私、瀬戸琴音(せと ことね)が方向音痴なことは、榛名律希(はるな りつき)も知っているはずだ。外は凍えるような雪景色の中、私は妊娠5ヶ月の大きなお腹を抱えて、律希の姿を探し回っていた。最初はそれほど怒っていなかった。大晦日の渋滞はよくあることだからだ。だが彼は、十時前には迎えに来ると約束していたのだ。彼はLINEであちこち移動するように指示してくるばかりで、三十分経っても一向に姿を見せなかった。仕方なく電話をかけて尋ねた。「律希、いつ迎えに来てくれるの?」律希の苛立った声が響いた。「もう少し待てないのか?大晦日でどこも渋滞しているんだぞ」私が返事をする間もなく、電話は一方的に切られてしまった。ついさっき、彼はLINEで駐車場に着いたと言っていたのに。その後、篠原萌香(しのはら もえか)がSNSに新しく投稿したストーリーズが目に入った。彼女は律希が現在支援している女子大生だ。【彼がつけてくれたキスマーク】添えられた動画には、彼女の首筋にある赤い痕が一瞬だけ映り込んでいた。私は画面をじっと見つめ、その動画を何度も再生した。そこから聞こえる声はあまりに鮮明だった。「本当にいいの?彼女を迎えに行かなくて。妊娠五ヶ月なんでしょ?」男は軽く笑い、全く気にする素振りもなく答えた。「ただの迎えだ。もう少し待たせておけばいい。彼女、妊娠してからなんだか臭う気がしてね。萌香のようにいい匂いはしないよ」二時間前の投稿。車内の内装は見慣れないものだったが、間違いなく律希の声だった。手足が氷のように冷たくなり、懐で温めていた大切な契約書が、まるで価値のない紙切れのように思えた。律希は前回の投資に失敗し、会社の経営は大きな打撃を受けていた。大きなお腹を抱えた私は、今回の契約のために奔走し、会食の席で投資家から受けた嫌がらせにもすべて耐え抜いたのだ。突然、前方の車のライトが点灯し、運転席に座る律希は、何を考えているのか判然としない表情を浮かべていた。彼は車を新調していたのだ。三十分前、私が道に迷って歩き回っていた時から、この黒いベントレーはすでにここにあった。不自然に揺れる車体は、多くの通行人の目を引いていた。胸のつかえが取れず、鼻の奥がツンとするようなやるせなさが広がった。「どこか中で待てなかっ
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