(……今日もめんどくさい一日だったな……人付き合いも騒がしいのも苦手だし、修学旅行なんて疲れるだけだ) 篝はバスの座席に深く腰を沈め、流れていく窓の外をぼんやりと眺めていた。 車内は修学旅行の帰り道らしい浮ついた空気に包まれている。 笑い声、カメラのシャッター音、はしゃいだ声。 どれもが耳につき、それだけで気分が重くなった。「ねえ、篝。さっきの写真、見る?」 隣から軽やかな声が飛んでくる。双子の妹、灯だった。 彼女のスマホには、クラスメイトたちと並んだ記念写真が映っている。 中央で明るく笑う灯と、その隣で露骨に目をそらしている篝。並んでいるだけで、まるで正反対だった。「……別に」 ぶっきらぼうに返すと、灯はわざとらしく頬をふくらませた。「も〜、ほんと冷たいんだから」「それより、シートベルトは?」「はいはい、ちゃんとしてるよっ!」 そう言いながら、灯は篝の腕にするりとしがみついてくる。 昔から変わらない距離感だった。 煩わしい――そう思うのに、離れられると妙に落ち着かない。 篝にとって、それはもう日常の一部になっていた。「ねえ、帰ったらまた一緒に映画観よ?最近サバイバルホラーにハマっててさ」「……好きにしろ」「ほんと? じゃあ今度は朝まで付き合ってね」「調子に乗るな」 言葉とは裏腹に、篝は灯の髪を軽くくしゃりと撫でた。 灯は満足そうに笑う。 その顔を見ると、少しだけ胸の奥が静かになる。周りがどれだけうるさくても、灯さえ機嫌よく隣にいれば、それでよかった。 ――その時だった。 バスが突然、ガクンと大きく揺れて止まった。「きゃっ……」「……?」 エンジンが一度低くうなり、すぐに沈黙する。 車内の空気が不自然に止まった。 篝と灯は顔を見合わせる。「先生、どうしたんですか?」「……わからない。運転手さん?」 教師が前の座席から身を乗り出す。 運転手は何度かキーを回したが、エンジンはうんともすんとも言わない。 やがて青ざめた顔で教師を振り返った。「すまん……故障したようだ。少し待ってくれ」 たちまち車内にざわめきが広がる。「え、マジ?」「こんな山ん中で?」「圏外なんだけど!」 灯が不安そうに窓の外を覗いている。 山道が果てしなく続き、その両脇には木々が無言で立ち並んで
Huling Na-update : 2026-03-08 Magbasa pa