊まってくれない?なんだか、怖くて……」若葉は子猫みたいに大輔にぴったりくっつき、体をすり寄せる。しかし、この「子猫」こそが残忍で冷酷なのだ。蛇を二匹購入した。一匹は無毒、もう一匹
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第4話
「何言ってんの?朝っぱらから、そんな話につきあってる暇はないの。言っとくけど、もし美優になにかあったら、あなたは一生後悔するよ。あの子がどれだけあなたのために尽くしてきたか、なにも知らないくせに!」睦月が怒りにまかせて電話を切った。彼女は私の一番の、そしてたった一人の親友だった。以前、患者が起こしたトラブルで、私がもう何も出来なくなっていた時、そこへ睦月が現れてくれて、いとも簡単に場を治めてくれたのだった。それ以来私たちは親友にとなった。彼女は、私のことならなんでも知っている。付き合い始めた頃の大輔はすごく優しかったことも、その後に信じられないくらい冷たくなったことも、睦月は全部見てきた。私と大輔の間には、大輔の母親の菅原純子(すがわら じゅんこ)のことが原因でできた、大きな溝があった。1年前、純子に大きな卵巣腫瘍が見つかり、緊急手術が必要になった時、大輔はすぐに、私が勤める病院で入院の手続きをとった。彼は、私がこの街で一番腕のいい婦人科医だから、きっと純子を救ってくれると信じていた。しかし、私は大輔に伝えた。人を救うのは医師の仕事だからもちろん全力を尽くすが、純子の腫瘍は大きすぎるうえに、病状も複雑だから、詳しい治療方針は病理検査の結果が出てからにしよう、と。手術を万全なものにするために、私はわざわざ東都で一番の専門の医師にも来てもらった。その日の手術は全て順調だった。私は大輔に術後の注意点を何度も伝えてから、ようやく食事と休憩をとることにした。しかし、その2時間後。大輔が鬼のような形相で私を探しに来て、純子が死んだ、と言った。彼に胸ぐらを掴まれて病室へ向かう間、私は必死に手術の工程を思い返したが、どこにもミスを見つけられなかった。だが、あとで分かった。実は、大輔がお腹を空かせた純子をかわいそうに思い、買ってきたスープを飲ませてしまっていたのだった。結果、純子は嘔吐し、その嘔吐物が詰まり窒息死したのだ。大輔は私を憎んだ。全部私のせいだと、彼はそう思い込んだ。院長室に駆け込み、大輔は私を訴えると騒ぎ立てた。しかし、その後の調査で手術自体に過失はなかったことがはっきりし、術後すぐに食事を与えた大輔の過失との結論が出た。でも、自分のせいで母親が死んだなんて、大輔には受け入れられなかったのだろう。だから、
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第5話
その時、私は咄嗟にお腹をかばった。妊娠していることを大輔に言えなかった。言ったらきっと、子どもを堕ろせと言われると思ったから。大輔は、私との子どもなんて欲しくなかったのだろう。だから、怒りをぐっとこらえて、夜は家でごちそうを作ってあげると提案した。しかし、大輔は断って、若葉と山登りに行くと言った。無性に腹が立った私は、彼を問い詰めた。「誕生日って、一番大事な人と過ごすものじゃないの?もし、別の人と過ごすって言うなら、私はなんなの?」と。大輔は苛立ったように言い放つ。「若葉はただ俺と誕生日を過ごしたいだけなんだから、こんなことで嫉妬すんなよ。あいつは妹みたいなもんだしさ」悔しかったから、私も服を着替え彼について行った。大輔に最後のチャンスをあげるつもりだった。私のことを本当に大事に思ってくれているのか、確かめたかった。自分自身との賭けだった。しかし、私は負けた。たった一本の血清が手遅れになり、二つの命が失われた。私は後悔した。あのときの些細な意地が、自分自身とお腹の子どもを死なせることになってしまったなんて。本当に後悔している。私は孤児だったから、血の繋がった家族がどうしても欲しかった。お腹の子に会える日を、心の中で何度も思い描いていた。でも、まさか自分がこんな死に方をするなん……もっと早く、一人で生きていくって決めていれば。私一人でも子どもを育てられたはずなのに。そしたら、一度も顔を見れないなんてことにはならなかった。そこまで考えて、私は涙をぬぐった。そして、部屋に飾ってあるクロスステッチに目を向ける。「汚れたんなら仕方ないよ。もともと好きじゃなかったし」大輔はそれを適当なビニール袋に突っ込むと、部屋の隅に放り投げた。若葉がわざとらしい口調で続ける。「美優さんって、本当に意地っ張りなんだね。もう何日も家に帰ってこないなんて。大輔さん、今まで大変だったでしょ?」大輔が私を庇わないのを見た美優はさらに畳みかけてきた。「このあいだ美優さんに会いに行ったんだけど、知らない男の人とすごく親しそうにしてたよ。もしかして、浮気とか?」若葉がわざと歯切れ悪く言うと、大輔の怒りに一瞬で火がついた。私が死んだっていうのに、まだそんな嘘で貶めようとするなんて。本当に最低だ。確かに若葉は私に会いに来たが、彼女が
