朝になっても、篝の胸の奥にまとわりついた嫌な感覚は消えなかった。 宮守の隠れ家の外では、弱い朝日が木々の隙間から差し込んでいる。 昼の間は少なくともあの双子は表立って動けない――そう頭では理解しているのに、心は少しも休まらない。 むしろ、光の中にいるからこそ夜の記憶だけが輪郭を持って鮮明になる気さえした。 そして、影月の声が頭から離れなかった。 ――俺のところへ来い。 ――そうすれば、お前はもう失わなくていい。 あれは夢だったはずだ。 実際には何も起きていない。 ただ疲れ切った頭が見せた悪夢にすぎない。 そう言い聞かせても、その囁きは耳の奥に棘みたいに残り続けていた。 消そうとすればするほど、余計にはっきりと思い出される。 篝は小屋の外に出て、井戸端に置かれた桶の水で顔を洗った。 冷たい水が頬を打つ。 少しでも頭をすっきりさせたかった。 けれど、水を拭う指先が触れた頬に、あの冷たい手の記憶が重なる。「……っ」 思わず手を離す。 水滴がぽたりと地面へ落ちた。 灯を助けたい。 その気持ちは本物だ。 あの子を置いてくるわけにはいかない。 今この瞬間も、紅月のそばに置かれて、どんな顔をしているのかわからない灯を思うと胸の奥が焼けるように痛む。 なのに、その痛みの裏側で、もうひとつの声が囁く。 ――もう苦しまなくていい。 ――お前は張り詰めすぎている。 篝は歯を食いしばった。「違う」 小さく呟いても、誰に向けた否定なのか自分でもわからなかった。 影月の言葉を否定したいのか、それとも、あの一瞬ほんの少しだけ安堵しかけた自分を否定したいのか。 背後で戸が軋み、結城が顔を出した。「篝?起きてたのか」 いつもの結城なら、もっと軽い調子で声をかけてきただろう。 だが今の声は低く、慎重だった。 まるで篝の様子
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