祖母は亡くなった。心臓発作だった。救急処置もむなしく、その場で息を引き取った。病床に横たわる祖母の遺体を見下ろしながら、私は三時間前のことを思い出していた。婚約者・坂井瑛士(さかい えいじ)の手を握り、祖母を救ってほしいとすがりついたあの瞬間を。瑛士は有名な心臓外科医だ。彼が助けてくれれば、祖母は必ず生き延びられる。婚約者である私の頼みなら、きっと力を貸してくれる――そう信じていた。しかし、息を切らして彼の前に駆けつけ、必死にすがった私に、彼はひどく平静な目で見返した。まるで、普通の患者家族に接するような、淡々とした口調で言った。「気持ちはわかるけど、医者として公平にしなきゃいけないんでね。俺の患者はみんな、順番待ちしてるんだ」一瞬、何を言われたのか理解できなかった。我に返ると、私は彼の腕を掴んでいた。彼が事の重大さをわかっていないのだと思った。「瑛士、おばあちゃん、本当にもう駄目なの!あなたが来てくれなかったら、死んじゃう!たった一人の肉親なのよ。おばあちゃんがいなきゃ、私……」「奈々(なな)、いい加減にしろよ」瑛士は私の手を振り払い、背を向けて去っていった。その瞬間、怒りで全身が震えた。彼が私を愛していないことくらい、わかっている。三年前、彼の初恋の人・宮沢夢乃(みやざわ ゆめの)が留学で彼のもとを離れていなければ、私なんて選ばれなかったのだから。それでも、私は彼を愛していた。たとえ自分が、彼の夢乃への想いを受け止めるだけの存在でも。しかし、夢乃が半年前に帰国した。彼女は「私、絶対に邪魔したりしないから。お二人のこと、心から祝福してるよ」と、澄ました顔で言った。でも瑛士の心は、もう彼女のものだった。それでも、私は彼を責められなかった。きっと私の何かが気に入らなかったのだと、言い訳を探した。彼は絶対に私を見捨てたりしない。何度も何度も、そう自分に言い聞かせた。だから私はひざまずいた。病院の廊下で、人目もはばからず、頭を深く垂れた。「瑛士、お願い……三年も付き合ってきたんだ。おばあちゃんを救って」「立てよ。ここは病院だ。そんな芝居はやめろ。恥ずかしい」そう言い残し、彼は歩き去った。それから間もなく、祖母は息を引き取った。……朝まで祖母の病床のそばに座り込んでい
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