たった一人で義母の高森桂子(たかもり けいこ)の介護に明け暮れた七年間だった。お義母さんが息を引き取ってようやく、私、夏目晴音(なつめ はるね)は久しぶりに夫の高森瑛人(たかもり えいと)と顔を合わせた。葬儀を終え、自分と娘の高森心音(たかもり ここね)の荷物をまとめ、瑛人と一緒に都心へ移り住む準備をしていた時のことだ。思いがけず一人の女が私の前に現れ、一枚の婚姻届の受理証明書の写しと、数枚のウェディングフォトを投げつけた。女は傲慢な態度で言い放った。「私は紅林千夜(くればやし ちよ)。瑛人の正妻よ。お義母さんが死んで、あなたの役目はもう終わったの。二度と私の夫に連絡しないで」私は呆然と立ち尽くし、全身の震えが止まらなかった。祭壇に飾られたお義母さんの遺影の笑顔が、私の愚かさを嘲笑っているように見える。……床に散らばったウェディングフォトの光景が、私の胸を鋭くえぐった。震える両手でウェディングフォトを拾い上げると、そこには瑛人と千夜が穏やかに、幸せそうに微笑む姿が写っていた。荒れた指先で婚姻届の受理証明書の写しをなぞると、そこに押された無機質な役所の公印が、残酷な現実として突きつけられていた。私はふとあることを思い出し、戸棚へ駆け寄って、大切に保管していた自分と瑛人の「婚姻届の控え」を取り出した。そこには役所の公印はなく、代わりに子供騙しのような、いびつな赤いスタンプが押されているだけだった。私はこれまで何度も、この紙切れを撫でてきた。田舎に残り、認知症で寝たきりの義母に明けても暮れても振り回されていた私にとって、それはたった一つの心の支えだった。そして、決して折れることなく娘を産み、たった一人で育てる勇気の源でもあった。しかし今、目の前の女は、これらすべてが偽物だと告げている。私は口を開き、反論しようとした。だが喉の奥が詰まったようになり、途切れ途切れに声を絞り出す。「でも瑛人は私と結婚したはず……私たちには心音もいるのに。瑛人が私を騙すなんて……」千夜は書類とウェディングフォトを取り返し、顔色ひとつ変えなかった。「瑛人が本当のことを言うわけないでしょ。真実を知ったら、あなたが寝たきりの母親なんて放り出すに決まってるもの。よく見なさい。私と瑛人は五年前に結婚しているの。息子
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