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彼氏の浮気相手は、結婚5年目の妻!?

彼氏の浮気相手は、結婚5年目の妻!?

作家:  蓮に夜風完了
言語: Japanese
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概要

逆転

ドロドロ展開

愛人

ひいき/自己中

妻を取り戻す修羅場

不倫

私、小林喜乃(こばやし よしの)には、三年付き合っている彼氏がいる。 彼は私を甘く溺愛し、この上なく大切にしてくれていた。友人たちは皆、そんな私を羨んだ。 唯一の欠点を挙げるとすれば、彼が多忙すぎることだった。 いつもイベントや記念日の前になると、決まって出張に行かなければならなかった。 今年のバレンタインデー直前、彼の車の中でまったく同じプレゼントを二つ見つけてしまうまでは。 息が、止まった。 あの岩田景明(いわた けいめい)が、浮気? 一度落とされた疑念の種は、真っ黒な根を張り、あっという間に芽を出し始める。 そしてついに、彼がバレンタインデーにまた「出張」へ行くというので、私はこっそりと後をつけた。 突き止めた浮気相手を問い詰めても、彼女は少しも悪びれる様子を見せず、ひどく堂々としていた。 自分が泥棒猫であることを、頑なに認めようとはしないのだ。 私は怒りで感情を爆発させ、彼女を景明の元へ引きずり出し、直接対決させてやろうと騒ぎ立てた。 すると彼女は、景明との婚姻届受理証明書を取り出し、私の顔に叩きつけてきたのだ。 「よく見なさいよ。一体どっちが『泥棒猫』なのかしら!」

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第1話

第1話

バレンタインデーを数日後に控えたある日。私、小林喜乃(こばやし よしの)は、彼氏である岩田景明(いわた けいめい)の車の助手席で、グローブボックスの中に予備のマスクがないか探していた。

その時、奥の方で指先に赤いベルベットの小箱が触れた。

心臓がトクトクと早鐘を打つ。甘い期待で、胸が張り裂けそうだった。

もしかして、ついにプロポーズ?

震える指で、ベルベットの小箱をそっと開ける。

だが、中に入っていたのは指輪ではなかった。

私がファッション誌で何度も眺めていた、『天空の輝き』という名のネックレスだ。

彼はいつも、私の些細な好みをちゃんと見てくれている。ほんの一瞬よぎった落胆は、あっという間に温かい喜びに溶けていった。

その時、運転席のドアがバンッと開いた。

飲み物を買いに行っていたはずの景明が、そこに立っていた。

「何してるんだ……」

彼の鋭い視線が、私の手元にあるネックレスに突き刺さる。表情は強張り、声には明らかな動揺がにじんでいた。

有頂天になっていた私は、彼の様子が決定的におかしいことに、まだ気づいていなかった。

「あ、見つけちゃった!バレンタインのサプライズ、先に見ちゃってごめんね!」

私は無邪気に笑いながら、嬉しさいっぱいで箱を掲げてみせた。

しかし景明は無言のまま運転席に乗り込むと、バンッと荒々しくドアを閉めた。

「なんで勝手に人のものを漁るんだ!」

耳を疑うほど尖った声。その横顔は、見たこともないほど冷ややかだった。

私は呆然と彼を見つめた。箱を掲げていた手が、行き場を失って宙で止まる。

付き合って三年になるが、彼にこんな冷たい言い方をされたのは初めてだった。

私がひどく怯んでいるのに気づいたのか、彼はふっと息を吐き、少しだけ口調を和らげた。

「ごめん喜乃、他意はないんだ。ただ、車の中には会社の機密書類を置いていることもあるから……次からは勝手に開けないでほしい」

彼はさりげなく視線を前方に逸らし、エンジンをかけて車を発進させた。

……私が、悪かったの?