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第6話
大輔はゴミ箱の写真をSNSに投稿した。【刑期満了、これにて解放!】というコメント付きで。少し考えてから、大輔は睦月をブロックした。すぐにこの投稿に若葉がいいねをして、【ずっとそばにいるよ】とコメントを付けた。大輔。もうあなたのことは諦める。これからは、あなたの夢の中にさえ、私はもう出ていかないから。若葉が家にやってきて、大輔の腕にまとわりついて甘える。道端でケガをした子猫を見つけたが、一人ぼっちで可哀想だから、大輔の家で一緒に飼いたい、と彼女は言った。大輔は二つ返事で承諾した。その猫を見ていると、昔の記憶がよみがえった。私も猫を飼っていたことがあったのだが、私が仕事に行っている間に、大輔がこっそり郊外に捨てたのだ。私は聞いた。こんなに広い家なのに、どうして猫一匹すら置いてあげられないの、と。彼は猫アレルギーだから、と適当に言うだけだった。しかし、それが全部嘘だということは、私には分かっていた。私は車であの子猫を探しに行った。あの子猫はまだ病気だったから、暖かい家から捨てられてしまったらどうなるか、考えるだけで怖かった。郊外に差し掛かったとき、私は急ブレーキを踏んだ。道の真ん中に、ぐちゃぐちゃの肉塊が転がっていたのだ。血に濡れた鈴の飾りを見て、すぐに私の猫だとわかった。防犯カメラの映像を取り寄せると、大輔に捨てられたあの子猫は、必死に鳴いていた。その後も、片足を引きずりながら、絶え間なく続く車の流れを必死で避けていた。しかし、車が多すぎた。子猫が道を渡ろうとしたとき、猛スピードの車に頭を轢き潰されてしまったのだった。分かってる。あの子猫は、家に帰りたかったのだ。私はそっと猫の体を箱にしまい、大好きだったおもちゃと一緒に木の下に埋めてあげた。それなのに今、若葉が猫を飼いたいと言ったら、大輔は一言も反対しない。それどころか、彼女とペットショップにまで行く始末だ。同じことなのに、相手によって態度がまるで違う。大輔は私を愛してなんかいなかった。私は若葉の代わりに過ぎなかったのだ。もう諦めはついた。私が家に帰らなくなって7日目、大輔は見知らぬ番号からの電話を取った。出た瞬間、彼の口元には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。しかし大輔は、口を開くなり相手を責め立てた。「美優、俺の投稿見ただ
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第7話
運転手はその夜のうちに逃げ出し、数日間あてもなくさまよったらしいが、良心の呵責に苛まれ、眠れない日々が続いた。目を閉じれば、あの女が無残に倒れる光景が、何度も何度も脳裏に蘇るのだった。自首する前に腕のいい弁護士に相談したい。そう考えた彼が、真っ先に頼ったのが大輔だった。それからの2日間、大輔は事故の資料をまとめていた。しかし、運転手の話を聞くうちに、大輔は何かがおかしいことに気づき始める。運転手に付き添って警察署に行った日、藤本潤(ふじもと じゅん)という警察から、被害者の女性はまだ身元が分からず、引き取り手も現れないと教えられた。「一体どこの誰のなんでしょうかね。しかも、彼女の旦那さん、冷たすぎませんか?こんなに長く行方不明になってるのに捜索願も出さないなんて。まあ幸いDNA鑑定の結果が出たので、今、身元の確認を進めているところなんですけどね」大輔の口の端が少し歪んだが、その表情からは何も読み取れなかった。その夜、大輔は悪夢にうなされていた。夢の中で何かに怯えるその姿を見て、私はおかしくてたまらない。やましいことでもあるのだろうか?翌朝、大輔はけたたましく鳴り響く電話の音で目を覚ます。「今すぐ警察に来て!美優が見つかったの!」電話の向こうからは、涙で震える睦月の声が聞こえた。大輔は少し眉を顰め、面倒くさそうに服を着替えた。警察署に着くと、目を真っ赤に腫らした睦月がいた。彼女は大輔の顔を見るなり、いきなり飛びかかって殴りつけた。「あなたが美優を殺した!あなたなんて死んじゃえばいい!」潤はどうにか二人を引き離し、大輔にいつから私に会っていないのかと尋ねた。大輔がその日付を口にすると、潤はあきれたように鼻で笑い、彼を霊安室へと連れて行った。霊安室へ向かう間、大輔は何度も、「何かの間違いだろ」とつぶやいていた。私が死ぬなんて、ありえないとでも言いたげに。しかし、私の遺体を目にした瞬間、彼はその場で凍りついた。大輔は私に触れようと手を伸ばしたが、遺体はかなり腐敗が進んでいたため、躊躇った大輔はその腕を空中で止めた。大輔は驚いただろうか?あのトラック運転手がひき殺したのが、私だったなんて。「聞き込みによると、被害者の方は児童養護施設で育ったそうです。あなたの他に身寄りはいません。それからもう一つ、彼女
