私は十月十日お腹の中で育てて、病院でようやく子どもを産む。けれど、傷口がまだ癒えないうちに、その子は何者かに連れ去られてしまう。私は悲しみに打ちひしがれ、来る日も来る日も涙に暮れる。長い間探し続けても、子どもの行方はわからないまま。あまりにも落ち込む私を見かねて、夫の志賀大輔(しが たいすけ)はこっそりと私に内緒で養護施設から女の赤ちゃんを引き取ってくる。「この子を実の子だと思って育ててほしい」目の前の赤ちゃんを見つめながら、私はしばらく黙り込む。私が育てたくないのだと勘違いしたのか、彼は慌てて説明し始める。「ちゃんと確認してある。健康状態は問題ない。家庭の事情で捨てられたのかもしれないけど、ほら、こんなに可愛い。手続きも全部問題ないし、あとで揉めることもない。出産であんなに苦しんだんだ、もうこれ以上つらい思いはさせたくない。大事に育てていこう、いいだろう」私は何事もないように頷き、瞳の奥に別の光を宿す。「ありがとう、この子は大切に育てる。これからはこの子に、私たちの娘の代わりをしてもらう」夏の夕暮れ、私は赤ちゃんを抱いてマンションの敷地内を散歩する。周りの人たちが興味津々で集まってくる。その中の一人の女性が不思議そうに尋ねる。「結奈(ゆいな)さん、娘さん見つかったの?この前、大輔さんからいなくなったって聞いて、本当に心配してたのよ。よかったわね、見つかって。神様のおかげね」私は淡く微笑む。「いいえ、うちの子はまだ見つかっていない。この子は大輔が養護施設から引き取った子なの」女性の顔に驚きが走る。「引き取った子なの?まあ、どうしてわざわざ他人の子なんて。子どもがいなくなったなら、また産めばいいじゃない。他人の子はね、なかなか情が通わないものよ」私は穏やかに笑って答える。「大輔がもう産ませたくないって言うの。私がつらい思いをするのが嫌だって」周囲からは感嘆の声が上がる。「本当に優しいご主人ね」「奥さんが痛い思いするのが嫌で産ませないなんて、聞いたことないわ」「でもね、自分の子はやっぱり必要よ。年を取ったら寂しくなるわよ」ざわざわとした声を聞きながら、私はやわらかな笑みを浮かべる。「大輔は、この子を実の子として育てるって言っている。私も同じ気持ち。心を尽くせば、き
Read more