甘い喜びは一瞬にして冷え切った。私は黙ってネックレスを箱に戻し、そっとグローブボックスを閉めた。

車内に重い沈黙が降りる。いつの間にか、窓の外ではしとしとと冷たい小雨が降り始めていた。

雨だれを見つめるうち、ふと三年前の記憶が蘇った。初めて景明と出会った、あの雨の夜の出来事だ。

深夜二時。一人で残業を終えた私は、静まり返った会社の前に立ち、タクシーを拾おうとしていた。しかし、いくら待っても空車は一台も通りかからない。

傘もなく全身はずぶ濡れで、冷たい夜風が吹きつけるたび、ガタガタと身体の震えが止まらなかった。

そこに、一台の黒い高級車がすべるように目の前に止まった。スモークガラスの窓が静かに下りる。

「家、どの辺り?送るよ」

見知らぬ男の言葉に、私は警戒して思わず一歩後ずさった。

「大丈夫、怪しい者じゃないから」

彼は少し笑うと、スーツの内ポケットから運転免許を取り出し、窓越しに私の手のひらへと乗せた。

写真と目の前の整った顔立ちを何度も見比べてから、私はようやくその好意に甘えることにした。

「……ありがとうございます。タクシー代の倍額、ちゃんとお支払いしますので」

ひどく恐縮しながら、濡れた身体のまま、おずおずと助手席に乗り込んだのだ。

あの時の私は、彼が名門・岩田グループの一人息子だなんて知る由もなかった。

ただ、この親切で洗練された男性は、笑顔がとても温かく、変に気取ったところがなくて素敵だな、と思っただけだった。

ずっと後になってから、彼が笑って教えてくれたことがある。

あの日、土砂降りの雨の中で身をすくませ、今にも泣き崩れそうなのに必死で涙をこらえて立っていた私の姿が、ひどく意地っ張りな捨て猫にそっくりだったのだと。

「あの瞬間、君に一目惚れしたんだよ」

そう言って優しく微笑みながら、私の頬をそっと撫でてくれた彼の手の温もりを、今でも覚えている。

あの時、私は彼のために、一番得意なスープを心を込めて煮込んでいる真っ最中だった。

付き合い始めてわずか五日目で、彼は私を自身の親友たちに紹介してくれた。

華やかなパーティーの席で、私の手をしっかりと握り、皆の前で堂々と「俺の彼女の喜乃です」と紹介してくれたのだ。

それは、平凡な私にとって十分すぎるほどの安心感だった。

二人きりでいる時も、彼は私のどんな些細な癖や好みにも気づいてくれた。

私が室内でスリッパを履くのが苦手だと知ると、すぐさま家中に毛足の柔らかいウールのカーペットを敷き詰めてくれた。

私がたまに理不尽なわがままを言っても、嫌な顔ひとつせず全て受け止め、むしろ愛おしそうに目を細めていた。

付き合って三年。仕事が激務で、クリスマスや連休には決まって「出張」が入ってしまうこと以外、景明は私にとって、まさに非の打ち所がない完璧な恋人だった。

……

我に返り、現実に意識を引き戻す。これまでの甘く幸せな記憶を辿るうちに、先ほどの戸惑いや怒りは、もうほぼ溶けてなくなっていた。

普段あんなに優しい彼が、理由もなく怒鳴るはずがない。きっと本当に、見られてはいけない重要な機密書類が入っていたのだろう。

そう自分を納得させると、わだかまりはすっと消え、むしろ疑ったことへの申し訳なさが込み上げてきた。

「ごめんね、景明。マスクを探そうとしただけで、本当にたまたま触っちゃっただけで……

でも、プレゼント……すごく嬉しい。ありがとう」

私のしおらしい謝罪を聞いて、景明の強張っていた表情がようやく解けた。いつものように、甘く優しい微笑みを向けてくれる。

――けれどその笑みは、なんだか目の奥までは届いていないように見えた。

その日の夜。彼はいつものように、一人書斎にこもって仕事をしていた。

私が書斎の前を通りかかった時、ドアの向こうから、景明がひどく声を潜めて電話で話しているのが聞こえてきた。

「分かってる。こっちで何とかするから……」

仕事のトラブルだろうか。私は特に気に留めることもなく、そのまま通り過ぎた。

