年明け、夫の賀川明輝(かがわ はるき)の教え子たちがわざわざ学校へ遊びに来て、彼が食事をご馳走することになった。学生たちは口々に「先生」「奥さん」と親しげに呼んできた。ただ、初めて私を見た時の視線にはどこか驚きの色が混じっていた。個室で明輝が私の手を握ると、皆が一斉にひやかした。「お二人、本当にラブラブですね。超羨ましいーー!」私、桜庭柚月(さくらば ゆずき)は照れたようにうつむき、トイレに行くと言って席を立った。すると、廊下で女子学生二人の話し声が聞こえてきた。「さっきびっくりした!奥さんって水城澪(みずき みお)先輩かと思ったもん!」「でも澪先輩にそっくりよね、入ってきた時、マジで見間違えるところだった」私はその場に呆然と立ち尽くした。澪が明輝の元カノだということは知っている。けれど、実際に会ったことは一度もなかった。冷たい水が手に当たるのを感じながら、鏡に映る念入りにメイクした自分を見つめていると、突然吐き気がこみ上げてきた。元の席に戻ると、学生たちはまだ飲んで騒いでいた。明輝は、隣の男子学生の乾杯の言葉に、少し耳を傾けていた。その横顔を見ていると、これまでのことが次々と頭に浮かんできた。明輝は自分の意見をはっきり持つ人だ。とくに私の服装やメイクに関しては。付き合い始めてから今まで、私の服はほとんど彼が選んで買ってくれた。私がミニマル系やスポーツ系を好んでいても、彼はいつも決まった様子の服ばかりを買ってくる。フレンチ風のワンピースと、ニットのカーディガン。差し色ひとつないカシミヤのコート。それに、小ぶりで丸みのある真珠のアクセサリー。今日も家を出る前、私は黒のツイードジャケットを着るつもりだった。でも彼は眉をひそめ、今私が着ているこの白いワンピースを選んだ。これまでは、ただ彼の好みの問題だと思っていた。けれど、さっきの会話を聞くまでは、すべてが、どこかおかしく思えてきた。ぞっとするほどに。学生たちが私を見る表情は、あまりにも妙だった。「奥さん」と呼ぶその声に、明らかに意味ありげな笑いが混じっていた。……騒がしい個室に、チェロの低音が唐突に流れた。BGMがインスト曲に切り替わった。すると、女子学生の一人が思わず口にした。「あれ、
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