エアコンは26度に設定されているのに、私の心はどんどん冷えていくのを感じていた。手には、まだプレゼント用に包装できていない、陽性反応が出たばかりの妊娠検査薬があった。ほんの数分前まで、私はこのサプライズを知ったら前田勲(まえだ いさお)がどんな顔をするか、ワクワクしながら想像していたのに。きっとプロポーズの時みたいに、目を潤ませて私を抱きしめてくれるはず。そして、まだ何も聞こえないって分かっていても、そっと私のお腹に耳を当てるんだろうな。だって、勲は誰もが認めるほどの愛妻家なんだから。私が「南区のケーキが食べたいな」ってつぶやいただけで、土砂降りの中でも彼は、2時間も車を走らせて買って来てくれていた。胃が痛いと言えば、わざわざ胃に優しいレシピを探してきては手料理を作ってくれたりもした。極めつけは、私たちの結婚式のために、60億円もの契約を断って、自ら海外までウェディングドレスを選びに行ってくれたことだ。それなのに……半開きになった書斎のドアの前に立った私は、隙間から漏れ聞こえてくる会話を、聞いてしまったんだ。「上田家との話はついたのか?」勲の声は、私が今まで聞いたこともないほど冷たかった。「社長、上田さんの検査結果が届きました。体外受精は成功です」秘書の小野哲也(おの てつや)の声は緊張しているみたいだった。「しかし……これは、上田さんがあまりにもお気の毒です。それに、もし石田(いしだ)さんがお知りになったら……」「黙れ」勲は哲也の言葉を、冷たく遮った。「美羽には重い遺伝病があって、自然に子供を授かるのは難しい。それでも彼女は子供が欲しいって言うし、そして俺も、上田家に恩を返さなければならないから、これは取引だ」その話し声と共にカチッ、とライターの音がして、タバコの匂いが漂ってきた。「生まれた子は上田家の籍に入れる。俺は恩を返し、向こうは子供を手に入れる。これでチャラになる」勲はそう言って煙を吐き出しながら、まるで仕事の話でもするように淡々と続けた。「遥のことは……」そこまで聞いて、私は、息をするのも忘れていた。「遥は純粋すぎる。こんな汚い話は、絶対に知られてはいけない」勲の声は少しだけ優しくなった。でも、その言葉には私がぞっとするような、恐ろしい独占欲が潜んでいるようだった。「結婚式も近いんだ
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