シャワーを浴び終え、ゴミ出しのためにマンションの階下へ降りる。そのついでに、新しいマスクの袋を一つ手に取った。

駐車場に向かい、彼の車にマスクを補充しようとグローブボックスを開けた時。私の指先が、再びあの馴染みのあるベルベットの感触に触れた。

――二つ。

私は、全身の血が凍りつくのを感じた。
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バレンタインデーを数日後に控えたある日。私、小林喜乃(こばやし よしの)は、彼氏である岩田景明(いわた けいめい)の車の助手席で、グローブボックスの中に予備のマスクがないか探していた。その時、奥の方で指先に赤いベルベットの小箱が触れた。 心臓がトクトクと早鐘を打つ。甘い期待で、胸が張り裂けそうだった。 もしかして、ついにプロポーズ? 震える指で、ベルベットの小箱をそっと開ける。 だが、中に入っていたのは指輪ではなかった。 私がファッション誌で何度も眺めていた、『天空の輝き』という名のネックレスだ。 彼はいつも、私の些細な好みをちゃんと見てくれている。ほんの一瞬よぎった落胆は、あっという間に温かい喜びに溶けていった。 その時、運転席のドアがバンッと開いた。 飲み物を買いに行っていたはずの景明が、そこに立っていた。 「何してるんだ……」 彼の鋭い視線が、私の手元にあるネックレスに突き刺さる。表情は強張り、声には明らかな動揺がにじんでいた。 有頂天になっていた私は、彼の様子が決定的におかしいことに、まだ気づいていなかった。 「あ、見つけちゃった!バレンタインのサプライズ、先に見ちゃってごめんね!」 私は無邪気に笑いながら、嬉しさいっぱいで箱を掲げてみせた。 しかし景明は無言のまま運転席に乗り込むと、バンッと荒々しくドアを閉めた。 「なんで勝手に人のものを漁るんだ!」 耳を疑うほど尖った声。その横顔は、見たこともないほど冷ややかだった。 私は呆然と彼を見つめた。箱を掲げていた手が、行き場を失って宙で止まる。 付き合って三年になるが、彼にこんな冷たい言い方をされたのは初めてだった。 私がひどく怯んでいるのに気づいたのか、彼はふっと息を吐き、少しだけ口調を和らげた。 「ごめん喜乃、他意はないんだ。ただ、車の中には会社の機密書類を置いていることもあるから……次からは勝手に開けないでほしい」 彼はさりげなく視線を前方に逸らし、エンジンをかけて車を発進させた。 ……私が、悪かったの?甘い喜びは一瞬にして冷え切った。私は黙ってネックレスを箱に戻し、そっとグローブボックスを閉めた。 車内に重い沈黙が降りる。いつの間にか、窓の外ではしとしとと冷たい小雨が降り始めていた。 雨だれを見つめる
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第2話
車内のライトをつける。全く同じ赤いベルベットの箱が二つ。全く同じネックレスが二つある。なぜ、二つもあるの?でも、深く考える暇もなく、遠くでエレベーターのドアが開閉する音が聞こえた。私は慌てて箱を元の場所に戻し、車のドアを閉めた。表面上は平静を装っていたけれど、心臓はバクバクと鳴り、手のひらは汗でじっとりと濡れていた。景明が私の方へ歩いてくる。その顔にはいつもの優しい笑みが浮かんでいる。「こんな遅くにどうしたんだ?」彼は私の髪を撫でようと手を伸ばした。でも私は、無意識に半歩後ろへ下がってしまった。景明がこんなに急いで降りてきたのは、私が車に隠した秘密に気づくのを恐れたから?彼の緊張が、棘のように私の心に刺さる。景明の伸ばした手が、宙で止まった。かつて私を深く惹きつけたその瞳を見つめる。今、彼の瞳孔はわずかに収縮していた。私たちはお互いをよく知りすぎている。彼はうつむいて、私の視線を避けた。彼は、緊張している。「口紅を車に落としたかも。探しに来たの」私は自分の声ができるだけ平静に聞こえるように努めた。「明日俺が探すよ。それか、新しいのを買ってやる。上に行こう、地下駐車場は寒い」彼は自然に私の肩を抱き寄せた。