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第3話

Author: 世界は巨大なスイカ
律希はまだ何か言いたげだったが、私がお腹を撫でる動作に気づくと、決まり悪そうに話題を変えた。「……さっきは、少し言い過ぎた。悪かったよ」

彼が自ら折れてくるなんて、初めてのことだ。以前の私なら、そんなささやかな施しにすら有頂天になって、涙を流して喜んでいただろう。

だが今の私は、ただ静かに顔を背け、楽な姿勢を探して目を閉じるだけだった。

車はのろのろと進み、私は少しうとうとしていた。

その時、不意にカーナビの音声が響いた。「ルートを外れました。新しいルートを検索します」

どういうわけか、律希は高速道路に乗っていた。

家へ帰るには、蒼葉大橋を渡るだけでいいはずなのに。

私の訝しげな視線に気づいたのか、律希は珍しく自ら口を開いた。「萌香のフライトが遅れてるんだ。彼女を拾って、一緒に年越しをしようと思って」

本来なら、萌香は実家に帰って正月を迎えるはずだった。

現在、空港へ向かう道路は完全に渋滞しており、ナビの画面は真っ赤に染まっている。

私は今夜、高速道路の上で夜を明かしたくはなかった。

「だったら、この先のサービスエリアで私を降ろして。そこからタクシーを呼んで帰るから」

こうして途中で放り出されるのは、一度や二度ではない。私は慣れた手つきでシートベルトを外した。

「琴音、萌香はただの妹のような存在だ。子供みたいなワガママを言うな」

突然、隣の車線の車がスリップして左に寄り、私たちの車の後部に軽く追突した。

体が思わず前に投げ出されそうになり、次の瞬間、律希にきつく抱きしめられた。

氷のように冷たい言葉が耳に突き刺さる。「琴音、死ぬなら一人で死ね。俺の子供まで道連れにするな」

そうか。結局、私よりも子供のほうが大事なのだ。

一晩中溜め込んでいた惨めさが涙となって溢れ出し、私は無意識に手の甲で顔を覆った。

「律希、あなた以前にも私にそう要求したわよね?」

私は彼の方に向き直り、はっきりと言い放った。

前回の結婚記念日、律希は私を小島への旅行に連れて行ってくれた。けれど、途中で萌香からの電話一本が入っただけで、私を置き去りにして一人でクルーザーを出してしまった。

妊娠三ヶ月の時、不注意で転倒してしまったこともあった。病院に送ってくれてもいいはずなのに、彼はわざわざ救急車を呼んだのだ。理由はただ一つ、萌香が彼の車に「変な臭い」がつくのを嫌がってるから。

妊娠してからの私は、時折、尿漏れを堪えきれなくなることがあった。

「助手席は妻の特等席」なんてよく言われるけれど。

律希にとって、その場所はいつだって萌香のためのものだった。

私は最初から、彼の優先順位の一番にはなれなかったのだ。

「去年の忘年会だって、結婚記念日だって……」

私たちが過ごすはずの、数少ない大切な時間は、いつも萌香に土足で踏みにじられてきた。

「もういい、黙れ」

律希は苛立ちを隠そうともせず、空気を入れ替えるように窓を少し開けた。だが、直後、後方の車から怒号のようなクラクションが浴びせられた。

「おい、何やってんだ!前が空いてるぞ!

こっちは家族と水いらずで正月を過ごすために急いでんだ。邪魔しないでくれよ!」

その言葉に刺激されたのか、律希は意地になってサービスエリアを通り過ぎ、空港へ向かう道へと直行した。

「琴音、いちいちそんな些細なことを持ち出して、俺に恥をかかせたいのか?」

理不尽なことに、私は彼の八つ当たりの対象になっていた。

私が鼻で笑い、反論しようとしたその時。下半身から温かい液体が流れ出しているのに気づいた。

うつむいた瞬間、ベージュのスカートはすでに赤く染まり、シートにまでポタポタと滴り落ちていた。

私は慌てて彼の方を向いた。「律希、救急車。早く救急車を呼んで!」

だが、彼は私に一瞥もくれず、スマホの画面を見つめたまま答えた。「少し待ってろ」

午前零時ちょうど。新しい年の訪れを告げる除夜の鐘が遠くでゴーンと重々しく響き渡り、私の何度かの助けを呼ぶ声を飲み込んだ。

同時に、スマホの画面上で特別にピン留めされた萌香とのトーク画面が明るく灯った。律希は、萌香に新年最初の祝福を送り届けたのだ。

さっきの私の助けを呼ぶ声をようやく思い出したかのように、彼は振り向いて尋ねた。「君、さっき何て言った?」

一面に広がる真っ赤な血が、彼の目にくっきりと映り込んだ。

この時、私にはもう微塵の焦りもなかった。かつて彼が私に求めたように、寛大な態度で律希に告げた。「大丈夫よ、あなたたちの新年の挨拶の方が重要だもの」

彼が言った言葉を、一言一句そのまま繰り返す。

「私なら、待てるわ。いつまでだって、待ってあげる」

すべての選択権を、彼の手の中に委ねた。

律希の顔からみるみる血の気が失せていく。ようやく事の重大さに気づいたのか、彼は血相を変えてクラクションを鳴らし続け、強引に道を切り開こうとし始めた。
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