あの日を境に、私にはつかの間の平穏が訪れていた。 景明は何かに追われているのか、しばらく私の前から姿を消した。 それでも彼からの届け物は絶えず、管理人室に預けられるか、直接デリバリーで送られてきた。 西園寺家からの容赦ない報復を食い止めに走っているのか。あるいは、瑠香とよりを戻して、西園寺グループの尻拭いに奔走しているのか。 どちらにせよ、今の私にはどうでもいいことだ。私はようやく深く息を吐き、静かに体を労わることに専念することができた。 それから半月後。景明は再び、血走った赤い目をして瑶季のマンションの前に立っていた。 「喜乃……半年ほど、地方の現場に出ることになった。これはこの半月でどうにか稼いだ金だ。多くはない、二十四万しかないが……君と、子供のために使ってほしい」 彼は上着のポケットから一枚のカードを取り出した。かつてはためらいなくブラックカードを切っていたその手が、今はごくありふれたキャッシュカードを震えるように握りしめている。 「君が金に困っていないことは分かってる。でも、これが今の俺にできる精一杯なんだ」 彼は縋るように顔を上げた。ひどく充血したその瞳には、行き場のない深い感情が渦巻いていた。 「喜乃、行く前に……一つだけ聞かせてくれないか」 私は無言のまま彼を見返した。それを無言の承諾と受け取ったのだろう。 「もし俺が、出会った最初から……君にすべてを正直に打ち明けていたら。君は、俺を愛してくれただろうか?」 私は目の前に立つ男をじっと見つめた。かつての、あの洗練された気品ある面影は、もう見る影もない。 カードを差し出す指には、まだ生々しい傷跡がいくつも残っている。肌も荒れ果て、ひどくくすんでいた。 初めて出会ったあの夜、運転免許を差し出してくれた、あの白く骨ばった美しい手とは、まるで別人のようだった。 あの時、彼に惹かれた私のときめきは、間違いなく本物だった。――そして、彼への愛が完全に冷めきった今の心も、間違いなく本物だ。 「景明。この世界に『もしも』なんて存在しないわ」 彼の顔から、すっと最後の血の気が引いていった。彼は力なくうつむき、無言のままカードを玄関の棚に置くと、重い足取りで背を向けた。 エレベーターホールまで歩きかけたところで、彼はふと足を止めた。 「
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