いつもと同じようで、どこか違う。夜、目を閉じても全く眠れなかった。記憶が不意に蘇ってくる。去年、私が急性胃腸炎で入院した時、彼は重要な会議をキャンセルして三日三晩付き添ってくれた。目が覚めると、彼はベッドのそばで突っ伏していた。髪は乱れ、目の下には隈ができ、顎には無精髭が生えていた。彼は私がコーヒーにミルクを多めに、砂糖を半袋入れることを覚えている。雨の日、彼の傘はいつも私のほうに大きく傾いている。深夜残業をしていると、私や他の残業組のために美味しいものを買ってきてくれて、そして会社のビルの下で私が終わるのを待っていてくれた。去年、父が脳梗塞で倒れた時、私は故郷の病院の廊下で息もできなくなるほど泣きじゃくった。そんな私のもとに、景明は夜通し車を飛ばして駆けつけてくれた。母と私のために、煩雑な手続きを全て片付けてくれた。コネを使って最高の病院と専門医を手配してくれた。潔癖症の彼が、私と一緒に病院の廊下で眠った。その服には、忙しく走り回った後の汗の匂いが
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第3話
景明は喉仏を上下させ、私をさらに強く抱きしめた。「やきもち?」私は神経が張り詰めていて、彼の言葉には乗らなかった。「西園寺(さいおんじ)社長が……奥さんにバレンタインのプレゼントを用意したいって。宝石のことはよく分からないから手伝ってくれって頼まれて、ついでにもう一つ買ったんだ」彼の親指が、ゆっくりと私の手の甲を撫でる。これは謝る時の、彼の癖だ。西園寺社長のことは知っている。五十代で、確かにプレゼント選びは苦手そうだ。本当に私の思い過ごしだったの?だって景明は、これまでずっと誠実で、私に絶対の安心感をくれていた。以前、女性のクライアントからプレゼントを渡されそうになった時も、すぐに私に報告してくれた。「彼女の許可がないと受け取れないから」と断ったと言って。今の彼の表情には、微塵のやましさもない。これではまるで、勘繰ってばかりいる私の方が、心の狭い嫌な女みたいだ。けれど――彼の胸の鼓動がやけに早い。私の耳に直接伝わってくるその不自然なリズムを、どうしても無視することはできなかった。「景明、このこと……最初から直接そう言ってくれればよかったのに。あんなに怒らなくても……」私は彼の胸にさらに耳を押し当てながら、慎重に彼の出方を探った。「怒ったのは、君が驚く顔を見られなくなっちゃったからだよ。プレゼントを開けた瞬間の、嬉しそうな君を見たかったのに」景明は愛おしそうに私を見つめていた。その瞳の奥には、ほんのりと失望が滲んでいる。「サプライズできなくて、本当にごめんな」私の思い過ごしだった。私は彼を抱きしめ返し、顔を胸に埋めた。「ごめんね……勝手に漁ったりして。あなたを疑ったりして」「バカだな」彼は私の額に軽くキスをした。「悪かったのは俺の方だ。当日、改めてサプライズさせてくれ」私は彼の腕の中で何度も頷いた。涙が彼のパジャマを濡らしていく。こんなに愛してくれているのに、私は疑ってしまった。罪悪感で胸がいっぱいになって、ひどく切ない。彼が優しく涙を拭ってくれる。私は涙をこらえながら、彼の唇にそっと口づけた。彼が体を翻して私を押さえつけ、激しく唇を奪ってきた。ネグリジェが彼の温かい手の中でゆっくりと脱がされていく。肌が触れ合った瞬間、体のスイッチが入った。ベッドの上の彼はいつ
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第4話
