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第2話

Author: スパイシーエビだん

翌日は週末だった。

けれど明輝は大学のプロジェクトで休日出勤になり、朝早くから出かけていった。

私は一人で家に残された。

当初は彼の通勤が少しでも楽になればと思って、この家を買うことに決めた。

部屋はどこを見ても、いかにも女の子が好きそうな雰囲気でまとめられている。

でも私は、そんな甘い女の子らしさが、あまり好きじゃなかった。

内装を決めるときも、明輝は何度も何度も言った。

こういうほうが、家らしくてあたたかいだろうって。

私は彼が好きだったから、全部受け入れた。

今になって思う。

こういうものが本当に好きだったのは、私じゃなくて、別の誰かだったのかもしれない。

私は、澪みたいな服を着て、澪が好きそうな部屋に住み、澪の好きな曲を聴いているのだ。

私はソファに長いこと座ったままだった。

気がつけば日が傾き、部屋の中は薄暗くなっていた。

涙はもう乾いていた。

そのかわり、心は不思議なくらい静かだった。

私はスマホを手に取り、支社の責任者に電話をかけた。

「社長、前におっしゃっていた支社への異動枠、まだ空いていますか?

受けたいです。それと、会社で用意していただけるマンションにも入りたいです」

社長の松本さんは少し驚いたようだったが、すぐに了承してくれた。

「マンションはずっと空いてるよ。掃除と準備に三日くらいかかるから、三日後にそのまま出社してくれればいい」

「はい。ありがとうございます」

……

夕方、明輝が帰ってきた。

手にはケーキの箱があった。

「今日、わざわざ並んで買ってきたんだ。お前の好きな栗のケーキ。

そうだ、もうすぐ俺の誕生日だろ。今年はどう祝ってくれる?」

私は視線を落とし、きれいに包装された箱を見つめた。

栗は好きじゃない。昔から、ずっと。

前に一度だけそう伝えたことがある。

でも彼は、たぶんすぐ忘れたのだろう。

そのあとも相変わらず、何度も栗のケーキを買ってきた。

私が無理して食べるのを見て、満足そうに笑っていた。

私は受け取らなかった。

期待に満ちた彼の顔を見て、淡々と聞いた。

「私のこと、好き?」

明輝は一瞬だけ目を見開き、それからふっと笑った。 私の髪をくしゃりと撫でる。

「何言ってるんだよ。また変なこと考えて。

愛してるに決まってるだろ。お前じゃなきゃ、誰を愛すんだよ」

私はわずかに口元を引きつらせただけで、何も言わなかった。

ケーキはそのまま冷蔵庫に入れられた。 私が食べたかどうかなんて、明輝は気にもしていなかった。

彼はそのまま浴室へ入っていく。

私は書斎に向かった。 退職の引き継ぎに使う書類を探すためだった。

机の上には、明輝のノートパソコンが置かれていた。 画面はついたままで、LINEが開いていた。

別に、覗くつもりなんてなかった。 けれど、次々に表示される通知が、嫌でも目に入ってしまった。

グループ名は――水城先輩親衛隊。

【水城先輩、明日到着するって。ちょうど明後日の夜は賀川先生の誕生日だし、歓迎パーティーをやろう!】

【会場の飾りつけも終わったよ。全部、水城先輩が大好きな白いリシアンサス。絶対感動して泣くって!】

【でも、奥さんのほうはどうするの?】

【水城先輩の歓迎パーティーなんだから、別にいいじゃん】

最新のメッセージは、明輝からだった。

【あんたたち騒ぐな、彼女を驚かせないでくれ。俺少し遅れて行くから】

この「彼女」が、私でないことは言うまでもない。

さっき、明輝に「今年はどう祝ってくれる?」

そう聞かれたばかりだった。

胸の奥がじんと痛み、目がひどく熱くなった。

それでも、涙は一粒も出なかった。

サプライズは、もうとっくに用意されていた。 驚かせたい相手も、最初から決まっていた。

私はまるで部外者で、何かを準備する必要すらなかったのだ。

私は視線を逸らし、何も見なかったふりをして、静かに書斎を出た。
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