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第8話
大輔は電気をつけると、私に向かって歩いてきた。そして私の体をすり抜け、食べ残しのバースデーケーキの蝋燭にそっと火をつける。「美優、誕生日おめでとう」と、呟きながら。大輔と付き合い始めてから、私は毎年大輔の誕生日を祝っていた。一度、大輔に私の誕生日はいつかと聞かれたことがあったが、私は自分の誕生日など祝わないと答えた。「この世の中に誕生日を祝わない人なんているのか?」大輔は信じていない様子だった。私は一息ついてから、こう言った。「私、施設で育ったの。だから自分の誕生日が分からないんだ」顔を上げると、大輔の瞳が悲しそうに揺れていた。大輔は私をぎゅっと抱きしめ、額にキスをする。「これからは、俺の誕生日がお前の誕生日だ。一緒にお願いごとをしよう」私たちは、そうやって8回の誕生日を一緒に過ごした。そして、私は毎年同じ願いごとをしていた。「大輔が一生健康で幸せに過ごせますように。​そして、死ぬ時は必ず一緒に……」しかし大輔は、私が願い事を口にするたびに、決まってこう言った。「お前の願いは、どうしてそんなに悲しいんだ」そして、冗談めかしながらも本気のような顔で、「美優が先に死にたいのだ」と言う。そうすれば、悲しみに取り残されるのは自分で、美優じゃなくて済むから、と。私は本当に大輔より先に死んでしまった。まさか、あの言葉が本当になるなんて。大輔は、携帯に残った私からの最後の着信履歴を見て、声をあげて泣き崩れた。そして深い後悔に沈んでいく。彼は半狂乱で、部屋の中から私のいた痕跡を探し始めたが、見つかったのは隅っこに自分が放り投げた、あのクロスステッチだけだった。「美優、なんで……なんで死んじゃったんだよ?もっと早く、おかしなことに気づくべきだった。全部、俺のせいだ……」突然、大輔は狂ったように車を飛ばして郊外のゴミ処理場へ向かった。そして地面に這いつくばり、ゴミの山を素手でかき分け始める。彼が捨ててしまった私の物を探して。大輔の体中に腐った野菜くずや汚れた紙がまとわりつく。しかし、吐き気を催すほどの悪臭も、大輔にはまったく感じられていないみたいだった。「美優、俺が間違ってた。ごめん、本当にごめん!本当は全部わかってたんだ。母さんの死がお前のせいじゃないってこと……でも、俺は自分の間違いと向き合うのが怖くて……ずっとお前の
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第9話
大輔がなにかを言い終わる前に、若葉は携帯を奪い取り、地面に叩きつけた。私は大輔がとても危険な状況だということに気づく。しかし、もう私には関係ないこと。私はベランダの手すりに腰かけ、ふたりの醜い争いを眺めていた。若葉がロープを持って一歩ずつ大輔に迫っていく。数歩後ずさった大輔は、そのままソファに倒れ込んだ。「若葉、なにをする気だ?」大輔の声は、かすかに震えていた。若葉に今までの弱々しい姿はまるでなく、今の彼女は狂ってしまったかのように、別人だった。若葉は大輔の前に立って、彼を見下ろした。口から漏れる甲高い笑い声が、やけに耳につく。「あなたは昔、一生私だけを愛するって言ってくれた。なのに、あなたは約束を守らず、美優さんと結婚したよね?でも大丈夫。あの女が死ねば、もうあなたを奪う人はいなくなるから。私たち、誰も知らない場所へ行って、二人で幸せに暮らそうよ」恐怖で大輔の顔から血の気が引く。若葉がずっと二人の仲を裂こうとしていたことに、大輔はやっと気づいたようだ。少しずつ私に対する嫌悪感を持たせることが目的だったと……大輔の心の中にあった美しい思い出は打ち砕かれた。自分が過去の記憶にすがって生きていたせいで、この悲劇が起きた。「大輔さん、もう一つ教えてあげる。美優さんが妊娠してたこと、私はとっくに知ってたんだよ。でも、私が彼女の検査報告書を盗んだの。だって、あの女にあなたの子を産む資格があるなんて思えないでしょ?あなたの子を産めるのは、私だけなんだから。美優さんを苦しめたのはあなた。だって、今までのこと全部、私の為にあなたが喜んでやったことじゃない?もう私たちは一生一緒なの。私のそばから逃げようたって無駄だからね」大輔は泣き叫びながら、自分の髪をかきむしった。「俺が美優を殺した。この手で、美優と子どもを!俺は人間じゃない、化け物だ!」若葉は大輔が純子の件で私をずっと根に持っているのを知っていた。だから、その心の隙につけこんだ。少しずつ私たちの仲を引き裂き、破滅へと向かわせた。私が死んで初めて、彼女の目的が果たされるのだろう。彼女は、大輔を道連れにして、底の見えない深淵へと落ちるもりだった。彼の手を、自分のために血で染めさせる。そうすれば、彼は一生、彼女から逃れられない。その罪とともに、永遠に彼女だけのもの
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