カーペットの上にへたり込んだまま、冷え切った心が少しずつ裂けていく。視線は、景明の寝顔を切なく辿っていた。まだ受け入れられずにいた。彼が浮気したなんて。こんなに私を愛してくれた彼が、どうして他の女を両親に会わせたりするの?私は彼にとって、一体何だったんだろう……スマホをそっと元の場所に戻した。それからの数日間、私は何事もなかったかのように振る舞った。景明が出かける時には、いつも通りに「いってらっしゃい」のキスをした。仕事帰りには、これまでと変わらず彼のお気に入りのお菓子を買って帰った。そして彼から向けられる気遣いや愛情にも、精一杯の笑顔で応えてみせた。すべてが、以前と何一つ変わらず平穏だった。――けれど、分かっている。一度入った信頼のひびは、とめどなく広がり、やがて音を立てて崩れ去るのだと。私は待つことにした。彼がボロを出す、その時を。彼が隠し通そうとする答えなら、私がこの手で暴き出してみせる。ついに、バレンタインデーの前日。景明は「サプライズの準備をしてくる」と言って、慌ただしく家を出ていった。私はタクシーを拾い、彼の後を追った。車は会員制の花屋の前に停まった。ほどなくして、彼は大きな赤いバラの花束を抱えて出てきた。私の好きなひまわりじゃなかった。運転手に追跡を続けるよう指示した。車は最終的に、高級住宅街の邸宅へと入っていった。私はただ、テールランプがゆっくりと消えていくのを見つめることしかできなかった。絶望して、車の窓ガラスに頭をもたせかける。彼が消えた方向を見つめながら、電話をかけた。「もしもし、喜乃?」彼の声にはまだ笑みが含まれていた。背景はとても静かだった。「景明、今どこにいるの?」胸を締め付けるような痛みを必死に押し殺し、私はできる限り平静な声を作った。「君へのサプライズを準備しているところだよ。後でかけ直してもいいかな?」煌々と明かりが灯る豪邸を見上げる。電話の向こうからは、ハイヒールの足音がコツカツと近づいてくるのが聞こえた。私は、静かに通話を切った。それからの数日間、私はまるで魂を失った抜け殻のようだった。昼間はいつも通り仕事へ行き、夜は景明の隣のベッドに入る。彼の体から時折漂ってくる、見知らぬ香水の匂いに気づかないふりをしながら。
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第5話
その事実に行き着いた瞬間、私は全身の血の気が引き、手足の感覚が麻痺していった。耳の奥で、雷に打たれたような激しい耳鳴りがガンガンと鳴り響いている。この三年間、私が大切に集め、抱きしめてきた幸せの欠片たち。それがすべて、他人の家庭を壊した上に成り立っていたものだったなんて。羞恥心で顔がカッと熱くなり、今すぐこの場から消え去ってしまいたかった。私こそが他人のものを奪う泥棒猫だったのに、本妻気取りでいけしゃあしゃあと景明との未来を夢見ていたのだ。胸が鋭く抉られるように痛む。鉛を飲み込んだように重く、苦しくて、まともに息もできない。私の尊厳もプライドも、景明の手によって泥水の中に叩き落とされ、無残に踏みにじられてしまった。――それなのに、私は彼を心の底から憎みきれずにいる。情けないことに、こんな惨めな状況でさえ、彼と過ごした甘い記憶が無意識に蘇ってきてしまうのだ。目の前で瑠香が証明書を片付ける動作は、ひどくゆっくりとしていた。まるで、崩壊していく私を嘲笑っているかのようだ。「何を考えてるか分かるわ。証明書の真偽なんて確かめようがないものね。大丈夫、他にも証拠はあるから」彼女はスマホを取り出し、アルバムを開いて私の目の前に突きつけた。二人のウェディングフォト。次の一枚は、屋外で挙げた結婚式。親族や友人との集合写真。日付は全て五年前。さらに次は、三ヶ月前の両家の会食。豪華な建物の中で、写真に写る全員が幸せそうに笑っていた。目が焼けるようだった。恥ずかしくて、たまらなかった。爪が手のひらに食い込む。でも、痛みは感じなかった。「これで足りる?足りなければ、まだあるわよ」彼女はトーク画面を開き、景明とのやり取りを見せた。瑠香と彼女の父親とのスクリーンショット。画像の中で、彼女の父親が景明と私の親密なツーショットを送りつけていた。【役立たずめ。男一人もつなぎ止めておけないのか】景明の返信はこうだ。【すまない、瑠香。俺がちゃんと始末する】そうか。私はただの、始末すべき厄介者だったんだ。「それにしても、景明があなたを選んだのは賢かったわね。コスパが最高。手間をかけて機嫌を取る必要もないし、大金をかけて養う必要もない。ちょっと『愛情』を与えてやれば満足するんだから」瑠香は軽蔑とから
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第6話
妊娠検査の結果は、寝室のベッドサイドテーブルにしまってある。バレンタインデー当日に、彼にサプライズをするつもりだった。でも、彼からの「サプライズ」の方が先だった。タクシーに乗って、当てもなく三時間さまよった。行く場所もない。結局、家に帰るしかなかった。景明がソファで待っていた。三年間、全力で愛してきたその顔を見た瞬間、涙が堰を切ったように溢れ出した。私はまっすぐ彼の前に歩み寄り、手を振り上げ、思い切り平手打ちを食らわせた。「最低!」一発目。彼は呆然としていた。二発目、三発目……何発打ったかなんて数えていない。ただ機械的に、同じ動作を繰り返した。パン、パン。平手打ちの音が、静まり返った部屋に響き渡る。一発、また一発。かつての優しさも、愛も、信頼も、全部叩き壊していく。手が痺れて震える。視界は涙で滲んで何も見えない。ただ感情をぶつけることしかできなかった。彼は避けなかった。防ごうともしなかった。目を閉じて、黙って受け止めていた。もう手を上げる力も残っていなかった。荒い息をつきながら、私は口を開いた。「景明、別れよう」彼の顔は赤く腫れ上がり、惨めな姿で私を見上げた。目に涙が溢れている。「喜乃……」「出ていって!」私は一歩後ずさり、手の甲で涙を拭った。でも、拭っても拭っても止まらない。景明は、私の冷たい視線に耐えきれず、出ていった。ドアを開けた瞬間、冷たい風が吹き込んできた。雪が降っていた。この冬、初めての雪だった。その夜、一睡もできなかった。彼との関係はあまりにも長く続きすぎた。彼の存在は私の生活の隅々にまで染み込んでいて、剥がせない。たとえば、今横たわっているこのベッドのシーツ。今朝、彼が新しく替えてくれたものだ。たとえば、ベッドサイドに飾ってある、二人のツーショット写真。たとえば、今、私のお腹の中にいるこの子。隠し子として生きるのか。それとも、生まれてくるべきじゃないのか。どちらを選んでも、正しくない気がした。……翌朝、私は病院へ向かった。エレベーターのドアが開いた時――中に立っていた人物を見て、全身の血が凍りついた。瑠香が、中年の女性の腕を組んでいた。母親だろう。景明もいた。彼は私を見ると、誰にも気づかれないくらい微かに眉をひそ
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第7話
「こういう恥知らずな女は、あなたが自分の手で殴ってやらないと諦めないのよ」瑠香の母の口調は落ち着いていたが、その視線は冷たく景明を射抜いていた。彼が私を見た。その目には葛藤と苦痛があった。でもそれは最後には、麻痺と、臆病さと、諦めに取って代わられた。私は一歩後ずさり、驚きと怒りで景明を見つめた。彼は歯を食いしばった。瞳の奥の最後の光が消える。手を振り上げ、心を鬼にして、目を閉じた。パン!平手打ちの音が、廊下全体に響き渡った。殴られて、顔が横を向いた。頬が痺れるほど痛い。口の中に、血の味が広がった。足早に歩いていた人たちも、立ち止まっていた。耳鳴りがする。顔が痛いのか、心が痛いのか、一瞬分からなくなった。瑠香が歩み寄り、景明の腕を組んだ。「さあ、行きましょう」景明は操り人形のように引かれて、病院の外へと向かっていく。最後まで、彼は一度も振り返らなかった。「中絶費用は私が出してあげる。いい、おとなしくその子をおろすのよ」瑠香の母親は笑いながら私を見下ろし、軽い口調で言い放つと、数枚の紙幣を私に向かって投げつけた。そしてボディガードを連れて、去っていった。私はうつむいた。ひらひらと舞う紙幣が、地面に落ちていく。周りの人たちがひそひそと話している。私を指さしている。「自業自得よ。若いくせに恥知らずな泥棒猫なんて……」「妻が妊娠してるのに、まだしつこく付きまとって……」「あの男も情けないわね」……私は重い足を引きずって、休憩用の椅子までなんとかたどり着いた。涙が一滴、また一滴と太ももに落ちて、小さな濃い色の染みを作っていく。でも、泣いているうちに、私は突然笑い出した。全身が震えるほど笑った。涙が溢れるほど笑った。悲しみが限界を超えると、人は笑うものなんだな。自分の愚かさを笑った。自分の見る目のなさを笑った。景明が私に少しでも本気だと思っていた、自分を笑った。手の中の紙幣が、やけに熱く感じられた。――この子を産もう。不意に、そんな思いが湧き上がった。まだ景明に未練があるからじゃない。何かが唐突に、ふっつりと切れたのだ。この子に罪はない。私だって、何も悪くない。間違っているのは私たちじゃない。どうして私たちばかりが、いつも泣き寝入りしなければなら
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第8話
景明だった。 だが、私の記憶の中にある景明ではなかった。 彼は無残なほど痩せこけていた。かつては体格にぴったり合っていたはずのスーツが、今はだぶついて肩から落ちそうになっている。 顎には青黒い無精髭が伸び、両目はひどく充血していた。 手にはコンビニのビニール袋が握られ、そこからカップ麺の角がのぞいている。 「喜乃」 その声は、ひどく掠れていた。 私は無言で背を向け、立ち去ろうとした。だが彼はすがりつくように手を伸ばし、私の腕を掴んだ。 彼の手の甲には大小さまざまな傷跡があり、そのいくつかは赤黒いかさぶたになっていた。 「五分でいい。俺の話を聞いてくれ。その後は、家を売るなり、俺を殴るなり罵るなり……好きにしてくれて構わないから」 彼は私を見つめた。その瞳には、ほとんど卑屈とも言えるほどの懇願の色が浮かんでいた。 「……頼む」 私は何も言わず、その手を冷たく振りほどいた。 不動産屋のスタッフは空気を読み、そっと部屋から出ていった。 景明はその場に立ち尽くしたまま、一歩も動けずにいる。 かつて、彼はこの家の主になるはずだった。それなのに今は、初めてここを訪れた部外者のように、ひどく居心地悪そうに縮こまっていた。 「俺……親父から会社の役職を解任されたんだ。口座もすべて凍結された。 瑠香が……身籠っていたのは、俺の子じゃなかった…… あいつが通っていたジムのインストラクター、古川翔(ふるかわ しょう)の子だった。俺が……最初、君に近づいたのは……」 私は冷たく鼻で笑い、彼を真っ直ぐに見据えた。 「妻に不倫されたことへの、復讐のつもりだったんでしょ。 それで、今はどうなの?私にも血の通った心があるって、やっと気づいた?お芝居の度が過ぎたって反省でもした?ただの身代わりに、本気で恋しちゃったとでも言うの?ねえ景明、自分ではそんな展開が感動的だとでも思ってるの?」 彼の顔からさっと血の気が引いた。慌てて弁解しようと口を開く。 「違うんだ……喜乃。最初は確かに、意地になっていた部分もあった。でも、その後は……」 私はまだ、彼と冷静に向き合うことなどできなかった。声に、抑えきれない怒りがにじみ出る。 「その後?その後、あなたは私を愛人呼ばわりして、大勢の前で殴りつけて、子供を堕ろ
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第9話
私は出前の袋を手に取ってそのままゴミ箱へ捨て、指輪の入った箱を瑶季に渡した。 「景明、もう私がここに住んでるって突き止めたみたい。その指輪、後で突き返しておいてくれる?」 翌朝、早くのことだった。 瑶季がドアを開けると、そこには景明が立っていた。手には朝食の袋を提げ、目の下に刻まれた黒い隈は昨日よりもさらに濃くなっている。 彼女は驚いて小さく悲鳴を上げたが、すぐに我に返ると、持っていた指輪の箱を彼の胸ぐらに向かって投げつけた。 「これ持って、とっとと消えなさいよ!これ以上つきまとうなら警察呼ぶからね!」 「東山さん、頼むから、喜乃と少しだけ話させてくれ。顔を見たらすぐ帰るから!」 二人の言い争う声で、私は目を覚ました。玄関に立つ景明の姿を見た瞬間、足が止まり、思わず不快感に眉をひそめる。 そんな私の反応に気づかず、景明はすがりつくように叫んだ。 「喜乃!俺、瑠香と離婚したんだ!家からも追い出されたけど、今は友人の会社でプロジェクトを手伝ってて、社員寮に住んでる。月収だって二十六万あるし……」 瑶季は鼻で笑い飛ばした。 「だから何?喜乃に、あんたと一緒にどん底を這いつくばれって言うの?」 景明は言葉に詰まり、すっと声のトーンを落とした。 「違う、同情を引きたいんじゃない。ただ……俺は本気で変わろうとしてる。それを君に知ってほしかったんだ!」 廊下の奥から、買い物帰りの隣人の足音が近づいてきた。不審な騒ぎに、彼女は警戒するように景明を何度も振り返っている。 彼はいたたまれずにうつむき、朝食の袋を握る指が白くなるほど力を込めた。 「朝食、ドアの前に置いておくから。胃が弱いんだから、ちゃんと時間通りに食べてくれ」 それだけを言い残し、彼は本当にそのまま背を向けて歩き出した。一度も振り返ることはなかった。 彼が去った後、瑶季が袋を開けると、中には私の大好きな鯛茶漬けと、葉酸のサプリメントが入っていた。 相変わらず、細部まで行き届いた気配りだ。 深い愛情を演じることにかけては、彼は昔から完璧な男だった。 これほど醜く決裂したのだから、さすがの彼もこれで諦めるだろう。私はそう高を括っていた。 まさか、これが異常な執着の始まりに過ぎなかったなんて。 それからの一週間、景明はあらゆる手段で私の
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第10話
まさか、景明と再び顔を合わせる場所が、病院の救急外来になるなんて。 景明は仕事中に倒れ、救急車で運ばれたという。彼のスマホの緊急連絡先が、まだ私のままになっていたのだ。 看護師の話では、極度の低血糖と過労が原因らしい。 私はベッドの傍らに立ち、彼を見下ろした。点滴の管をつながれた腕。まるで紙のように血の気のない、真っ白な顔。 ほんの短い間に、どうしてここまでやつれ果ててしまったのだろう。 彼が重い瞼を開けた。それが私だと気づくと、数秒間呆然とし、それから這いつくばるようにして慌てて起き上がろうとした。 「私たちはもう終わったのよ。私のためにこんな惨めな真似をしないで。迷惑なだけだから」 自分でも恐ろしいほど、私の声は冷たく透き通っていた。 彼は長いこと沈黙していた。やがて、絞り出すような低い声で言った。 「昔、俺が君に買ってやった宝石も、バッグも、あの家も……結局は全部、岩田家の金だった。つまり……西園寺家から恵んでもらった金だ。 これで君に許してもらおうなんて、思ってない。ただ……俺自身の汗で稼いだ金で、君に何かをしたかったんだ」 私は彼を静かに見つめた。胸の奥に何かがつかえ、声がわずかに掠れる。 「そんな綺麗事を並べないで。あなたが今やっていることは、ただの痛々しい自己満足でしょ」 彼は何かを言いかけて、ふっと口をつぐんだ。その瞳から、すっと光が消え失せた。 彼が目を覚ました以上、これ以上ここに留まる義理はなかった。 きびすを返してドアへ向かおうとしたその時――瑠香と、翔に鉢合わせた。 瑠香は相変わらず高慢で華やかな佇まいだったが、私に向ける視線にはねっとりとした恨みがこもっていた。コートの下で膨らみ始めた私のお腹を、忌々しそうに睨みつけている。 「あなた、まだその腹の子を堕ろしてなかったわけ?」 「西園寺さん。私はあなたとも、景明とも、もう何の関係もありません。見苦しい真似はおやめいただけますか」 私は一切の感情を交えず、淡々と言い放った。 「ちっ、偉そうに口答えする気か?」 翔が苛立ち紛れに平手打ちを食らわせようと手を振り上げた。だが、その手首を、ベッドから身を起こした景明がガシッと掴み止めた。 体は限界まで弱り切っているはずなのに、彼から放たれる凄絶な気迫は少しも衰えて
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